
“食べてはいけない豆”で指摘される発がんリスク 永遠の化学物質「PFAS」が検出された街 37年前から続く環境問題【大石邦彦が聞く】

大阪北部の街、摂津市。多くの住宅と工場が混在する、この街で問題は起きていました。地元住民の和田壮平さんは「まずは畑を見てほしい」と言います。
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(摂津市在住 和田壮平さん)
「こちらの井戸が昨年度、1リットルあたり3万ナノグラムのPFOAが検出された井戸になります」
全国的に問題となっている化学物質PFASが、国の目標値の600倍も検出されたのです。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「誰も知らなかった。そんなひどいことになっているとは。私だって井戸からの水を使って、ここで農産物を作っていました」
その水で作られたエンドウマメやソラマメを見ると。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「すごいでしょ、これ。はい。めちゃくちゃ育つんです。こんなの売ってないですよ、立派なの。(Q:これは食べてはいけない?)食べられないんですよ」
鈴なりですが、放置して枯れるのを待つだけです。
検出される大量のPFOA その汚染源は
(摂津市在住 和田壮平さん)
「残念ながら大量のPFOAが出る。食べたら血中からも高く出る。こんなめちゃくちゃなことに、この地域はなっている」
和田さんの父親が以前ここで採れた野菜を食べると、血液中のPFAS濃度は危険とされる値まで上がったといいます。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「父は最近まで食べていました。地域の方で食べていた人もいる」
PFASはフライパンのテフロン加工などに使われた有機フッ素化合物。極めて分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれ、発がん性も指摘されています。この地域で大量に検出されているのはPFASの中でも最も大量に使われ、現在、国際的に製造や使用が禁止されているPFOAという物質。なぜ、この地域で汚染が起きているのか?
(摂津市在住 和田壮平さん)
「(Q:目の前はダイキンの工場?)目と鼻の先にあります」
畑の前にあるのはエアコンなどで知られる大手空調機メーカー、ダイキン工業の工場。2012年まではPFOAを製造し、ダイキンもここが汚染源であることを認めています。
流出を防ぐ遮水壁の工事が行われたが…
そして今、工場の敷地内では何か工事が進められていました。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「(敷地の)中の汚染された地下水が敷地外へ出ないようにする工事をしていると聞いています」
ダイキンの住民側への説明資料には、敷地の土壌や地下水は今も汚染されていて、2023年から工場を囲むように地面に鉄の板を打ち込み、PFOAの流出を防ぐ遮水壁の工事が始まっていると示されています。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「その工事が私たちの畑の周辺は終わった。それにも関わらずPFOAの濃度は上がっている。そもそも遮水壁工事は効果がないんじゃないかと」
工事は進んでいますがPFOAの数値は逆に増えた場所も。さらに先月には…
(京都大学 小泉昭夫 名誉教授)
「PFASで起こる肺障害が明らかになったと」
京都大学などの研究チームがPFOAを扱っていた元従業員に健康被害が起きている調査結果を発表したのです。
(京都大学 小泉昭夫 名誉教授)
「肺が線維化していく非常に珍しい病気。テフロン加工する工程にいた5人中3人に見つかった」
住民に新たな健康被害の可能性も
PFOAの粉じんを吸い込む環境で働いていた元従業員2人が、肺の組織が硬くなる間質性肺炎を発症し、1人にその兆候があったと指摘しました。この3人を含む元従業員5人の血液からは、発がんリスクがあるとされる値の最大で40倍ものPFOAが検出されました。
(京都大学 小泉昭夫 名誉教授)
「PFOAが少なくとも肺線維症を増強していることは言える。もっと可能性が高いのがPFOAそのものが主たる要因である可能性もある。(この研究結果から)高濃度で労働者で起こっていることが住民に起こる可能性は非常に高い。そういう意味で示唆的だと思う」
事実、住民が自主的に行った血液検査でも高い値のPFOAが。発がん性リスクの指標は1ミリリットル中20ナノグラムですが…
(住民)
「結果は高いです。(濃度は)80から70」
「国の基準は軽く超えていました。基準の1.3倍か1.4倍くらい」
今回、当事者のダイキンは私たちの取材に対し文書で回答。公害の認識については…
(ダイキンの回答)
「環境省は『国内において、PFOS、PFOAの摂取が主たる要因とみられる個人の健康被害が発生したという事例は確認されておりません』と公表しています。地域住民の方々のご心配を真摯(しんし)に受け止めて様々な対策を講じております」
問題は今から37年前にも…
そして、対策については。
(ダイキンの回答)
「2009年より地下水のくみ上げ、浄化を実施しています。PFOAの濃度変化や専門家の助言も踏まえながら、地下水のくみ上げ量の増加を図ってまいりました」
(住民)
「(ダイキンに)やってほしいのは検査をしたり、説明会をしたり、地域を調査したり…。自分の敷地内だけをどれだけやってもダメです」
ダイキンと町の問題は今回が初めてではありません。
今から37年前、1988年に行われたダイキンと住民の話し合いでは…
(ダイキンの担当者)
「全然影響しなかったとも思えないし、何らかの影響はしているんでしょうけど、発生源が分からないという意味なのか」
(住民)
「会社の、どこから出たのか分からないではなく、塩酸の出そうな所を最初の原料から積み出しまで全部、会社中チェックしていただいて…」
(和田さんの祖父 平太郎さん)
「京都大学の科学者そろえて分からん分からんと。分からないようにしているのは、あなたたちですよ」
祖父、そして孫の私も問題の当事者に
訴えている住民は、和田さんの祖父の平太郎さんです。当時、地元で作られていた青じそが枯れる被害が相次いだためだといいます。
(摂津市在住 和田壮平さん)
「37年前に解決しなかった問題が今になって出てきて、当時、話をしていた祖父と孫の私。当時解決しなかったから後世に問題が残ってしまい、私の世代で今、問題に取り組む羽目になっている」
「永遠の化学物質」、PFASの問題。科学の発展や便利さを追求したツケが回ってきているのかもしれません。
「永遠の化学物質」PFAS 健康被害の実態と国の対応の遅れ
アメリカやWHOの研究によると、血液中1ミリリットルあたりPFAS 20ナノグラムで発がん性リスクがあると指摘されています。今回、ダイキンの現従業員・元従業員の労働者の血液検査を実施したところ、この基準値の7倍から40倍のPFASが検出されました。さらに深刻なことに、このうち3人に肺疾患が見つかっています。
かつてはPFASの健康被害は特に知られておらず、一般的に使用されてきましたが、現在は世界的に研究が進み、使用禁止などの措置が取られています。
しかし、日本の環境省は「国内で個人の健康被害が発生した事例は確認されていない」という見解を示しています。
一方で京都大学の小泉昭夫名誉教授は「調査結果からPFASで起こる肺障害が明らかになった。国は認識を新たにすべき」と指摘し、PFASと健康被害の関連性について警鐘を鳴らしています。