
医学部受験ってどれだけ大変? お金はどれぐらいかかる? 医系専門予備校の説明会はまるで就職セミナー

大学受験で「難関」と言われる医学部。お金もすごくかかって、全くの別世界と思う人も多いのではないでしょうか。医学部専門の予備校が開いた説明会場で、いまどきの医学部受験事情を探ってみました。

8月11日、名古屋駅前のビル8階で、50人を超える人が受け付けが始まるのを待っていました。高校生とともに、親の姿が多くみられます。
医系専門予備校「メディカルラボ」による「全国医学部進学相談会」で、7月から9月にかけて札幌から福岡まで全国7会場で開かれています。
名古屋会場には364人が参加しました。東京会場の参加者は1600人を超えたそうです。
会場に全国各地の大学のブース

会場には、順天堂大など関東の大学から九州の福岡大学まで、医学部をもつ大学のブースが並んでいました。まるで就職セミナーです。
中でも藤田医科大(愛知県豊明市)のブースには、用意していた椅子に座りきれないほどの参加者が並びました。
藤田医科大は、病院に40を超える診療科があり、病床数は日本一。今年5月には、医学部の学費を2026年度から約30%下げると発表して注目されました。
参加者からは「学費の値下げで志願者数や難易度がどう変わる?」「大学はどのような研究をしている?」といった質問が多く寄せられ、「学費の値下げをきっかけに志望校に加えた」という声もあったといいます。
藤田医科大は「臨床と研究をバランス良く伸ばしていくには、優秀な学生が欠かせない。教育現場としての魅力を高校生や保護者に正しく理解してもらうため、学費のハードルを下げる必要があると判断した」と説明します。
国公立大の医学部も

ブースの一つには国立の三重大も。
「三重大といっても、名古屋で知名度が高いとは言えないので」と、担当者2人が説明にあたりました。
担当者がアピールしたのは、独自のカリキュラム。
「医学部の全カリキュラムの3分の2程度は文科省によって決められていますが、3分の1は独自で決めています。三重大学は、1学年125人がいくつかのグループに分かれ、県内各市町に出向いて地域の課題を聞く実習をしています。地域課題への貢献に対する意識向上を目指していることを伝えたい」と話していました。
三重県は北部と南部で地域差が大きく、特に尾鷲・熊野などの南部地域や伊賀地域で医師不足に悩んでいます。
三重大医学部は学校推薦で募集する40人のうち30人を「地域枠」として、修学資金を貸与します。卒業後9年間は県内の病院で勤務し、そのうち1~2年は医師不足の地域で勤務しています。
関西の京都府立医大のブースもありました。
名古屋から毎年10人ほど入学しているといい、学生から「受験前に話を聞ける機会があればよかった」という声があったといいます。
担当者は「名古屋から意外に近く、京都に住んでみたいということもあって選ばれているのでは」と話します。
京都府を中心に、福井県や滋賀県、兵庫県、大阪府にも関連病院があり、それらの地域医療を担っていますが、特に日本海側の地域で医師が不足しているといいます。
今春の入試(前期日程)の志願倍率は2.7倍でしたが、志願者がここ数年減少傾向にあり、京都府内にとどまらずに優秀な学生を広く募集したいということです。
参加者に聞く「なぜ医学部?」
参加者に声をかけると、「志望は医学部一本」と口をそろえました。
制服姿で来ていた男子生徒3人は、浜松市の私立高校2年の同級生。いずれも大手進学塾に通っていますが、医系専門予備校も考えているそうです。
父が泌尿器科の勤務医という生徒は「父はとてもしっかりした人で、自分もそんな大人になりたい。『医学部に行くならお金は出す』と言ってくれて、自分自身と父のために合格したい。でも父は3浪しているので、不安もあります」。
祖母が看護師で、「多くの人を幸せにできる」と医師を目指す生徒は「父が東京工業大の出身なので、僕も(東工大と東京医科歯科大が統合した)東京科学大に行きたい。医師になるには大学入試が一番の難関。今がんばれば幸せな未来が待っていると思って勉強しています」。
もう1人の生徒は、父まで3代続けて消化器内科の開業医。「バスケットボールが好きで、勉強とスポーツを両立できる筑波大が第1志望。父は『医院を継がなくてもいい』と言ってくれていて、将来は理学療法士と連携できる整形外科医になりたい」と話していました。
女子の姿も目立つ
女子生徒の姿も目立ちました。
愛知県豊川市から来た私立高校2年の女子生徒は、一緒に来た母親が看護師でした。
急病に倒れたり事故に遭ったりした人を母が助けたことを何度か目にして、「私もこんな時に助ける側の人になりたい」と救命救急医を目指しています。また、「女性の医師はまだまだ少なくて、患者さんのニーズも高いと思う」といいます。
看護師の母は「医師にしかできないことがたくさんある」と娘に期待しています。
一方で「医学部入試は特別なので専門の予備校に通わせてあげたいけれど、やはりお金の問題が…。地域は選ばないから、なんとか国公立に入ってほしい」と話します。
岐阜市から来た県立高校3年の女子生徒は、父が外科系の開業医。松本潤さん主演でドラマ化もされた漫画「19番目のカルテ」を読み、患者の病気だけでなく生き方や社会の問題にも向き合う医師の姿に憧れたといいます。
志望校は「いいところがたくさんあってまだ決められない」。入試で課される集団面接の対策のため、この予備校を考えているということです。
一緒に来た母親によると、開業医の家庭でもお金の問題は大きいといいます。
「夫は私立大医学部の出身ですが、奨学金の返還が大変でした。私立の学費は下がりつつあるとはいえ、やはり国公立との差は大きいと思います」
医学部卒業までにかかるお金は?

