
終活の一環 自筆証書遺言 母親が次男宅で書いた遺言 筆跡など巡り長男と長い法廷闘争になったことも

自らの最後のメッセージを書き残す「遺言書」は、自分の財産を誰に残したいかという想いを反映させながら、遺産を巡るトラブルを防止することなどが期待できます。もっとも、遺言書の1つ「自筆証書遺言」は筆跡や遺言能力など巡り、争いになるケースもあるといいます。
亡くなった後に自分の意思を伝える「遺言書」

遺言書は自分の意思や想いを相続人などに伝えるための手段の一つで、「不動産を特定の相続人に相続させたい」「法定相続人以外にも財産を残したい人がいる」などの場合、亡くなった人のメッセージ(遺言書)に沿って相続手続きが進められることから、残された人達の間で、争いやトラブルになるのを避けることが期待されます。
気軽に作れる一方でデメリットも

遺言書には「自筆証書遺言」と、公証人が関わる「公正証書遺言」などがあります。自筆証書遺言は、遺言者自らが書くもので、1人で手軽に作れて、気持ちに変化があったときはいつでも書き直すことが出来る一方、以下のデメリットがあると久屋アヴェニュー法律事務所の服部由美弁護士は指摘します。
□形式面に不備があると遺言書が無効になる
・「年月」だけや、「吉日」と記載するなど具体的な「日」が特定されていない
・パソコンで作成していて自筆で書かれていない(財産目録は除く)
・訂正方法が正しくない
・2人以上の者が同一の書面で遺言した「共同遺言」 など
□自宅で保管されることが多く、亡くなった後に遺言書が見つからない
□遺言書を見つけた人などによって中身が改ざんされるおそれがある
□遺言書の偽造・変造を防止するため、相続人や遺言書を保管する人は、相続開始後、家庭裁判所に検認を申し立てる「検認」手続きが必要
デメリットを補う制度 「自筆証書遺言書保管制度」

上記の自筆証書遺言のデメリットを補う制度として、令和2年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」があります。同制度では、全国の遺言書保管所(法務局)において、自筆で作成した遺言書を保管してもらうことができるほか、遺言者があらかじめ希望しておけば、遺言者の死亡時に通知をしてもらえます。
また、家庭裁判所における「検認」手続きも不要となります。さらに、遺言書の保管申請時には、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、外形的なチェックを受けられます。もっとも、遺言の内容の相談については応じてもらえません。
たまにお泊まりにいっていた次男宅で…

服部弁護士は自筆証書遺言について、その内容が不利になる相続人により、「本当に遺言者が作成したものなのか」「遺言者には遺言する能力がなかったのではないか」など、有効性が争いになることがあるといいます。
例えば、長男と同居していた母親が、たまにお泊まりにいっていた次男宅で次男に有利な内容の自筆証書遺言を残したという事案で、遺言者である母親の死後、長男がその筆跡や母親の遺言能力などを争ったケースがありました。
服部弁護士は「もしかしたら、母親がそのような遺言を残した背景には長男一家に対して何らかの不満があったのかもしれません。しかし、母親が、実際に生じた兄弟間での極めて長い法廷闘争まで予想していたかは疑問です」と話します。
最近では、自筆証書遺言作成時の動画を残すことも多いといいますが、服部弁護士は「動画があっても遺言が無効とされた裁判例もあるので、留意が必要です」としています。
また、服部弁護士は「書き方や内容などで不安が残る場合は専門家(弁護士など)に相談をして、残される大切な人たちの笑顔を心の中で思い描きながら、終活の一環として最後の自分のメッセージを残してほしい」と話しています。
【取材先】
久屋アヴェニュー法律事務所
弁護士 服部由美