
うなぎが「安く美味しくなる」ヒミツは“下呂の温泉水” 岐阜の山奥で始まった陸上養殖 見据える将来は…過疎の街の“三方よし”

“うなぎ”がさらにぜいたく品に…?11月末の国際会議で、取引規制が強化されるかどうか採決が行われ、その結果が注目されています。こうした中「安く美味しいうなぎを届けたい」と養殖事業に参入した会社があります。場所は岐阜県下呂市。山奥で一体なぜ?
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名古屋から車で2時間。下呂温泉の温泉街の近くで“陸上養殖”の実験が始まったのは去年12月のこと。うなぎの養殖といえば、多くが池などで行われ、産地も海の近くが一般的ですが…ここは見渡す限り緑に囲まれた山の中。うなぎは、駐車場に建つ白いテントの中で育てられていました。
山の中でうなぎを安く養殖できるヒミツ
テントの中に設置された水槽は直径3.5メートル。約500匹のうなぎが飼育されています。陸上養殖は一般的に輸送費などコストがかさむ傾向にありますが、なぜうなぎを安く養殖できるのか…。秘密は水槽の「水」でした。
実は、水槽の中に流れ込む水は下呂の「温泉水」。燃料費が高騰する中、豊富に湧き出る温泉水をそのまま使うことで、大幅なコストダウンができるといいます。
事業を手掛ける「Tri-win(トライウィン)」の伊藤通康社長に聞くと…。
(Tri―win 伊藤通康社長)
「うなぎは28℃から30℃の水温が適温とされ、川の水などで飼育する他の養殖場では加温のコストがかかりますが、下呂の温泉水は水温が28℃前後のため加温が必要なく、コストの削減ができます」
川の水は時期によって水温が変化し、ボイラーで温度管理をしないといけませんが、温泉水ならその必要はありません。
(伊藤社長)
「水温を1℃加温するのに、年間100万円かかる。川の水温がだいたい15℃だったとしたら、うなぎの適正温度の30℃くらいまで加温するとなると、年間1500万円くらいかかってしまう」
しかも、うなぎの味にも特徴が…。
下呂の温泉水でうなぎを養殖すると…価格や味にも特徴
稚魚のシラスの高騰に、人件費、エサ代も上がり、うなぎは「値段が下がる要因がない」のが現実。こうした中、下呂の「温泉水」が養殖事業の強い味方になっています。
では、消費者はいくらで食べることができるのか?
(伊藤社長)
「一般に出回る養殖のうなぎより1割か2割安く食べられる。今一般で1800円なので、1500円から1600円で購入できます」
ことしの土用の丑で初めて100匹を出荷し、実際にうなぎを食べた人たちからは、こんな反応が…。
(伊藤社長)「臭みが少なかったとか、思ったより柔らかかったと言われた」
実は、下呂の温泉水は「単純アルカリ泉」で、硫黄や重金属などが成分として含まれていないのが特徴。うなぎを安全に食べられるほか、源泉掛け流しで養殖するため、水が濁らず、臭みの軽減されるといいます。
養殖事業に参入した1年目から手応えを感じる伊藤社長。来年には1万匹の出荷を目指していますが、その先には、さらなる展望も描いています。
うなぎ養殖が“地域の産業”になれば「三方よし」に…
もともとスーパーを経営し、水産関係にも詳しかった伊藤社長。当時から大切にしていた経営理念が、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よしの“三方よし”」。社名の「Tri-win」には「“三方よし”のビジネスモデルを作る…」との思いが込められています。
では、下呂の温泉水を使ったうなぎの養殖で『世間よし』とは何を意味するのかか?
(伊藤社長)
「下呂市が市町村合併以降、過疎化しているエリアで、閉業する温浴施設が増えていると聞き、その施設で元々働いていて、仕事が無くなってしまった人がいる」
下呂市の人口は1965年のピークから減少が続き、ことしは約2万8000人に。下呂温泉の旅館・ホテルの数もピークの半分以下の45軒と、地元で働く場の創出や、地域活性化は喫緊の課題。伊藤社長はその解決策として、うなぎの養殖事業が役立つと考えているのです。
(伊藤社長)
「閉鎖した施設を利用して、養殖施設や加工場、レストランができるかもしれないとなると、新たな雇用が生まれるんじゃないかなって思ったんです。温泉を使った養殖事業と遊休施設を使って行政とか過疎地を助けることができるのではないか」
現在、「Tri-win」がうなぎ養殖の実験を行っている場所も、以前は観光施設の駐車場でした。伊藤社長はこうした地域の遊休施設を活用しつつ、将来はうなぎの加工場や、レストランを建設し、雇用を拡大したいと考えています。
温泉水を使って育つうなぎは、養殖業者、消費者、そして下呂に住む人たちの“三方よし”を実現できるか…。伊藤社長の挑戦は続きます。





