「私が一番覚えているのは『俺の最終目標はゆみちゃんと結婚すること』と言ってきたことです」
こう話すのは、女手ひとつで15歳の長男を育てる愛知県在住の吉田由美子さん(仮名)35歳。
結婚を前提に、真剣交際していた男性がいました。

色違いのエプロンを身に着け自ら写真撮影する、こちらの男性。
実は、既婚者が「独身」だと偽り交際する「独身偽装」を行っていたのです。
長男の「自分のことを考えて」という一言から、再婚を考え…

吉田由美子さん(仮名):
「1年3か月ほど交際をして。『結婚』の話とかもしていて」
これまで、仕事と子育てに明け暮れ、誰とも交際をしてこなかった吉田さん。長男(当時12歳)からの「自分のことを考えて」という一言から、「独身者用」のマッチングアプリに登録。
2023年4月に、出会ったのが。
吉田由美子さん(仮名):
「3歳年上の方と出会って看護師だったんですけど、"独身"だと。1か月ほどメールのやりとりをアプリ内でして、3回目にお会いした時に『交際してほしい』ということを言われて交際を開始したという感じです」

アプリでの出会いに不安がぬぐえず、交際前に、「離婚済み」であることを確認すると。
吉田由美子さん(仮名):
「『(元妻)の子どもへの虐待が原因』で離婚したと聞いていたので。その説明がけっこう具体的に説明されて」
男性は、“元妻”や子どもの写真を見せてきたといいます。また、車にチャイルドシートを見つけた際には。
“独身偽装”をした男性:
「親権争いに負けて普段は会えない子どもとの面会交流に使っている。子どもたちが心配だからいつでも迎えに行けるようにしている」
スマホの待ち受けを自分たちの写真にしてくれたこと。職場でも彼女として話題にしてくれたという話などから、「独身」だと信じてしまったといいます。
誕生日やクリスマスを3人で一緒に過ごし、家族公認の仲に

交際を始めてから、2か月がたったころ。
“独身偽装”をした男性:
「彼氏として長男に会いたい」
吉田由美子さん(仮名):
「『そんなすぐに会ってしまうと責任が重くなるよ』って話をしたんですけど、『それでもいいから会わせてほしい』ということで会っているので」
長男(15):
「何も裏切らなさそうな誠実そうな顔をしていたので。『いつかは結婚する』とか」
それ以降、誕生日やクリスマスを3人で一緒に過ごし、長男のダンス教室のイベントにも男性が訪れるなど、まるで“家族”のように“生活”していたといいます。その後、男性は吉田さんの母親などとも家族ぐるみで付き合うようになり、家族公認の仲に。
吉田由美子さん(仮名):
「これが、当時買っていた指輪ですね。被告(男性)が『俺が買う』って言って、『じゃあこれは婚約指輪だね』ということで2人でつけて楽しんでいた」

男性「このままバレないまま、離婚を成立させて交際を続けたかった」
婚姻届も用意し、3人で住む家も探し始めていた、矢先。
吉田さんが自宅へ帰ると…玄関先には見知らぬ男女の姿が。
吉田由美子さん(仮名):
「(男性の)奥様の両親が家に突撃してきて」
「うちの娘は1年苦しんだ」といわれ、この時、初めて男性には妻がいることを知ったのです。さらには、幼い2人の子どもまで。
記者:
「既婚者とわかった時の衝撃は」
吉田由美子さん(仮名):
「めちゃくちゃでしたね。過呼吸になって、吐いていましたから」
すぐさま男性の家に向かい、相手の妻らも交えた話し合いの席で直接、問いただしたといいます。

吉田由美子さん(仮名):
「まず行ったときにすごい覚えているのは、『絶対言うなよ』みたいな顔をしていて。『いや、そんなわけねぇだろ』と思いながら、ありのままに話をさせてもらって」
男性はその場で「独身偽装」を認め、謝罪したものの…
"独身偽装"した男性:
「このままバレないまま離婚を成立させて交際を続けたかった」
「こういうことをしたのは"妻のせい"だ」
吉田由美子さん(仮名):
「もうみんなの前で言っていて、みんなからもすごいブーイング。本当に何を言ってんだって」
約1年3か月もの間、「独身」とウソをつかれ続けた吉田さん。
発覚後は、「双極性障害(そううつ病)」と診断され、10年間働いた職場を辞めざるをえないことに。
吉田由美子さん(仮名):
「結婚をして35歳までに子どもが欲しかった。そういうのも奪われたなと思っています。尊厳だったり、子どもの時間だったり。やっぱり許せないですよね」

