
“一人歩きデビュー”でリスク増 交通事故にあいやすい「魔の7歳」 年齢別の死傷者数は最多 “注意力”と“身長”が事故の要因に 子どもの命を守るためには?

新品のランドセルを背負ったピカピカの小学1年生を見かける、この季節。元気に登下校する様子に、こちらも思わず笑顔になってしまいますが、実はこの年代「魔の7歳」とも呼ばれています。子ども本人も、そして私たち大人も注意が必要だといいますが、一体どういうことなのでしょうか。
新1年生を対象にした「交通安全教室」開催

愛知県岡崎市の小豆坂小学校で、入学したばかりの1年生たちの授業が行われていました。
この日は、入学4日目にして初めての校外学習の日。学校の近くにある岡崎自動車学校の交通安全教室で、横断歩道の渡り方について勉強します。
入学間もない1年生を対象に交通安全教室を開催する狙いは、何なのでしょうか。
岡崎市立小豆坂小学校 塚谷保校長:
「(1年生は)どうしても目線が低かったり、視野が狭かったりするので、この年齢は早めに交通安全に対する意識を高めたいということで設定しています」

ここ5年間で起きた歩行中の交通事故による死傷者の数で、最も多いのが小学1年生と2年生にあたる「7歳」なのです。事故へのあいやすさから「魔の7歳」とも呼ばれています。
新1年生を対象に開かれた交通安全教室で、子どもたちは人形を使った実験などを通じて急な飛び出しや、車に巻き込まれる危険性などについて学び、「車にぶつかるとあんなケガをしちゃうんだなと気づきました」「道路は飛び出さない。事故が起こらないように」と、交通ルールを守ることの大切さを口にしていました。
注意力が散漫になりやすい「魔の7歳」

なぜ、7歳の児童は事故に巻き込まれやすいのでしょうか。
東京農工大学スマートモビリティ研究拠点が公表する、子どもの注意力の程度がわかる実際の映像があります。
道路の端を歩いている、ランドセルを背負った2人の子ども。すると、横断歩道がないところで、後ろから近づく車に気づく様子もなく、道路を渡っていました。

こちらは先ほどより広い道路。次の瞬間、画面右側の公園に行こうとしたのか、左から子どもが急に飛び出しました。
子どもが道路に飛び出してしまう理由について、金沢大学の藤生教授は、このように分析します。
金沢大学 融合研究域 藤生慎教授:
「小学校1年生、7歳になると登下校を自分一人でやるようになるんですね。お友達と遊ぶ、公園に向かっているとなると、それが頭の中で考えているメインになってしまうので、車に注意を払うとか、左右確認や一時停止の意識がどうしても薄れてしまう。それは仕方ないことなんです」
子どもと大人の目線の違いも事故の要因に

新1年生には注意力の面だけでなく、もう一つ、事故に巻き込まれやすいポイントがよく分かる場面が、取材の中でもありました。
交通安全教室では、車が何台も停車している状況を想定して、子どもたちが横断歩道を渡る練習をします。
ところが、子どもたちの目線で見える車は1台だけ。大人の目線の高さだと見える対向車線から来る車が、子どもたちには見えないのです。
一方で、運転している側からは、車の影に隠れて直前まで子どもたちが見えません。小学1年生の平均身長は約116センチなので、車の横に立つと頭まで隠れてしまいます。
この身長の低さが、事故に巻き込まれやすい要因の一つとなっているのです。
カラフルな道路で交通事故を防ぐ! 愛知・刈谷市の取り組み

こうした状況を受けて、自治体では道路自体を変えて事故を減らそうという取り組みが進んでいます。
愛知県刈谷市内の通学路になっているある道路では、白線のほかに、緑色の線がもう一本引かれていて、子どもたちはその上を歩いています。
住宅街の交差点には、赤と白で十字のマークが書かれた場所もありました。
刈谷市教育総務課 稲垣賢幸さん:
「赤いマークを塗ってから、さらに上からバッテンを塗る形で手をいれさせていただいております。抜け道として朝晩については車が多く通る中で、児童の通学路として利用するので、学校から要望があった」

刈谷市では年に1回、小中学校や保育園、PTAなどと共に通学路の調査を実施し、特に危険度が高い場所から順に、年に50か所以上改善しています。
最近改善した場所のひとつが、この住宅街の交差点です。速度が出やすかったため、減速しやすいよう交差点の位置を示すマークを設置。また、下校する子どもたちが歩いていた緑の線は「通学路」だとわかるようにカラーリングされました。
日高小学校 内藤浩晃校務主任:
「見やすくなることでドライバーも気をつけてくださる方が多い。子どもたちも緑の線は意識して歩くようになるので効果がある」
“ななめ”の横断歩道で事故が半減 愛知・東郷町の取り組み

安全のための道路の改善は、他の自治体でも行われていました。
愛知県東郷町の交差点には、横断歩道が“ななめ”になっている「鋭角横断歩道」というものが設置されていました。横断歩道の角度は12度になっています。
通常の垂直な横断歩道と比べて、ドライバーから歩行者が見えやすくなる効果が研究により認められ、2024年3月末時点で愛知県内の332か所で導入されました。
このうち、設置前後で事故件数を比較できる26か所を見てみると、歩行者・自転車が関わる事故は、鋭角横断歩道を設置前の1年では17件ありましたが、設置後の1年では7件となりました。信号のLED化などもあわせて行われてはいますが、少しの工夫で半減しています。
国は自治体に対し、通学路の安全性を高める調査を行うよう呼びかけていていますが、頻度は定められておらず、取り組み方は自治体によってそれぞれです。
設備の力を借りつつ、歩行者も運転者も改めて気を引き締めて交通安全の意識を高めることが、命を守ることにつながります。「魔の7歳」といわれる時期を無事に乗り越えられるよう、地域全体で見守る体制づくりが求められています。