政府が無償化を進める「給食費」あえて“値上げ”する自治体も 「質と量を保てるか」疑問の声

学校生活に欠かせない給食。給食が楽しみだったという人も多いのではないでしょうか。実は今、この給食にかかる費用について、無償化か、はたまた値上げか。愛知県内の自治体によって対応が分かれています。「給食費」を巡る自治体の対応を取材しました。
給食の無償化をしている自治体は547

文部科学省によると、1カ月分の給食費の平均は、愛知県内の小学校で4457円、中学校で5252円です。1年間で計算すると小学校が5万3484円、中学校が6万3024円です。ただ現在は、給食費の無償化をしている自治体も多いんです。
2023年9月時点で公立小学校・中学校に通う全員の給食費を無償化している自治体は547。全体の約3割です。

県内では、4月時点で豊田市やみよし市、安城市など7つの自治体が無償化しています。(豊田市、みよし市、安城市、津島市、飛島村、豊根村、南知多町)
このうちみよし市は2024年1月から無償化を実施。国やほかの自治体も無償化に向けて動くきっかけになればという期待も込めて、県内でも早く無償化に取りかかったとしています。
一方、給食費を引き上げた自治体もあります。それが長久手市、日進市、東浦町、知多市。このうち日進市の担当者に話を聞くと、給食費引き上げの背景にあるのは食材費の高騰です。
コメは前年の同時期に比べて2倍以上 日進市は交付金を活用

例えばコメの価格。政府が放出した備蓄米は店頭での販売が始まっていますが、全国のスーパーでの販売価格は14週連続の値上がりです。4月6日までの1週間で5キロあたり4214円。2024年の同じ時期に比べると2倍以上なんです。

日進市では、物価高騰に伴う給食費用の負担を軽減する国からの交付金を活用していますが、それでも追いつかない状況でやむなく値上げしました。
無償化しても、給食の質や量は担保できるの?

限りある財源の中での食材費が高騰。そこで政府が給食費の無償化に向けて動き出しています。25年2月、自民党と公明党、日本維新の会は全国の公立小学校・中学校での給食費無償化に合意しました。まずは2026年度に小学校で実施。その後、中学校にも拡充していくとしています。
しかし課題も残りそうです。取材をした自治体の担当者も無償化は本当にありがたいと話していた半面、無償化されても給食の質や量を担保できるのか、との指摘もあります。取材をした愛知県内のA市では、給食ではなるべく地元の食材を使うように心がけています。

ただ、農家の数は年々減少していることから地元だけでは給食用の食材を賄えず、ほかの地域から仕入れをしていました。そうなると、輸送コストが上乗せされて食材費が高くなります。
こうした中で給食の質や量を担保しようとすると、自治体にとってはかなり負担が大きいんです。国による無償化がどのような形になるかはまだ分かりませんが、決められた予算内で食材費をやりくりするとなると、「給食の質を下げることにならないか」との心配があるそうです。
国には自治体に合わせた支援を求めたいという声もありました。
給食は「食育」の場、地域全体の連携が重要に

学校給食制度に詳しい跡見学園女子大学の鳫咲子(がん・さきこ)教授は「国による無償化は大事」とした上で、給食の質や量の担保には「自治体にとどまらない協力体制が必要」とのこと。地元の農業組合や他の自治体から食材を調達したり、都道府県がそうした制度を整えたりするなど、周辺地域の連携を強めて給食を支えることが大事だと話していました。
無償化によって子育て世帯や自治体の金銭的負担を減らすことも大切ですが、給食は日本人の主食であるコメを食べたり、地産地消を学んだりなど「食育」の場でもあります。子どもたちの健やかな成長を第一に考えた給食制度であってほしいと願います。