
四日市市の水害 線状降水帯が発生していないのに豪雨 警報でも要警戒【暮らしの防災】

2025年9月12日、三重県四日市市では午後10時すぎまでに、1時間降水量としては観測史上最大の約123.5mmを観測しました。この時、大雨警報(土砂災害)、大雨警報(浸水害)、土砂災害警戒情報、洪水警報が出ていました。最近、大雨警戒のトリガーになる「顕著な大雨に関する情報(線状降水帯情報)」や「特別警報」は発表されていませんでした。しかし、大雨で市街地は冠水、地下駐車場は水没しました。この「暮らしの防災(2025年7月6日配信)」でお伝えしたように、「線状降水帯」が発生しなくても災害級の大雨になるのです。降雨災害について改めて考えます。
街の防犯カメラ ドラレコに記録された状況

四日市市の水害は街の防犯カメラや地下駐車場を利用する車のドラレコに記録されていました。あっと言う間に街が冠水し、その雨が地下駐車場に流れ込んでいく様子が克明に記録されています。
水害の恐ろしさ、その早さがわかる貴重な映像です。ご提供いただいた方に感謝いたします。
四日市市の警報類

四日市市のHPには、当日の状況についてまとめた記者発表資料が掲載されています。
(出典:四日市市 令和7年09月17日 記者発表資料 9月12日からの大雨による被害状況について(令和7年9月17日午後7時現在))
【9月12日(金)】
午後7時09分・・大雨警報(土砂災害)発表、災害対策本部設置【警戒初動体制】
午後7時50分・・洪水警報発表
午後7時55分・・土砂災害警戒情報
午後9時53分・・大雨警報(浸水害)発表
午後10時00分・・記録的短時間大雨情報
午後10時14分・・四日市123.5ミリ/時(津地方気象台発表)
午後10時20分・・災害対策本部【警戒第2次体制】
午後10時40分・・避難指示発令(常磐、日永、浜田、共同、中央、港、塩浜、四郷、川島)
【9月13日(土)】
午前2時47分・・洪水警報、大雨(浸水害)警報解除
午前4時05分・・土砂災害警戒情報解除、大雨警報(土砂災害)継続
午前6時00分・・避難指示解除【警戒第1次体制】
午前6時41分・・洪水注意報解除
午前7時52分・・大雨警報(土砂災害)解除【各課1名以上警戒第1次体制】
午後3時28分・・大雨注意報解除【通常体制】
これを見てわかるように、線状降水帯に関する情報や特別警報は出されていません。また、冠水被害が発生したのが午後10時ごろと推定されますが、市が避難指示を出したのが午後10時40分です。ちょっと遅い印象があります。
気象庁の防災気象情報や自治体からの避難情報はデータに基づいていて、その閾値を超えるか超える可能性が出た場合に発表されます。ですので、多くの場合現場で起きていることの後追いになりがちです。
そうならないために気象庁や国土交通省は、台風接近時などはかなり早い段階で記者会見を行い「今後、警報、特別警報などを何時ごろに発表の可能性あり」と、早期に警戒を呼びかけるようにしています。とは言え急に積乱雲が発達し、いわば不意打ちで大雨になります。このようなケースでは得てして防災気象情報は、現実の追認的になります。
自分たちの身は自分たちで守る

12日午後10時ごろの気象レーダー画像を見ると、三重県四日市市付近に強い雨雲があることはわかりますが、帯状になった「線状降水帯」は認められません。また気象庁のHPによると三重県四日市市の特別警報の発表基準は、48時間降水量496 mm、3時間降水量189mm、土壌雨量指数 285SWI、このいずれかの基準値をクリアすることとなっています。これは50年に1度の値とされています。やはり達していません。
防災気象情報などは、基準(閾値)に基づいて「市町村=面」に対して発表されます。災害は局所的に(ピンポイントで)発生します。雨も「面」に対して広く降る場合もあれば、「ピンポイント」で降る場合もあります。つまり「ピンポイントで降る突然の大雨からは、自分たちで身を守る」しかありません。どうすればいいのでしょうか?
それは、「警報」の段階で警戒するということです。外出を控える、安全な場所にいる、避難に困難が伴う要支援者は避難行動を開始すると言う事です(警報は警戒レベル3)。
特別警報の運用が始まった時、多くの防災関係者が心配したことが「警報」が軽視されるのでは…ということでした。「警報」が出ても住民が危機感を持たなくなるのではと案じました。当たり前ですが、「警報」は極めて重要な防災気象情報です。
大股は危険が伴う場合も…

外出中に、浸水・冠水が始まったら歩行者は、小股&すり足で歩いて、浸水エリアから離れて下さい。普通の歩幅・足を上げて歩くと水面下にある穴や陥没、側溝に落ちる可能性があります。ズリズリとすり足です。写真のような大股は危険が伴う場合があります。
車は、浸水エリアから低速で脱出です。車輪の半分に達する浸水が目安です。約水深30cmとされています。あくまでも目安ですのでご注意ください。アンダーパスや高低差がある道路への進入は控えてください。
自分で危機を感知して避難行動に移る

気象庁、国土交通省、自治体は住民を守るために、一生懸命になって防災気象情報や避難情報を検討・開発して、発表しています。取材を通じてその努力は正直スゴいと感じています。
一方、私たちは、自分たちが住んでいる場所、いる場所のハザードを把握して、自分で危機を感知して避難行動に移る必要があります「防災気象情報を待ってはいけないケース」もありえます。最大限の危機になった「特別警報」を待たずに、「警報」の段階で身を守る行動に移るのが手堅い方法と考えます。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。