
「ママを殺す」と脅し女児4人にわいせつ行為を繰り返した男の裁判は、なぜ“加害者匿名”で行われたのか? 被害女児の親「早く実名報道してくれてたら…」

「怒りしかない。なんで被害者がおびえた生活をしなきゃいけないの?」
「名前を出されなかったら、もっと許すことできずに、ずっと怒りを感じたんだろうなって思います」
子ども4人に次々とわいせつな行為をした男の裁判は、当初、匿名で進められました。なぜ加害者が匿名なのか。声をあげたのは、被害にあった子どもたちの親でした。
息子の同級生らを標的にした卑劣な犯行 恐怖で沈黙させられた子どもたち

懲役4年の実刑判決が確定した小島史守受刑者(56)。小島受刑者は、以前住んでいた愛知県小牧市の自宅で、当時6歳から10歳の女の子4人に対し、わいせつな行為をしました。
当時9歳の娘が被害にあったBさんは、小島受刑者の印象をこのように話します。
娘(当時9)が被害 Bさん:
「すごい子ども好きな世話好きなお父さんと思ってたので、もうまさか本当信じられない。後悔ですね、娘に対して。なんていうところに行かせてしまったんだろう、もっと早く気づいてあげればよかったと思って、娘に申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
被害を受けた4人は、小島受刑者の息子の同級生ら。息子を利用して女の子を自宅に誘い、わいせつな行為を繰り返していました。

当時10歳と8歳だった娘2人が被害にあったAさん。小島受刑者の卑劣な行為を知ったのは、2024年3月、3人でお風呂に入っているときでした。
娘2人(当時10と8)が被害 Aさん:
「一番下の子がこういうことをされたという話をして、その時に長女がすごくひたすら口元にシーってやって『言っちゃダメでしょう』『絶対言っちゃダメ』って。ちょっとおかしいなと思って」
不審に思ったAさんが長女に話を聞くと、小島受刑者から触られたり写真を撮られたりしたことを打ち明けたといいます。
さらに、長女が妹に「言っちゃダメ」と言った理由も明らかに。Aさんの娘たちは、小島受刑者から「話したらママを殺す」と脅されていたのです。長女はかなりおびえていたとAさんは話します。
小島受刑者は、こういった口止めをして繰り返し犯行に及んでいました。
「被告人の名前が空欄」 裁判で直面した新たな苦悩

2024年4月、小島受刑者はAさんの長女への行為で逮捕。その後、Aさんの二女やBさんの娘ら3人への余罪でも逮捕・起訴され、6月には名古屋地裁で裁判が始まりました。
しかし、被害者家族の苦悩は続くことになります。その理由は、裁判で被告の氏名が伏せられていたから。
娘(当時9)が被害 Bさん:
「罪名がいっぱい書いてあるのに、被告人の名前が空欄なんですよ」
原則公開で行われる刑事裁判ですが、性犯罪など被害者の名誉に関わる場合、個人の特定につながりかねない情報を秘匿にする制度があります。

どの情報を隠すかは、検察が被害者側から話を聞き、裁判所が判断します。しかし、娘が性犯罪の被害にあったと知り激しく動揺する中で行われた検察の聞き取りは、想像以上に過酷なものでした。
娘(当時9)が被害 Bさん:
「難しい言葉、普段聞かない難しい言葉を一生懸命聞くのも必死でしたし、秘匿に対して具体的に説明があったか、記憶ないですね」
娘2人(当時10と8)が被害 Aさん:
「子どものことに関してだけですよね。子どもの名前を隠しますか? 隠しませんか? みたいな感じで」
名古屋地検によると、何を秘匿にするかは被害者側にしっかりと説明することになっているといいます。しかし、結果的に被害者家族の思いとは違う、被告人の氏名を伏せた形での裁判が始まってしまったのです。
裁判の公開制度に詳しい専門家は、秘匿にあたっては丁寧な説明と慎重な判断が必要だと指摘します。
早稲田大学 澤康臣教授:
「本当に(秘匿が)必要かどうか、本当にそれは望まれているかどうか、これを厳密に吟味するということが、もう一丁目一番地のはずなんです。難しい法律用語だとか、難しい裁判の手続き、普通に生活していれば、そう簡単にはわからないことの方がずっと多いと思う」

秘匿を取り消すには被害者全員の同意が必要ですが、当時は被害者同士もお互いを知らない状況。被害者家族は、孤独を感じていったといいます。
娘(当時9)が被害 Bさん:
「親の私たちだけじゃなくて世間の人たちからも守ってもらえる、そういう安心感は絶対あったと思うので、もっと早く実名報道をしてくれてたら、こんなにおびえた生活はすることなかった」
実は、公判の期間の途中で、被告が保釈されたのです。
被告は、以前住んでいた自宅から既に引っ越していましたが、引っ越し先も被害者家族の生活圏と近く、姿を目にすることもあったといいます。被告の氏名が報じられていないために、周囲の人は事件を知らず、被害者家族の苦しみは一層増していきました。
被害者同士が連絡をとりあえたのは、一審判決後の2025年5月。弁護士経由で裁判所に被告人の氏名などの秘匿の取り消しを求める書類を提出し、被告人の氏名の秘匿の取り消しが決定しました。
そして、9月11日の控訴審判決。法廷で初めて「小島史守被告」と名前が読み上げられました。それを淡々とした様子で聞いていた被告。匿名で行われた最初の裁判から実に1年3か月もの時が経っていました。
判決後、会見を開いた被害者家族。長い苦しみの末、ようやく気持ちに一区切りが付いたのか泣き崩れたAさん。その背中をBさんが優しく支えていました。
娘(当時9)が被害 Bさんの夫:
「今回の件じゃなくても、もっと周りの全国の人たちも、もしかしたら同じようなケースで声を上げられていない人たちもいるかもしれないので、そういう人たちの支えになるというか、そういうところもあれば」
秘匿制度の現実 被害者を守るはずが…

当初、裁判で匿名となっていた小島受刑者。その根拠となったのが『公開の法廷での被害者特定事項の秘匿』(刑事訴訟法第290条の2)です。
性犯罪の被害者が特定されることで起きる“二次被害”を防ごうというもので、最高裁判所の統計によると、2024年は5658人の被害者に、この制度が適用されました。
この秘匿情報には、加害者の名前が含まれるケースもあり、今回の事件では、被害者家族にとって、加害者が守られていると感じる結果となってしまいました。
埼玉県警捜査一課で数々の事件を解決し、現在は学校や企業で講演し防犯活動に尽力する佐々木成三さんは、今回のケースについてこのような見解を示しています。
佐々木成三さん:
「このSNS時代に事件の情報が拡散されれば、被害者も特定されてしまう恐れがある。そこに被害者の権利が守れるのかという判断があったのかもしれないが、被害者側への説明が足りなかった。なぜ匿名にするのか、リスクも含めてしっかり説明する。それを納得した上で被害者がどういう意思表示をするのか。もっとコミュニケーションが必要だったのでは」
今回のように、被害者側からの申し出で秘匿の決定を取り消したケースもありますが、その数はわずか2人。性被害にあったことを知られなくないという被害者の複雑な気持ちを物語るような数字です。
佐々木成三さん:
「被告人の名前も含め、事件のことをニュースなどで知ってもらうのは、今後犯罪を防ぐという意味でも効果があると思う。被害者本人や被害者家族の声も重要視してほしい」