
連覇途絶えた名城大学女子駅伝部 涙の“女王陥落”から1年で“王座奪還”を誓うも…苦悩する最強学年 4年生が見せた意地の走りがチームを変える

女王陥落の悔し涙から、再び立ち上がることはできるのでしょうか。最強学年といわれながら伸び悩みが続く新4年生たちは、王座を奪還するために変化を迫られていました。全日本7連覇を成し遂げ、かつては“絶対女王”の名をほしいままにした、あのチームに迫ります。
どん底からはい上がるため最強学年に迫られた“変化”

2017年から7年間、全日本大学女子駅伝で連覇を続けた名城大学女子駅伝部。
しかし、去年は故障者続出で苦しい展開となり、女王の輝きはありませんでした。8年ぶりに王座を譲ると、12月の大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)では、まさかの8位。二大駅伝とも連覇を逃したどころか、創部30年でワースト順位となってしまったのです。

レース後、米田監督は翌年の主力となる3年生(新4年生)の6人だけを残し、厳しい言葉で諭しました。
米田勝朗監督(57):
「この1年見てきて、厳しい言いかたをすれば、この学年が一番まともに練習していない、一番競技のことを真剣に考えていない学年。下の学年の方がよっぽど考えている。それじゃダメだよ。そういう上級生ならいらない」

この学年には、世代ナンバーワンとして1年のとき区間賞デビューをした米澤奈々香選手や、中学ナンバーワンとして7連覇のときチームに流れを引き寄せた石松愛朱加選手、2年生のときから2年連続エース区間を走る原田紗希選手などを擁する、名城史上最強学年といわれながらも、ここ1~2年は伸び悩んでいました。
6人が変われば、チームは絶対に変わる。本来ならば、新4年生の6人で駅伝を組めるぐらいの実力の持ち主ばかり。王座奪還のためには今までの姿勢を全て変える必要があると、米田監督は伝えたのです。
もがき続ける最強学年「このままでは去年と同じ…」

5月14日、名古屋市天白区の名城大学第二グラウンドでは、前半シーズンの大一番となる、トラックレースの大学日本一を決める日本学生選手権(インカレ)に向け、チーム練習が行われていました。
あの悔し涙から5か月。新チームは変わることができたのでしょうか。米田監督に話を聞いてみると…
米田勝朗監督(57):
「完璧に今チームが変われているかといったら、まだまだかな。ただ、10月の全日本女子駅伝に向けては、すごく手応えは感じています」

今年1月に新チームとしてスタートしてから、米澤キャプテンを中心に例年以上に走り込みを行ってきました。今年のチームスローガンは『走りで魅せる 王座奪還』です。
キャプテン 米澤奈々香選手(4年):
「去年すごく苦しんで、駅伝も連覇を途絶えさせてしまったので、あの1年の悔しさがあったからこそ今年があったと言えるような年にしたい。主将として最高のチームにしたいと思います」
しかし、3月末の宮崎合宿では、1~2月の走り込みが影響したのか、キャプテンの米澤選手が右足首の故障でしばらく走れない状態に。さらに、2年連続エース区間を走った原田選手も右かかとを疲労骨折、石松選手が体調不良など、4年生を中心に、次々とチーム練習から離脱していきました。

そんな緊急事態の中、合宿最後まで練習を続けていたのが、副キャプテンの柳樂あずみ選手。1年生で世界大会の日本代表に選ばれるなど鮮烈デビューしましたが、彼女もこの4年間、伸び悩んできた1人です。
米田勝朗監督(57):
「あずみの気持ちの持ち方だけど、練習に対して嫌だなキツいなって雰囲気を出しすぎ。出てしまっている。前にも言ったけど、ちゃんとやれない4年生がいたらチームは不幸になるから」

そんな状況で迎えた4月。全国の大学生たちが集まる陸上の大会・日本学生個人選手権で輝きを見せたのは、新加入した1年生の細見芽生選手(広島・銀河学院高校出身)と橋本和叶選手(新潟明訓高校出身)でした。駅伝の各大学エースたちが集結する10000mに出場した2人。
名城大学としては入学早々この距離に挑戦するのは異例のことですが、細見選手が2位、橋本選手が3位と大健闘! なんと2人そろって、7月にドイツで行われるワールドユニバーシティーゲームズの日本代表を勝ち取りました。
一方、4年生は、出場できたのは2人だけ。柳樂選手は1500mで10位、調整が遅れていた石松選手は出場するのが精一杯で、5000mで13位という結果に終わり、思うような走りができませんでした。

この結果に、日本学生個人選手権から帰ってきてすぐに、石松選手が招集をかけてチームミーティングが行われました。このままでは去年と同じ。試合に出て感じた危機感を、石松選手が部員たちの前で話しました。そして…
石松愛朱加選手(4年):
「私の中で何かを変えなきゃいけないと思った。今、自分に何ができるかなと考えたときに、10000mに挑戦すると決意。自分の中の意識もあがってくるし、チームを引っ張る姿を後輩に見せられるかなと思ったから」
先頭に立って走りで魅せる。苦手だった長い距離、初の10000mに挑戦することを宣言したのです。
インカレ出場を目指し…苦手な長距離に初挑戦!

石松選手の10000m初挑戦は、5月17日に開催された中京大学土曜競技会となりました。2週間後に迫るインカレに10000mで出場するには、標準記録34分40秒を突破しなければいけません。
そのサポートをしたいと、翌日から教育実習のためチームを離れるキャプテンの米澤選手や後輩たちがペースメーカーを務めました。
5000mまで米澤キャプテンが予定通りの17分3秒で刻むと、7600mまでは3年生の瀬木選手が引っ張り25分56秒を記録。

チームに支えられながら残り1周を走りきり、なんと初の10000mでA標準をきる33分56秒をマーク。インカレ出場を決めました。
石松愛朱加選手(4年):
「今日のタイム(33分56秒)だけでみると、ライバル校がいかに強いのかわかったので、インカレまで2週間しっかり練習したいなと思います」
インカレで見せた4年生の意地 変わり始めたチーム

そして迎えたインカレ本番。
レースは、序盤から留学生が抜け出す展開になりました。各大学のエースがそろうこの種目で、2週間しっかり調整してきた石松選手は、序盤から2位グループにしっかりつきます。
石松愛朱加選手(4年):
「(いつも言われている)集中!集中と思って走っていた。4年生ということで、プレッシャーも全部背負うべきだと思っている」

終盤、2位グループは6人に。そして、ラスト1周の鐘が鳴り、石松選手は最後の力を振り絞りラストスパート。
1年生の細見選手が33分23秒46で2位に入ってから、わずか5秒後、石松選手は2週間前の記録を30秒縮めた33分28秒35で見事5位入賞。なんとか4年生の意地を見せました。
石松愛朱加選手(4年):
「私は言葉で伝えるよりも競技への姿勢で伝えることが一番大事だと思うので、今日は少し…背中で見せられたかなと思います」
石松選手は、この2日後に5000mにも出場し、最後まで粘って日本人4位に入りました。

こうした石松選手の姿勢にチームは確実に変わってきていて、去年の夏合宿は故障者だらけでしたが、今年はフルメンバーに近い形で走り込みができそうだということです。
王座奪還に向けて変わり始めた名城大学女子駅伝部。今年の全日本大学女子駅伝では、強く生まれ変わった新たな“絶対女王”の姿を見せてくれるかもしれません。
(取材協力:日本学生陸上競技連合)