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備蓄米放出の舞台裏で『消えたコメ』はどこに?「令和の米騒動」新たな局面へ【大石解説】
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政府が備蓄米を放出し、3月には店頭に並ぶと言われています。
東日本大震災など災害緊急時ではなく、コメの流通不足による放出は初めてで、いかに異例かを物語っています。
現場で何が起きているのか?取材しました。
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コメの価格は上がり続け、5キロで3829円(2025年2月3日~9日)と高値が続き、消費者を悩ませています。その高値の原因は、いわゆる「消えたコメ」問題とも言われています。
収穫量増加にも関わらず集荷量減少
2024年産の米は679万トンと前年を18万トンも上回り、作況指数も全国で101と平年並み。
しかし、2024年12月末時点でのコメの集荷量は、前年を21万トンも下回る結果が明らかになり、収穫量が増えたのに集荷量は減った「消えたコメ」問題が浮上した。
国会でも大きく取り上げられた「消えたコメの行方」、江藤拓農水大臣は「どこかにスタッグ(停滞)している」との認識を示したため、スタッグさせている犯人探しが始まりました。
誰がコメを市場に出さず、さらなる高値を見込んで出し渋っているのでしょうか?
「今まであり得なかった」“流通ルート”の異変
通常、コメの流通ルートは生産者の農家から、JAなどの集荷業者、卸業者、そして小売を通して消費者に届きますが、取材を進めると、どうやらこのルートに異変が起きていました。生産者から直接コメを購入する消費者が増えていて、直接農家にアプローチしているといいます。
さらに、農家へのアプローチは今までではあり得なかったルートからも熱心にありました。
「JAよりも高く買います」業者の思惑は?
突然、全く知らない複数の業者らから電話がかかってきて「JAよりも3000円、または4000円高く買い取ります」という誘い文句を並べたといいます。
その農家はコメがどう扱われるのか不安だったため、これまで通りJAと取り引きしました。
こうした業者は、投機目的の新たな業者もいれば、足りなくなることを見越して早めに買い占めて在庫を持ちたい業者、手に入らなくなるのを避けたい加工業者や小売業者などもいるようです。
その業者の中で、さらなる高値を見込んで出し渋っている業者らから、コメを市場に出させるための最終手段が備蓄米の放出で、供給量が備蓄米によって増えれば、価格は落ち着くだろうという見立てです。
「消えたコメ」の意外な真相
しかし、私は取材を進めるうちに、それとは全く違う「消えたコメ」の要因を聞きました。
「消えたコメというが、もともとコメはそんなに無かったんですよ」
愛知県内の農家、JA、卸小売業者などが口を揃えて言っていたのです。
そのからくりを聞いて驚きました。
コメの収穫量は玄米で測られ公表されますが、消費者の手元に届くのは大半が白米です。
それまでに精米機で表面が削られ、無垢の白米になりますが、愛知県内ではその削られる量が例年よりも多いというのです。
JAによると通常は1割削られるため歩留まりは約90%、しかし今年の削られる量は約2割で、愛知県のあるブランド米は78%とかなり低調だったといいます。
愛知県の作況指数は98と全国平均を下回ったうえ、この歩留まりの悪さはJAにも衝撃を与えていたようです。
供給量が少ない中で、生産者がこれまでとは別のルートでコメを流通させていたとしたら…去年まで集まっていた場所にコメが少なくなるのはあり得る話です。
ちなみに農水省は「去年末の全国平均の歩留まりは90%を少し下回る程度で産地によって差があるのかもしれない」と説明しています。
「政府の説明」と「現場の実態」との“ずれ”
農水大臣が「コメはある」と豪語していましたが、そもそもコメがそこまでなかったとしたら…。本音としては、稲作を減らす減反政策を止めたものの、生産調整という名の減反によるコメ不足の批判を避けたいのでしょうか。
関係者らは「備蓄米は原則1年以内に買い戻すルールがあるため、単なる消費の先食いだ」と、さほど大きな効果は見込めないと予測しています。江藤大臣は、この1年ルールにこだわらないと会見で話しましたが、買い戻すタイミング次第では必要とされる金額も変わってくるだけに注目が集まります。
コストが急上昇し、数年前の米価では経営が成り立たなかった農家は「この米価なら正直助かる」と本音をもらす一方、これ以上高くなると「コメ離れが起きるのでは」と不安を隠せませんでした。農家や消費者などが納得できるような価格で落ち着くのか、令和の米騒動は次のステージへと入りました。
CBCテレビ 解説委員 大石邦彦