
海がない岐阜県で海洋ごみ対策!? 県民の誇り「長良川」の清掃活動が伊勢湾の海洋ごみ削減の第一歩に

東海三県で唯一海に面していない「岐阜県」。海がないからこそ、長年、市民のシンボルとして大切にされてきたのが清流・長良川です。愛してやまない長良川を守るため行われてきたのが、25年以上の歴史を誇る大規模な清掃活動。この清掃活動が、伊勢湾の海洋ごみを削減する第一歩となるかもしれません。

10月27日、長良川、木曽川、揖斐川をはじめとする11の河川と伊勢湾海岸、三河湾海岸の2海岸で「川と海のクリーン大作戦」が開催されました。この清掃活動は、国や自治体、賛同企業や団体等の呼びかけによって実施され、住民、自治体、管理者などが連携することで美しい川やまちづくりを目指し、1999年から開催されています。今回は、この活動の一環として、岐阜市内で行われる「長良川一斉清掃」を取材しました。
「シビックプライド」長良川のごみ拾い活動が地域愛を育む

岐阜市の中心を流れる長良川は、1300年の歴史を誇る「長良川の鵜飼」が行われるなど、子どもからお年寄りまで、幅広い世代の市民が川遊びや散策を楽しむ岐阜市のシンボルです。そんな美しい水辺の長良川を後世に引き継ぐ活動として「長良川一斉清掃」が行われています。
「長良川一斉清掃」への協力を呼びかける岐阜市の基盤整備部河川課の川浪裕介課長は「長良川をきれいにすることで、岐阜市を観光などで訪れる来訪者のおもてなしにつながるとともに、岐阜市民1人1人の『シビックプライド』、つまり地域への誇りと愛着を育む大切な活動である」と話します。

「長良川一斉清掃」の清掃活動の範囲は、北は関市と隣接する岐関大橋から、南は大垣市と隣接する長良大橋までの約22キロメートルの区間。この間に24カ所のごみ集積所が設けられ、毎年、自治会や長良川沿岸に住んでいる近隣住民、水防団を中心に約2000人のボランティアと協力、約2トンのごみを回収しています。

岐阜市の千鳥橋と鵜飼大橋の間、日野堂後公園のグラウンドと長良川の間の河川敷の区間では、三重県と八千代エンジニヤリングによる散乱ごみの実態調査も行われました。
伊勢湾の海洋ごみは、主に岐阜県、愛知県、三重県の流域圏から発生していて、三県が連携を図りながら実態の把握と発生抑制の対策が進められています。
今回の実態調査は、伊勢湾に流入する河川の河川敷などに散乱するごみの実態を把握することに加え、参加者に身近な場所のごみの散乱状況を実際に見て知ってもらうことで、伊勢湾の海洋ごみの削減につなげることが目的です。これまで三重県鳥羽市の答志島や、愛知県名古屋市港区の藤前干潟周辺でも調査しています。

調査に協力したのは岐阜県の職員と八千代エンジニヤリングの社員など約15人。「飲料ペットボトル」「プラスチック製食品容器」「レジ袋」の3品目のごみを対象にデータシートに記入し、適切に処理されていないごみの量を把握します。調査場所は日野堂後公園周辺200メートル以内で約1時間かけて行われました。
毛布や工事資材、冷蔵庫まで! 長良川河川敷の「置き去りごみ」

朝6時半。清掃活動の集合場所に集まったのは、普段から長良川で清掃活動をしている団体の方や近隣住民、慈善活動をしている企業の方、行政の職員など110人です。
清掃活動団体の女性:
「岐阜の人からしたら、長良川は慣れ親しんだ場所だしごみ拾いなんて当たり前だから、普段からやっています」

この区間では、毎年ペットボトルや弁当容器などのプラスチックごみや空き缶、空き瓶などさまざまな種類のごみが回収されています。中でも特徴的なのは、木炭、花火の燃えカスなどのいわゆる「置き去りごみ」。長良川沿いは、川辺でバーベキューができる場所もあるためです。

大物を発見。工事用の資材でしょうか。
参加したボランティアの女性:
「クレーンの引き上げ用のロープかな。流れ着いたのかな・・・そんなわけないよね。工事が終わって捨ててったってこと?」

一方、ここから数10メートル離れた場所では、年配の男性が大きなごみの回収に戸惑っていました。回収しようとしていたのは、ビニールシートのようなごみ。土の中に深く埋もれて引っ張り出せませんでした。
参加したボランティア男性:
「これは無理だわ。下に埋まっとるもん」

こちらでも、絨毯のような大きなごみを回収。
参加したボランティア男性:
「ペットボトルとか発泡スチロールの容器とかはすぐに見つかるんですけど、見つけられたくないんでしょうね。こういう大きいごみは。目立たないような場所にあって、埋められているのが多い印象ですね」

清掃活動も終盤に近づいた所で、またもや河川沿いでは見慣れないごみが発見されました。まだ原型が残っている炊飯器。

発泡スチロールが砕かれた細かいごみを、1つ1つ回収していた女性たちもいました。
参加したボランティア女性:
「こんなに細かくなっていたら拾うのも大変。でもこれが川に流れたらもっと大変だからね」

