
名古屋で置き去りにされた子犬たちはいま この子だけじゃない、飼い主を待つ犬や猫たち

まだ寒さが残る3月、名古屋市の駐車場の植え込みに、生まれたばかりの子犬5匹が身を寄せ合っているのが見つかりました。こうした犬や猫は、その後どうなっているのでしょうか。

名古屋市内の駐車場に5匹の子犬を置き去りにしたとして、20代の女性が動物愛護法違反の疑いで4月に逮捕されました。
子犬たちはまだ歯も生えていませんでした。
逮捕された女性は置き去りにしたことを認め、「飼育にかかる費用や、施設に引き取ってもらう手数料がなかった」と話したということです。
動物愛護法は犬や猫などを置き去りにすることを禁止していて、違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
この女性は、名古屋簡易裁判所で罰金10万円の略式命令を受けました。
子犬たちは元気です

この子犬を保護したのは名古屋市の動物愛護センターでした。名古屋市千種区の平和公園の一角にあります。
子犬たちはいま、ボランティアのもとで元気に育っています。今はちゃんと歯が生えてドッグフードも食べているそうです。
いずれ、ボランティアによる譲渡会などを通じ、飼い主を探していくということです。
子犬たちを直接取材することについて、動物愛護センターは「そっとしてあげてほしい」とのことでした。
置き去りはほかにも

この子犬たちは命拾いしましたが、名古屋市動物愛護センターには、ほかにも置き去りにされたり、育てる人がいなかったりする犬がいます。
センターが保護する犬は1年に40匹前後いますが、多くは迷子で、無事に飼い主の元に戻っています。
しかし、置き去りにされたとしか考えられない犬が、2024年度は9匹、2023年度に1匹、2022年度に4匹いました。
衰弱しきって動けない犬が公園に放置されていたり、年老いた大型犬が動けないようにつながれたままになっていたりしたことがありました。
生まれたばかりの子犬が母犬と一緒に箱に入れられていたこともあったといいます。
こうした場合、警察が動物愛護法違反の疑いで捜査しますが、誰が置き去りにしたのかわからないことも少なくありません。
「もう育てられない」と引き取りを頼む人
飼い主が「もう育てられない」と、センターに引き取りを頼んでくることもあります。
その理由は「自分が年を取ってしまって面倒をみられない」「攻撃的で何度もかまれた」「自分の子どもが生まれ、ペットまで手が回らない」といったものが。
「かわいいと思って子犬を飼い始めたけれど、こんなに大きくなると思わなかった」という理由もあったといいます。
こんな相談を受けた時、名古屋市動物愛護センターはまず、本当に飼い続けることができないのかを確認します。
どうしても飼い続けられないということなら、他に飼ってくれる人がいないか、飼い主自身で探してもらうよう促します。
新しい飼い主探しが難しい場合は、「人とペットの共生サポートセンター」を紹介しています。(電話052-681-2211、平日午前10時~午後4時半)
名古屋市獣医師会が市の委託を受けて運営していて、ホームページ(https://www.dog-cat-support.nagoya/)などを通して新しい飼い主探しに協力しています。
引き取りに手数料を取る理由

それでも飼い主が見つからない場合、動物愛護センターが引き取ります。
手数料は、犬が8000円(生後3カ月までは2700円)、猫は5000円(生後3カ月までは1700円)です。
こうして引き取った犬は、2024年度は32匹、2023年度は21匹、2022年度は19匹いました。
手数料を設けているのは、飼い主が安易に手放すのを防ぐためです。引き取った後のえさ代や病気治療の費用は、手数料とは比較にならないほどかかります。
名古屋市動物愛護センター所長の山岸純二郎さんはこういいます。
「ここは最後のとりで。年老いた犬や重い病気の犬など、ここで一生を終える犬も少なくありません」
殺処分はいまも?

