
ストローの原料は…ライ麦!? “脱プラ”ストロー作りに400人以上が参加「ライ麦プロジェクト」

脱プラスチックのために、社会福祉法人「名古屋市守山区社会福祉協議会」は「MORIYAMAライ麦プロジェクト」を企画し、ライ麦のストローを製作しています。
プロジェクトは守山区だけではなく、その他の区に住む多くの人々を巻き込んで、今では400人以上が参加する企画となりました。

ライ麦ストローの特徴は、耐久性に優れている点です。
紙製のストローは水分を吸うと軟らかくなりやすいのが短所でしたが、ライ麦ストローは洗って繰り返し使うことができます。
ストローが割れない限りは洗って何度でも使用でき、ストローの形状が崩れてきたらハサミなどで切り刻み土の上に撒けば、肥料として再利用が可能です。

ライ麦は茎の中心部が空洞になっており、その形状がストローとして使うのに実用的。プラスチックのストローと質感が似ており、十分に代用できます。
植物をそのまま用いているので色合いが1本ずつ異なり、ライ麦ストローを使用した人たちからは「ほのかにライ麦の香りがして、飲み物がおいしい」との声も。
2023年夏に1袋5本入り200円(税込み)で販売を開始して以来、植物由来の素材を使用している安心感も伴い、利用者からは好評を得ています。
企画を始めた初年度の23年度は、321袋を売り上げました。24年度は大口の注文がなく86袋と落ち込んだものの、25年度は157袋を販売しています。(7月17日時点)

協議会の担当者は「事業を赤字にしないためにも、販路の拡大が現状の課題」と言い、当初は協議会の窓口での販売が主でしたが、現在は地元の飲食店などに協力を求めているということです。
ストローに用いる無農薬のライ麦は、守山区内の有志の協力者が提供してくれる畑や花壇、プランターで栽培。ストロー作りは、地域住民のほか、作業所などの福祉施設に通っている人たちと共に行います。

ストローの材料となるライ麦は、参加者の畑や花壇、プランターで10月中旬から12月初旬にかけて種まきを行い、育成します。
翌年の5月下旬から6月初旬に収穫を実施し、刈り取ったライ麦は天日干しで乾燥。倉庫に収納して保管します。
保管しておいたライ麦は、ストローを製作する機会の際、ハサミで茎を節(ふし)切りして長さ20センチメートル前後に整え、煮沸消毒した後に乾燥機で乾燥させて完成です。

ライ麦の実の部分は、クッキーに混ぜ込んだり、ライ麦茶として活用。ストローに利用できないライ麦の茎の細い部分は、フィンランドなどの北欧諸国で伝統的な工芸品として知られている「ヒンメリ」、クリスマスの際に室内に飾る星形の装飾品「ストロースター」に加工して販売しています。
ライ麦プロジェクトのきっかけは、2018年に策定された「守山区地域福祉活動計画」。当時、協議会で話し合って定めた活動計画の一環である「しごとづくりプロジェクト」は、「地域の人が集える居場所づくり」と「緑地資源を活用した多世代交流」をコンセプトとしていました。
名古屋市の中でも守山区は緑地に恵まれ、協議会の当時のメンバーには「この自然資源を生かして誰もがつながれる仕組みをつくりたい」という理想があったといいます。
そうした状況で、先行して長野県・御代田町で始まっていた「MIYOTAライ麦ストロープロジェクト」を知ったメンバーの1人が、「守山区でもぜひ実施してみたい」と協議会の中で提案しました。
秋にライ麦の種を植えたところ、順調に成長して翌年5月に収穫。その結果、約1000本のライ麦ストローを作ることができました。
ライ麦プロジェクトは、企画から事業が本格化してから今年で5年目。現在は、地域住民や福祉施設に通う人たちだけでなく、地元の保育園やこども園から高校、大学のほか区外にまで活動の輪が広がり、賛同して協力する団体は70以上に及び、今では400名以上が参加するプロジェクトに成長したということです。

ストロー製作は、誰でも参加でき、誰もが好きな作業に携わることができるといいます。その中で、ライ麦の収穫はこども園の園児たちが手がけ、その後の過程である節(ふし)切りの作業は高齢者らが行うといった、世代を超えた連携も見られるようになりました。
協議会の担当者は、プロジェクトに携わる人たちが語る参加の動機について、「環境にやさしい活動をすることで、人や社会とつながっていたい」という声が多いということです。
プロジェクトが事業として始まったのは、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年の初期。「コロナ禍での生活が、多くの人たちにとって自身の暮らしを見直したり、身近な環境について考えたりするきっかけになったのでは」と話しています。
ライ麦プロジェクトの魅力は、担当者が「地域の人々が年代を問わず、無理なく自然なかたちで参加して、地域に定着していった」と指摘するように、脱プラスチックへの新しい環境活動というだけではなく、世代を超えて多くの人々を結び付ける連帯や一体感を地域にもたらしているのかもしれません。