今回の「長良川一斉清掃」で拾われたごみの総量は約1・6トン。取材した日野堂後公園では、ペットボトルやプラスチック容器に加え、工事用資材や絨毯、炊飯器に植木鉢、冷蔵庫などのごみも見つかりました。
また、実態調査の結果は45リットルのごみ袋で換算すると、ペットボトル1袋、プラスチック製食品容器が1袋、レジ袋は0・2袋。以前、調査を行った愛知県の藤前干潟に比べると、ごみの量は少ない結果に。
調査の分析を行った八千代エンジニヤリングによると、散乱ごみが少ない理由として、調査地点が藤前干潟と異なり「ごみが流れていく場所」で、他の長良川沿いと比較して人も集まりにくい場所だったということが推察されるそうです。一方で、人が集まりにくいからこそ不法投棄と思われるような粗大ごみも多数あったと考えられるそうです。
ごみ拾い意識の向上が鍵に 長良川清掃活動の継続が重要

長良川の河川ごみの現状について、岐阜県環境生活部廃棄物対策課の山内康裕課長に話を聞きました。
―――長良川の河川ごみの対策についてどんな課題感をもって取り組んでいますか
「まずは散乱ごみです。河川のごみは、市中に散乱しているごみが河川を通じて海に流れるため、その対策をとるのが岐阜県のスタンスです。どうしても長良川はごみが流れて集まる場所が少ないため、対策の取り方が三重県や愛知県と違い、まずは散乱しているごみを中心に拾っていこうという広い意味で取り組んでいます」
他にも岐阜県が提供しているサービスがあります。それがごみ拾いの様子を世界中に発信できるウェブページです。
「自主的な清掃活動の成果を『見える化』することで、県民における意識の醸成を図るために、ごみ拾いSNS『ピリカ』と連動するウェブページ『クリーンアップぎふ~海まで届け清流!~』を開設しています。これは『ピリカ』に投稿された清掃活動の成果等を、リアルタイムで反映しています。『ピリカ』を通じて『こういうごみを拾っていますよ』と発信することで、自主的なごみ拾いの意識を高めています」
―――河川ごみをさらに減らしていくにはどんなことが重要ですか
「河川ごみは減っていると思います。取り組みの成果がないわけではなくて、減ってはいるんでしょうけど、どれぐらい減ったのかという集計は難しいですね。ただ、1999年からずっと続けている活動なので、このまま継続していくことが重要なんだと思います」
海洋ごみ削減の鍵は意識改革 清掃活動から始まる新たな取り組み

河川から出たごみの影響について、伊勢湾の海洋ごみ問題を研究する四日市大学環境情報学部の千葉賢教授に話を聞きました。
―――ごみが河川から伊勢湾に流れていくまでにどのような影響をもたらしますか
「ごみが川や河岸の生物にどのような影響を与えているのかはよく分かっていません。ごみが溜まればそこに住んでいる動植物に物理的や化学的な影響を与えることは間違いありませんが、それが生物の存在までを脅かしているかは不明です。
今年の長良川の調査でも関市の鮎川大橋付近で大規模なごみの漂着が確認され、そこに生えていた樹木がなぎ倒されていました。ごみが溜まればその場所の動植物に影響を与え、また景観を悪化させ、衛生上の問題も発生するので環境的にもよくないとは言えます」
毎年、各地で市民によって清掃活動が行われてきました。しかし、ごみはすぐに流れつきます。千葉教授は現状を見た留学生からこんな質問を受けたことがあるといいます。
「私の研究室の留学生から『なぜ日本人は海岸に市民が集まり清掃活動をするのか』と質問されたことがあります。『行政が重機を使って定期的に清掃するのが合理的だ』と彼は考えた訳です」
「その質問に対して、私は、清掃活動は『ごみ問題を市民が意識するためにやるんだ』と答えました」
―――海洋ごみを減らすために清掃活動の役割はどのような点にありますか
「海岸や河岸での清掃活動は、その場所のごみを撤去するという意味もありますが、ごみは上流から繰り返し流れてくるので最終的には発生抑制をしないとごみは止まりません。岐阜県だけでなく全国各地で行われている清掃活動はごみ問題を国民全体の問題社会全体の問題だという意識を醸成するのに役立つと考えています」

清掃活動を取材した愛知県、岐阜県、三重県では、清掃した場所の軌跡を記録し、愛知県、岐阜県、三重県の連携を強調する文字を描くという取り組みも行われました。
スマートフォンのアプリで清掃活動中のGPSを記録。愛知県は「ん」と「な」と「わ」の3文字、岐阜県は「み」と「ん」の2文字、三重県では「の」と「い」と「せ」の3文字が描かれました。

合わせて読むと「みんなのいせわん」。軌跡を描いたように、実際に3県が手を取り合えば、少しずつ海洋ごみの削減に前進するのではないでしょうか。

清掃活動にはそれぞれ想いが込められており、地域ごとに拾われるごみや対策に特色が見られました。ごみを単純に拾い上げるためには、予算をかけて重機を使用することも可能ですが、「ごみを減らす、ごみが出たら適正に捨てる」という意識が希薄になっていく恐れがあります。清掃活動は単なるごみの除去ではなく、私たちが当たり前にすべき行動を再認識させる重要な役割を果たしているのかもしれません。
※この記事は、テレビ愛知と三重県、八千代エンジニヤリングによる共同企画です。