
医学部入試の“特殊性” 学科とともに面接も難関 受験指導のプロ「それでも大事なことは基礎固め」

難しいことで知られる医学部の入試。医系専門予備校「メディカルラボ」で教務統括を務める可児良友さん(61)に、医学部の“特殊性”と難しさについて聞きました。一方で「基礎固めが大切」という点は他学部の受験と同じだといいます。

可児さんは35年にわたって医学部の受験指導に携わっています。
著書には『医学部受験を決めたらまず読む本』(時事通信社)や『偏差値20台から医学部合格したけど、何か質問ある?』(講談社)などがあります。
可児さんが挙げる医学部入試の“特殊性”とは…
1.ボーダー偏差値(合格可能性50%の偏差値)が高い
2.大学ごとに出題傾向が大きく異なり、それぞれの対策が必要
3.面接試験が厳しい
コロナ後に医学部人気が上昇

――医学部の志願者は増えているのでしょうか?
今春の大学入学共通テスト時の河合塾の調査では、国公立大医学部(前期)の志望者は前年より13%増えました。
かつて、コロナ禍前の5年間は低下傾向にあったのですが、その後は増えています。コロナ禍で医療の重要性が広く知られたからではないでしょうか。
私立大医学部の志願者も増えています。
全国31の私立大医学部(前期)の募集定員は2384人ですが、今年の志願者は7万7164人にのぼりました。多くの私立大医学部の実質的な倍率は10倍を超えています。
今年の大学入学共通テストは実施日が遅かったため、私立大医学部の入試日がかなり重なりました。このため多くの大学で倍率が下がると思っていたのですが、実際はあまり下がりませんでした。
また、私立大医学部では学費を下げると志願者が増えます。
2026年度入試では藤田医科大が約30%と大きく学費を下げるので、注意が必要です。
また「最先端の医療に携わりたい」という考えからか、「地方の国公立大より東京の私立大に行きたい」という生徒も一定数います。
お金がなければ医学部に行けない?

――やはり裕福な家庭でなければ医学部に行けないのでしょうか?
国公立大の学費はどの学部も基本的に同じなので、一般的なご家庭で医学部を目指す方も多いです。
一方、私立大では学費の高い大学が多くなります。
でも今は「地域枠」を設定する私立大が増えました。これを活用すれば、医師不足の地域に一定期間勤務する代わりに、修学資金や奨学金の返還が免除され、学費負担を抑えて医学部で学ぶことができます。
また、医学部でも「学校推薦型選抜」や「総合型選抜」の募集定員が増加傾向で、国公立大では全定員の約28%、私立大でも約16%になっており、選択肢が増えています。
いわゆるサラリーマンのご家庭から医学部を目指す人は増えているという印象です。
面接の厳しさ
――「面接が厳しい」というのは他学部と違いますね。
人の命を預かる医師には、それにふさわしい適性や資質、意欲が求められるからです。
実際、医学部を志望する生徒は真面目でモチベーションが高い人が多いです。
面接は近年さらに重視されるようになっています。
国公立大医学部では面接試験でしっかり人間性を見るため、2段階選抜という仕組みで2次試験に進む人数を絞り込んでいます。
例えば岐阜大は、数年前まで定員(55人)の9倍の495人が2次試験に進めましたが、今は3倍の165人に減らしています。
面接はこんなテーマが

――面接は具体的にどんなことをするのでしょうか。
例えば名古屋市立大の面接試験は、集団討論2回と個人面接1回の計3回あります。
2024年の集団討論は、前半はディベート、後半はディスカッションという組み合わせで、これを別のテーマで2回やる形式でした。
今年の集団討論は、4つの問いに対してディスカッションをするという形式で、このようなテーマでした。
(1)臨床試験についての課題文を読んだ上で討論
問1:臨床試験が人体実験として捉えられることについて
問2:上記のイメージを払拭するためにはどうすればよいか
(2)e-スポーツについての課題文を読んだ上で討論
問1:e-スポーツを医療に活用する方法について
問2:上記の課題点への対策について
個人面接では、「トリアージ」についての質問が出ました。「多数の傷病者が出て治療の優先度をつけなければいけない場面で、あなたはどうするか」というものです。
面接には様々な形式

