
「出戻り」側の決断には葛藤も…トヨタなど大手でも広がる『アルムナイ採用』一度退職して触れた“外の文化”への期待

一度退職した人をまた同じ会社が採用する「アルムナイ採用」が、大手企業などでも広がっている。企業にとっては採用コストを抑えられるうえ、社員が外で培った経験を再び会社に還元できるのが魅力で、新たな採用の形として注目されている。
■ミスマッチのリスク低く、コスト低減…『アルムナイ採用』の魅力
名古屋市中区の三菱UFJ銀行で8月、一度は退職した人に「もう一度、銀行で働くこと」を考えてもらう、『交流会』が行われていた。 元銀行員: 「6年ぐらい前に退職したんですけど、一生懸命お仕事をしていた時間と、退職した時間がそろそろ同じぐらいになっちゃって、今日はすごく緊張しています。よろしくお願いします」 現役の銀行員: 「『戻ってきてください』と言うのはあれなんですけど、仲間が増えたらうれしいなとは思っております」 元銀行員: 「辞めたのは5年前です。戻りやすかったら、戻りたいという気持ちもありますけどね」
「終身雇用が当たり前」だった時代では、入社すれば最後までその会社にいることが常識だった。しかし、転職・離職も珍しくなくなった今、かつての仲間をもう一度採用するケースが広がっている。 「アルムナイ採用」は、英語の「卒業生」を意味する言葉から、そう呼ばれている。“初めまして”からの中途採用などよりミスマッチのリスクも低く、採用にかけるコストも抑えられるのが特徴だ。
リクルートのアンケート調査では、退職した社員の“出戻り”を「受け入れている」と回答した企業は、55.5%にのぼるという。(従業員30人以上の企業を対象)
■「出戻り」に不安もあったが…“外で得たスキル”を還元へ
あの「世界のトヨタ」も、アルムナイ採用を取り入れている。 社内研修の計画を立てるなど、トヨタの人材育成に携わる坂元みゆきさん(39)も、戻ってきた1人だ。
「最初の入社」は2009年。夫のロシアへの海外転勤をきっかけに、2021年に退職した。ロシアにいる間に、オンライン授業でMBAも取得したという。 帰国後、一度は人材育成のコンサルティング会社に入ったが、2025年1月にアルムナイ採用で再びトヨタに。退職前よりパワーアップして戻ってきた。 坂元みゆきさん: 「いろんな会社さんの人材育成や組織開発における課題感に携わっていけるのは、すごく魅力だったんですけれども。一緒に汗をかいて、本当に変えていく方をがっつりやりたいなという思いがあったので。(Q.出戻りの葛藤は?)それはちょっとありましたよ。1回離れたのに、どうやって受け止められるんだろうとか、そういう不安はちょっとありましたね」
そんな不安に対し、同僚からは…。 入社5年目: 「トヨタではない環境を知っておられるからこそ、トヨタの職場の雰囲気や風土などを、すごく俯瞰して見られているのかなと」 入社17年目: 「アルムナイの人が来ると、新しい風を持ってきてくれつつ、いろんなつながりを新しくつくってくれるなと感じています」 「100年に一度の大変革」といわれる自動車業界。2023年からアルムナイ採用を始めたトヨタの狙いは、“新しい風”だ。 トヨタ 人材開発部 組織開発・育成室の兒玉あおいグループ長: 「トヨタは割と、退職した人がまた戻ってくるというところに、結構ネガティブな風土があったんですけれども。外で得られた知見をトヨタにも生かしていただく、貢献していただくところと、外の文化をどのようにトヨタ自動車のメンバーに伝えると伝わりやすいのかとか、見えていない部分、そういったものを補ってくださる方なのかなと私自身は感じています」
“トヨタの外”で得たスキルは、惜しまずトヨタのために。坂元さんは新入社員との面談で、「課題」だけでなく「成功体験や強み」を引き出し、自己肯定感を高めるように意識している。 坂元さん: 「自分から『こういうのをやったらいいんじゃないですか』と“カイゼン”提案してみるとかどう?」 新入社員: 「はい、がんばります」
仕事が終われば、小学2年生のわんぱくな息子を育てるお母さんだ。 自宅でも時間を見つけて、仕事のための学びを続けている。
Q.働くってどういうこと? 坂元さん: 「すごい難しいこと聞きますね…。自分のやりたいことをやるみたいな感じとか、自分が生き生きいられるものの一つかなって。出会いって感じかもしれないですね。いろんな人と一緒に何かを作り上げるとか、そういうのがすごく楽しいなと思います」
■将来の人手不足に備え…これまでに12人が戻ってきた「名鉄」
「スキルを武器に、もう一度働きたい」という気持ちに応えるアルムナイ採用だが、オフィスで働く人だけが対象ではない。 名古屋鉄道では、列車の乗務員や運転士を含め、これまで12人がカムバックした。寒河江海斗(さがえ・かいと 26)さんは、アルムナイ採用で2025年8月に戻ってきた乗務員だ。
鉄道が好きで高卒で名鉄に入ったが、父親の病気もあり、2021年に退職。戻った地元のローカル鉄道では、運転士にも挑戦した。 名鉄からの復帰の誘いや、体調が回復した父の後押しもあり、企業風土も理解している即戦力人材として、再び「赤い電車」に。将来的な人材不足に備え、ゆくゆくは、名鉄でも運転士になることを目指している。 寒河江海斗さん: 「前の企業で運転士という業務を経験させてもらって、ここでは経験できないようなことをたくさん経験してきたと自分では思っているので、その経験もうまく組み合わせていきながら、第一線で活躍できるような人材になれるかなと」
転職先で得た経験値を、元居た会社に還元する。新たな好循環がうまれている。
■自分に合う仕事とは…アルムナイ採用は“きっかけの1つ”に
トヨタのアルムナイ採用組、坂元さん。社内研修に向けて打ち合わせに向かったのは、トヨタに戻る前に働いていた人材育成コンサル会社「グロービス」だ。 坂元さん: 「同じチームです、3人。よく覚えています。2人に教えてもらっていたので、本当に」
互いをよく知る、かつての同僚にも力を借りながら、トヨタでの仕事をよりよいものにしている。 坂元さん: 「アルムナイみたいな形で広がってきたことによって、自分にあった仕事だったりとか、自分の能力や強みを一番発揮できる仕事ってなんだろうと探せるきっかけの一つになっているんじゃないかなと思うので。みんなが強みを発揮しながら、力を合わせてやっていくことが大事だと思うので。そういった人をつくっていくことに寄与していくことをやっていきたいなと思います」
2025年10月17日放送





