「創業105年の老舗銭湯の火を守れ」継いだのは脱サラした28歳の若者 日本の伝統文化を守る使命感

「銭湯は日本の生活習慣の文化。文化というのは、ひとつなくなるとどんどんなくなる。せめて八千代湯は残さないかん」。後継者不足に悩む名古屋市西区の銭湯「八千代湯」。先代の思いを受け継いだのは、脱サラした28歳の若者でした。苦境が続く銭湯業界にあえて飛び込んだ番頭の熱い想いに迫りました。
1日の“楽しみ”に銭湯へ

名古屋市西区にある創業105年「八千代湯」。2階建ての館内には、ジェットバスや露天風呂、サウナなどさまざまなタイプの施設があり、1日の疲れをゆっくり癒すことができます。

客:
「ここに来る人は40年来ているとか。だってここが100年でしょ? お客さん同士の差し入れがあったら交換するとか。人情だよね」
「毎日来る。1日の締めというかけじめというか。そういう感じでお風呂に来ます。1つの楽しみ」
「せめて八千代湯は残さないといかん」

午前10時、掃除をしていたのは、八千代湯を受け継いだ番頭の岡村淳徳さん(28)です。岡村さんが八千代湯を受け継いだのは2024年。大学を卒業し、サラリーマンとして働き始めて数年。岡村さんは、コロナ禍に自分の人生を見つめ直し、小さな頃から好きだった温浴施設を始めたいと考えるようになったといいます。
公衆浴場の組合に相談して、出会ったのが後継者が不在で困っていた八千代湯の先代、高井洋明さんでした。

八千代湯の先代 高井洋明さん:
「銭湯は日本の生活習慣の文化なんです。文化というのは、1つなくなるとどんどんなくなるんですよ。せめて八千代湯は残さないといかん、と」
ボイラーの故障により廃業する銭湯が多い

幼少期から母親に連れられて銭湯に行っていたという岡村さん。しかし、飛び込んだ銭湯業界は苦境に立たされています。コロナによる利用人数の減少や後継者不足などで、愛知県内の銭湯はこの10年で半減しました。
経営が厳しい中、銭湯を支える重要な場所があります。

岡村さん:
「ここはボイラー室になります。急に壊れたりすることがあるんで、大きいトラブルが頻繁に起こるわけではないですけど、小さなちょっとした水漏れとか。この1年修理とか故障にずっと悩んでいた気がします。想像より多かったです」
ボイラーはお風呂の生命線で、壊れてしまうと買い替えに莫大な費用がかかります。岡村さんによると、ボイラーが壊れたことが原因で辞めざるを得ない銭湯がたくさんあったといいます。
銭湯文化のバトンをつなぎたい

番台に立つだけでなく、こうした裏方の作業がとても重要なのです。でも、苦しいことばかりではありません。岡村さんは、あるやりがいを見つけていました。
岡村さん:
「銭湯っていうのは人と人との距離が近い商売になるので、すごく近くでお客さんの喜ぶ顔とか、ありがとうの声をいただけるというのはすごくやりがいになっています。(銭湯は)日本特有の文化なので、それを継承して守り続けていくっていうのは、仕事をするうえですごいモチベーションになっています」

日本特有の文化を守りたい。岡村さんの挑戦はまだ始まったばかりです。
岡村さん:
「僕が先代からバトンを渡してもらったように、僕もいずれ誰かに八千代湯という店を渡して、僕は150年目指して、その先に200年とか。八千代湯がどんどん続いていけるようにがんばりたいなと思います」