――ほかにもいろいろな形式の面接があるそうですが。
東京大や名古屋大、浜松医科大などの学校推薦型選抜の面接試験では、受験生が面接担当者にプレゼンテーションをします。
例えば、名古屋大の学校推薦型選抜では和文と英文の課題設定があり、プレゼンテーションと口頭試問をしています。
最初の面接は英文課題を15分間で読み、質問に答える形式から始まります。
昨年は、
"Inequalities in the provision of GLP-1 receptor agonists for the treatment of obesity“
(肥満治療におけるGLP-1受容体作動薬の供給における不平等)
という医療に関する英文を読み、新薬の問題点や肥満の人への偏見について自分なりの考えを答えるような出題でした。
プレゼンテーションは、3つのテーマから1つを選択し、20分間で内容を考えて10分間のプレゼンをする形式です。
この後、さらにもう1回の個人面接があります。
千葉大や藤田医科大などでは、受験者が複数のブースを短時間で回り、それぞれ違うテーマについて答えるMMI(Multiple Mini Interview)という面接をしています。
千葉大では、「あなたが医師だとする」として、AIによる画像診断に不信感を持つ患者にどう対処するか、基礎医学を軽視する先輩にどう接するかなどを問いました。
こうした質問は、優秀な生徒でも準備しなければ答えられないでしょう。
誰でも、受験の直前は学科試験の勉強をしたいものです。
それだけに、面接の準備は早めにした方がいいと思います。
模試の偏差値70でも合格できない?

――学科試験はどれぐらい難しいのでしょう。
国公立大の医学部の多くは、大学入学共通テストで85~90%以上の得点率が必要です。
河合塾のまとめでは、医学部合格者の共通テストの平均得点率は東京大が94.1%、東京科学大が92.5%、京都大が92.1%、名古屋大が91.0%で、いずれも前年より上がりました。
東海地方では名古屋市立大が86.4%、三重大が86.3%、岐阜大が84.5%でした。
まず共通テストでこの得点率が必要です。
――大学ごとに出題傾向が大きく違うそうですが。
国公立大では医学部用の入試問題を作成している大学と、他学部と同じ入試問題の大学があり、大学によって出題傾向が大きく異なります。
私立大では全ての大学が医学部用の入試問題を作成するため、より個性的な出題が増えます。
大手予備校の模試受験者の合否追跡の調査結果を見ると、偏差値が70を超えていても、医学部では不合格になることが珍しくありません。
模試の出題と、各大学の出題傾向が一致していないこともその要因です。ですから、模試の偏差値が高いだけでは合格はつかめません。
早めに志望大学を決め、その出題傾向に合わせた対策をすることが必要で、これが医系専門予備校のニーズの一つでもあります。
例えば順天堂大の英語で求められるのは「スピードと読解力、表現力」。650~1050語の読解問題4問と自由英作文を80分で解かないといけません。
国立大でも岐阜大の英語はそれ以上の読解スピードが求められます。
一方、大阪医科薬科大や、国立大でも京都大の英語は試験時間に比べて読解量・問題数ともに少なく、難度が高い問題をじっくり考える力が求められます。
難しい問題集をやりがちだけど…

――どうやって対策をするのでしょう。
まずは、土台となる基礎固めが重要です。
医学部を目指す生徒は難しい問題集をやりがちです。
周りの受験生と自分を比較して焦ってしまい、背伸びをして難度の高すぎる問題にこだわって失敗するパターンがよくあります。
特に苦手科目や苦手分野では、基礎が身についていないうちに難しい問題集に手を出してはいけません。
繰り返しになりますが、やはり基礎固めが大事なんです。
誰にでもできる「基礎固め」
――「基礎固め」とは?
必要なのは、学校で使う問題集です。
学校の問題集は「基本パターン」をほぼすべて網羅しています。この基本パターンをすべて、一目見たら瞬時に解法が浮かぶ状態にするのが「基礎固め」です。
これは練習すれば誰でもできることです。しかし、決して楽しいことではありません。
基礎・基本を何度も繰り返すのです。「修行」と言ってもいいかも知れません。「修行」は辛いので、ここまでやれる人はあまり多くありません。
ですから、チャンスでもあるのです。やるだけで医学部に合格できるレベルに到達できるのですから。
もう一つ大事なのは、「理解して覚える」ということです。理屈がわかっていないと、応用がききません。
「理解する」とは、言語化です。言葉で説明できるようにするということです。
メディカルラボでは、講師が生徒に「どうやって答えを導いたの?」と説明させるようにしています。授業中に生徒に言語化してもらうことで、生徒の理解度を測ったり、理解を深めたりできるのです。
また、数学や理科ができなければいけないと思われていますが、私は「英語も重要だ」と言い続けています。
英語は、文法や単語など、面白くないかもしれないけれどコツコツやれば確実に伸びる教科だからです。
(メ~テレ 山吉健太郎)