動物愛護センターに、「殺処分」というイメージをもつ人がいるかも知れません。
名古屋市動物愛護センターは、2015年度を最後に犬の殺処分をしていません。
かつて野良犬が多かった時代は、センターに収容した犬のほとんどは炭酸ガスで窒息死されていました。
いま、こうした設備は撤去されています。
かつて犬を殺処分する設備があったところは、猫を収容する部屋になっています。
残念ながら、名古屋市動物愛護センターでは、猫の殺処分は続いています。
センターに収容される猫は2023年度に836匹、2022年度に938匹と、犬よりも圧倒的に多いのです。
回復の見込みがない重い病気やけがなどで、注射で安楽死させる猫は年間20匹ほどいます。
猫の出産は1年で約3回、1回あたり2~8匹にもなります。
センターが保護する猫には、出産した野良猫が事故に遭うなどして子猫を残したままいなくなってしまう場合や、飼い猫に避妊・去勢手術をせずにどんどん増えてしまった場合などがあります。
動物愛護センターは猫について、「避妊・去勢手術をせずに複数飼って、『多頭飼育崩壊』に陥ってしまうケースが多々あります。猫の繁殖能力はものすごいことをぜひ知ってもらい、必ず避妊・去勢手術をしてほしい」と呼びかけています。
保護の現場から伝えたいこと

名古屋市動物愛護センターに、犬や猫を飼おうとする人に一番伝えたいことを聞きました。
答えは、「飼う前に、最期まで飼い続けられるかよく考えてほしい」ということです。
所長補佐の松本文美さんは「今は健康で生活に余裕があっても、この先何が起こるか誰にもわかりません。犬も猫も20年近く生きることがあります。ご自身が人生の節目を迎えた時などにペットとどのように連れ添っていくのかをきちんと考え、ご家族ともよく話し合って飼う決断をしてください」といいます。
いろいろな支援がある

名古屋市動物愛護センターが保護した犬や猫は、約70のボランティア団体・個人の助けを受けて育てられています。
ボランティア団体は譲渡会などを開いて飼い主を探しています。
飼い方に困っている人への支援もあります。
動物愛護センターは、これから犬や猫を飼おうとする人や、犬の問題行動で困っている人、高齢の犬や猫を飼う人向けの教室も開いています。
また、名古屋市は「ふるさと納税」の制度を使い、「目指せ殺処分ゼロ! 犬猫サポート寄附金」を募っています。
センターが引き取った犬や猫のえさ代や治療費、ボランティアの支援、野良猫の避妊・去勢手術などに使われます。返礼品はありませんが、年間の活動報告書を送っています。
壁に貼られた多くの写真とコメント

名古屋市動物愛護センターの壁には、新たな飼い主とともに暮らす猫の写真と、飼い主のコメントがたくさん貼られています。
そこにはこんな言葉が。
「責任も増えますが、それ以上にたくさんの愛情をもらえます」
「猫との暮らしは温かい喜びに満ちています」
「センターの職員さんに聞くと性格がよくわかり、あなたのおうちによく合った猫と出会えると思います」
写真からは、猫がおなかを上にして寝転んでいるなど、動物愛護センターでは見られないリラックスした様子がうかがえて、職員もうれしいといいます。
名古屋市は、2029年度までに猫の殺処分もゼロにして、犬とともに続けていくことを目標にしています。
家族の一員として生涯を通じて大事にしてくれる人を、多くの犬や猫が待っています。
犬と猫の飼育にかかる費用は?

犬と猫を飼う場合、費用はどれぐらいかかるのでしょう。
その参考の一つになるのが、ペット保険大手のアニコム損害保険(東京)による2024年のアンケートです。
飼い主が1年間にかける費用は、犬が平均41万4159円、猫が平均17万8418円でした。
犬の主な内訳は「フード・おやつ」が8万2747円、「けがや病気の治療費」が8万371円、「シャンプー・カット・トリミング」が5万2353円、「保険料」が4万6354円、「ワクチン・健康診断などの予防費」が3万5280円など。
「しつけ・トレーニング料」がかかるのが猫との違いです。
猫の主な内訳は「フード・おやつ」が6万1283円、「けがや病気の治療費」が3万2458円、「保険料」が2万9791円、「ワクチン・健康診断など」が1万3977円です。
昨今の物価高に加え、「健康にいい食べ物を与えたい」という健康志向の高まりもあり、犬は前年より約22%、猫は前年より約5%アップしているということです。
(メ~テレ 山吉健太郎)