
「子ども2人産んでおいてよかったね。まだ1人残ってるから」居眠り運転のトレーラーに衝突され6歳の息子を亡くした母親 心ない言葉に打ちのめされた日々 “二次的被害”に苦しむ遺族の実体験を朗読劇で伝える

「元気でやっていますか。そちらは寒くないですか。早くそばに行って抱きしめてあげたいけれど、母さんはまだこちらにいなくてはならないみたいです」
9月10日、名古屋市中区の青少年文化センターで、朗読劇が上演されました。内容は、交通事故で幼い子どもを亡くした家族の物語。演じるのは、交通事故で家族を亡くした遺族たちです。心ない言葉もかけられたという遺族の実体験を、朗読劇で伝え続けています。
交通事故で息子を亡くした母親の実体験 伝え続ける理由

愛知県弥富市に住む阪口玲香さん(50)は、朗読劇に出演する遺族のひとり。交通事故で当時6歳の息子・若葉くんを亡くした母親です。
2002年8月。東名阪自動車道で、渋滞の列に居眠り運転の大型トレーラーが突っ込み、車は炎上。阪口さんの母親・弟・若葉くんを含む5人が亡くなりました。

サッカーのゴールキーパーや『ヒカルの碁』に憧れる、好奇心旺盛だった若葉くん。その命は、わずか6歳で絶たれてしまったのです。
阪口玲香さん:
「その中でも若葉のひつぎはやっぱり小さいものだったので、なんでそんな小さいひつぎに入らなきゃいけないんだって、自分の若葉がなんでそこに入らなきゃいけないのかな」

阪口さんの元に戻ってきたのは、衝撃で車から飛び出したのか、若葉くんのリュックだけ。23年前のまま、残っています。
阪口玲香さん:
「亡くなると、あの子はいい子だったんだよとか、すごい人みたいになっていくのが逆にいやっていうか。普通の子でいいから元気に育ってほしかった」
自分たちと同じ思いをする人がいなくなるように。その思いを胸に、阪口さんはこれまでも、小学校で命の尊さを伝える写真展を開催したり、運転免許試験場でドライバーに安全運転を呼びかけたりするなど、さまざまな活動を行ってきました。

そして新たに始めたのが、遺族たちの体験を元に作った朗読劇。
もし、自分や大切な人が事故に遭ってしまったら…。聴く人それぞれに感じてもらうため、朗読劇に臨みます。劇中にはこんなセリフが。
『憎いです。こんなに人を憎んだことは今までにありません。娘の好きだった母さんは、人を憎むような母さんではなかった。そう思うと、憎しみを抱いた自分がいやになり、ごめんね…ごめんね…と思わずつぶやいていました』
『ビラ配りをしていると人の思わぬ姿に出会います。温かい言葉をかけてくれる人も、もちろん多いのですが、信じられない言葉を口にする近所の方や知り合いもいました』
『子ども2人産んでおいてよかったね。まだ1人残っているから』
『あなたはしっかりしててすごいよね。私だったら生きていけないわ』
『まだひきずってるの? 子どもが成仏できないよ』
『私も暴飲暴食して居眠りしたりするからねぇ。加害者の人も気の毒だよね』

セリフの中には、若葉くんが亡くなった後、実際に知人からかけられた言葉も入っています。
阪口玲香さん:
「『自分も居眠り運転しちゃうから加害者の人も気の毒』『その気持ちもちょっとわかるわ』みたいなことを直後に言われたんですよね。言われたときスーって血の気が引いて、何も反応できなかった。逆に言ったら本心ですよね」
事件・事故に遭った人に、どう接するべきか。観客に感想を尋ねると「励ましの言葉をかけたつもりが傷つけてしまう場面があったので、気をつけていこうと思う」「私もハンドルを握るので、加害者にも被害者にもなる可能性がある。身の引き締まる思いでした」と話していました。

阪口玲香さん:
「つらい、悲しい、口に出すのもつらい。けれど、やっぱり知ってほしいって最後に出てくる。知ってほしいって伝えることによって、周りと支え合いながら生きていきたいという思いがあるから、この上演をしているんじゃないかな」
直接的な被害以外の経済的な損失、精神的な苦痛、心身の不調、プライバシーの侵害などは、事故や事件の遺族に対する「二次的被害」と言われます。
距離をとってしまったり、反対にあれこれと尋ねたりすることで、傷つけてしまう場合も。阪口さんは、交通安全の願いとともに、こうした遺族の思いを知ってほしいと、活動を続けています。