医学部に合格してから、卒業までにはどのくらいのお金がかかるのでしょうか。
国公立大の医学部の学費は他の学部と同じですが、少なくとも6年間通う必要があり、約350万~410万円かかるといいます。
全国に31ある私立大医学部の学費は大きな差があります。
メディカルラボが運営するサイト「医学部受験ラボ」の「私立大学学費ランキング」の2025年度版によると、6年間の総額が低い大学は以下のようになっています。(教材費や諸経費などを除く、1万円以下は四捨五入)
1位 国際医療福祉大 1850万円
2位 順天堂大 2080万円
3位 関西医科大 2155万円
4位 日本医科大 2200万円
5位 慶應義塾大 2242万円
一方、6年間の総額が高い大学は…。
1位 川崎医科大 4740万円
2位 東京女子医科大 4621万円
3位 金沢医科大 4054万円
4位 埼玉医科大 3957万円
5位 北里大 3953万円
藤田医科大は、このランキングで低い方から12番目ですが、2026年度からの学費値下げで「慶応大などと同程度になる」としています。
藤田医科大によると「私立医科大の偏差値の序列は、学費の低さに比例する」。
大学の調査によると、過去に学費を下げた私立大医学部では、受験者が20%ほど増えたといいます。このため、来年の藤田医科大の一般入試の受験者は、今年の1625人から2000人前後に増えると見込んでいます。
医学部専門予備校は増加傾向

少子化で受験人口が減りつつある日本ですが、医学部に特化した予備校はむしろ増える傾向があるそうです。
メディカルラボの教務統括で、8月11日の説明会で受験対策を解説した可児良友さん(61)は、その背景をこう話します。
「少子化でも医学部は志願倍率が下がらず、今後も厳しい競争が続きます。また、医学部を目指す生徒の親御さんは、教育への投資に熱心な方が多いです」
大手予備校と比べ、医学部に特化した予備校は少人数教育が特徴だといいます。
2006年に設立されたメディカルラボは、初めて完全なマンツーマン授業を始めたことを売りにしています。
それだけに学費は高校3年生向けの「総合コース」が年間300万円余り、高卒生向けは500万円余りで、生徒は医師や会社経営者の家庭が多いといいます。
一方で年間90万円弱の単科コースもあり、会社員の家庭から通う生徒も増えつつあるそうです。
医学部入試の「特殊性」
メディカルラボの可児さんは「医師国家試験の合格率の高さから、医学部の入試が事実上の就職試験なんです」といい、医学部入試の特殊性として、こんなことを挙げました。
1.ボーダー偏差値(合格可能性50%の偏差値)が高い
2.大学ごとに出題傾向が大きく異なり、それぞれの対策が必要
3.面接試験が厳しい
マンツーマン授業の強みは、生徒それぞれの得意・不得意をしっかり把握できて、志望校の出題傾向に対応した授業ができることだといいます。
一方で、それができる質の高い講師を確保することが難しく、生徒数をあまり増やせないという課題もあるということです。
(メ~テレ 山吉健太郎)