
煮魚3匹 煮物2品 揚げ物3品等の定食が1500円 73歳で始めた“儲け度外視”の魚食堂が成り立つワケ

三重県多気町の山あいに、夫婦が営む小さな食堂「月(ルナ)」はあります。名物は煮魚や唐揚げなどの定食。儲け度外視の料理と温かいもてなしが評判を呼び、開業5年で地域の人気店になっています。
■靴を脱いでくつろぐ…山小屋風のアットホームな店
三重県多気町の山間の集落にある食堂「月(ルナ)」は、昔飼っていた猫の名前から名付けたといいます。仕入れから調理まで厨房を仕切るのは、宮川直敏さん(78)。
山里の食堂ながら人気メニューは煮魚。おいしいだけでなく、量もすごいと評判です。 煮魚3匹に煮物2品と揚げ物3品、ご飯、味噌汁、サラダ、フルーツまで付く「煮魚定食」(1500円)は、食べきれずに持ち帰る人も多い驚きのメニューです。 客: 「持って帰ります。今日の夕飯ができました」
直敏さん: 「煮魚の味付けは最初薄く。そして煮詰まってちょうどいい味。海の育ちですから三枚におろすことはできます。『好きこそものの上手なれ』って言いますが、好きであれば上達も早い」
奥志摩の漁師町・南伊勢町で生まれ育った直敏さんは、子供の頃から料理が好き。レシピはすべて独学で考えたといいます。賢島出身の妻・あや子さん(81)は、盛り付けと接客を担当しています。
店は靴を脱いで入るスタイルで、店内も山小屋風。知らない人同士でも会話が弾むアットホームな雰囲気です。さらに、スタッフではなく常連客が料理を配膳することもあります。 常連客: 「思わず手が出てしまいます。それだけ気軽に出入りできるお店」
忙しくなると、客が自ら盛り付けをすることもあるといいます。
■20品目以上の豪華ラインナップ…ランチの定番「おまかせ弁当」
ランチでほとんどの人が注文するのが、割り子で提供される日替わりの「おまかせ」(1100円)です。 客: 「家庭的な味でおいしい。濃くなくて、薄くても味がしっかりしている」 この日は、トウモロコシのご飯に鶏の唐揚げ、魚と貝柱とトウモロコシのフライ。ブリの幼魚ワラサの照り焼きに手作りの煮物が3品、卵焼きにポテトサラダ、フルーツ、和菓子まで。20品目以上の食材を使った豪華なラインナップです。中でも、鶏の唐揚げは、常連客からも人気の一品です。
客: 「揚げ物おいしい。唐揚げ有名ですよね」 別の客: 「唐揚げがおいしいって聞いていた」 煮魚と並ぶ人気メニューで、イベントへの出張販売でも即完売するという鶏の唐揚げ。 妻・あや子さん: 「中学生が“ルナの唐揚げ”なので、“ルナから”って言っていた」
ニンニク多めの味付けで、ラードで2度揚げする唐揚げは、地元の中高生にも人気です。さらに「おまかせ」(1100円)には、志摩地方で獲れた魚の煮付けが無料で付きます。運が良ければ、地元で獲れたアユが出ることも。
客: 「いつもおまけいただいています。後から出てきますよ」 別の客: 「ここでお昼食べたら夕飯いらん」 店のもう一つの名物はうな丼。浜名湖産の肉厚なうなぎをじっくりと焼き、継ぎ足しのタレで味付けしています。
このタレも独学で生み出した味です。1匹丸ごと使った「うなぎ 特上」(3200円)には、揚げ物やサラダ、デザートまで付いています。
■新鮮な魚がこの価格で出せる理由
なぜ魚をこれほど値打ちに提供できるのでしょうか。志摩まで仕入れに行く直敏さんに同行しました。 直敏さん: 「その人は軽トラで行商している。いい魚が入ったら電話がかかってきて、玉城インターまで取りに行く」
奥志摩の漁港で仕入れた魚を60キロ離れた伊勢自動車道・玉城インター近くまで届けてくれる濱口さんは、昔からの知り合いだといいます。新鮮な魚を値打ちに提供してくれる濱口さんの存在が、直敏さんの食堂を支えています。とはいえ、店の売上はどうなのでしょうか。 直敏さん: 「儲けはないです。支払いが毎月大変です。でも生活できるから」 あや子さん: 「年金で払っていますよ」
■地域に貢献したい…カメラマンから料理人へ転身
73歳で、なぜ儲け度外視の食堂を開業しようと思ったのでしょうか。 直敏さんは、結婚式場のカメラマンとして40年以上勤めていました。退職後も学校の卒業アルバムの撮影などを続けていましたが、70歳を過ぎた頃に転機が訪れます。
直敏さん: 「長男が事業するにあたって、お金を貸してくれって」 長男の事業が軌道に乗り、約800万円が返ってきました。 直敏さん: 「このお金どうしようかなと思って。飲食の店でもして、地域に貢献しようと」 あや子さん: 「反対でした。“あんたは椅子に座ってお客さんと話しとってもらったらいい”って言われて」 地元の人たちが楽しめる店を作りたい。その思いから、店ではこんな試みも。
常連客: 「私はソプラノ歌手をしているんですけど、ここで定期的にコンサートを」 採算度外視で行っているのが、通常営業を休んでのコンサート。これも地域の人たちが楽しむ場を提供したいとの思いからです。 さらに、子供たちにお弁当を無料配布したり、地元の桜花高校と協力して生徒たちが作るカレーを無料で提供したこともあります。
あや子さん: 「ここに来てお腹いっぱいになって“美味しかったよ、また来るね”って、笑顔で帰ってくださるのが一番うれしい」 73歳で始めた食堂。儲かってはいませんが、多くの人に慕われる店になりました。 直敏さん: 「お客さんがたくさん来て、その収益で生活するとかは考えていないから。みんなを幸せにしたいですね」 儲け度外視の夫婦の食堂は、今日も静かな山あいに温もりを灯しています。 2025年10月27日放送