さらに。
長男が生まれた時から家族で大事にしてきた「車のおもちゃ」など、男性に貸した約30万円相当のおもちゃは未だ、返ってきていません。
長男(15):
「衝撃すぎて言葉も出ないし、頭真っ白でしたね。母もすごく好きだったと思うんです、その期待も裏切っているし」
「おもちゃは『(自分の)子どもに会えなくてさみしい』と言われ、貸したもの。同情を返してほしいです」
長男も心に大きな傷をおい、眠れない日々が続き…通っていたダンス教室をやめてしまったといいます。
長男(15):
「ちょっと口悪いですけど…どの面下げてダンス教室のイベントに来たんだろうと思います」
名古屋地裁 男性に121万円の賠償命令

吉田さんは「既婚者なら交際はしなかった」として、「貞操権」侵害の損害賠償を求め、提訴。
7月21日、名古屋地裁で判決が言い渡されました。
裁判官:
「被告(男性)は、原告(吉田さん)と将来的に婚姻する意思があることをアピールしながら、原告との性交渉を含む交際を継続していたといえる」
吉田さんの請求額330万円に対し、地裁が命じた支払額は121万円でした。
吉田由美子さん(仮名):
「(被害を受けた間の)私と息子の人生1年ちょっとの金額が100万円ほどというのは、安いなという印象です」
裁判後、取材に応じた男性は「(結果を)受け止めるだけです。争うつもりはありません」などと話し、記者から「独身」とウソをついた理由を問われると「私の至らなかった点だけですね」と答えました。
「独身偽装」について刑事責任を問う法律は?

当事者の人生を狂わせ、周囲に深刻な影響を与えてしまう「独身偽装」ですが、被害者の会によるとその賠償額は、数十万円~100万円前後が中心を占めてきました。
また、「独身偽装」について刑事責任を問う法律は、現状、存在しません。
刑事罰化をめぐっては、2023年に性犯罪をめぐる刑法改正が行われた際、「独身偽装」についての議論もありましたが、「不同意性交罪」の類型として加えるには至りませんでした。

今や、被害者の会が設立されるほど全国で被害が相次ぐ、「独身偽装」。
中には、相手が「既婚者」と知らぬまま妊娠・出産してしまった被害者もいます。
6月、被害者の会が主催し行われた意見交換会で、代表のマイコさん(仮名)は被害者らが回答したアンケート結果を紹介しました。
アンケートによると、被害は少なくとも300件以上に上り被害を受けた年齢は、25歳から35歳に集中(現在も調査中)。
その出会い方は、マッチングアプリだけではありません。被害者の「49.3%」は日常生活の中で“独身偽装をした人”と出会っていて、仕事・学校・知人や友人の紹介といった、既存の人間関係を通じたケースが半数を占めます。

被害後は、「42.5%」の人が心療内科を受診したという結果に。アンケートでは約9割の被害者が「強い人間不信に陥った」と回答するなど、心理的な影響が大きいことが分かります。
また、被害者の半数が法的手続きを行っておらず、“泣き寝入り”になっている現状があるといいます。
被害者の会代表・マイコさん(仮名):
「独身偽装は恋愛トラブルではなく、性暴力。既婚者だと知っていれば性行為には及んでおらず、発覚した後の精神的ダメージや人生設計への影響は極めて深刻です」
被害者の会代表のマイコさん(仮名)は、その上で、「独身偽装」の刑事罰化や、民事賠償額の引き上げ、マッチングアプリ事業者に対して本人確認の強化や違反者の通報制度などの対策を訴えました。
島岡教授「被害者救済のためにも、法改正の議論の余地はあるはず」

また、意見交換会に参加した島岡教授は、刑法の「性犯罪規定」を見直す議論が必要だと指摘。
大阪大学大学院・島岡まな 教授:
「性的自己決定権(貞操権)とか性的尊厳が侵害されても、何の犯罪にもならないのはバランスに欠けると思います」
島岡教授は、財産被害を伴う「ロマンス詐欺」では刑法が適用される点にふれ、「被害者救済のためにも法改正の議論の余地はあるはず」とも話しました。
今回、被害に遭った吉田さんも「ウソを信じ込ませ性的同意をだまし取った今回の行為が、罪に問われないのはおかしい」と話しました。


