
適中率は約10% 「線状降水帯の情報」が出たらどうすればいいのか?【暮らしの防災】

気象庁は、線状降水帯が「発生する可能性がある場合」「発生した場合」に警戒を呼びかけます。この「顕著な大雨」が「線状降水帯」のことを指しています。情報の対象地域は都道府県単位です。現状は、情報を出したのに実際には発生しなかった「空振り」、情報を発表していなくても線状降水帯が発生した「見逃し」が多く、これは気象庁も認めています。しかし、私たちメディアはこの情報が発表されると報道します。それはなぜか?また、この適中率が低いという情報が発表されたら住民はどうすればいいのでしょうか?「線状降水帯の情報」が意味することについて説明します
<適中率約10%>

図は2024年10月に気象庁が発表した「線状降水帯についての資料」からの抜粋です。2024年は、81回、線状降水帯発生の呼びかけをしていて、実際に発生したのは8回で「適中率は約10%」。また、線状降水帯は21回発生していて、このうち8回について情報を発表していたので「補足率は約38%」でした。気象庁は、当初、適中率25%程度、補足率50%程度を目指すとしていたので、想定を大きく下回っています。
このデータだけを見ると、情報が出た地域は豪雨になっていないように見えます。実は、そうではありません。結構、降っているんです。
<線状降水帯とは>

気象庁は、線状降水帯を「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなし、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域」と定義しています。
この定義を満たした雨雲にならないと「気象庁的に線状降水帯発生」になりません。ここがポイントです。
<注意点その1 線状降水帯未満の豪雨帯>
前出の2024年10月の気象庁の資料には、「線状降水帯発生の呼びかけを行った81回中、線状降水帯の発生「あり」は8回であるが、それ以外にも、3時間降水量が100mm以上となったのは27回あることから、この呼びかけが行われたときには、大雨災害への心構えを一段高めていただくことが重要である」とも書かれています。
つまり線状降水帯のような大きな雨雲(積乱雲の群)になっていないものの、それよりも小さいサイズの雨雲が大雨を降らせていたケースがあるんです。気象学的には「積乱雲の状況」「継続時間」「大きさ」などの定義をする必要があります。しかし、雨雲がその定義を満たしていないからと言って「危なくない」とは言えないのです。
<注意点その2 対象地域の周辺で豪雨が発生する可能性>

気象庁は「線状降水帯の情報」を、2024年から「都道府県」単位で発表しています。それまでは「地方」単位でしたが、予報モデルの改良による降水予測の精度改善に加え、これらの技術の新たな活用により、府県単位での情報発表を実現したということです。
雨雲の位置は「風」などの気象状況と「地形」の影響を大きく受けます。この「風」の予測はかなり難しいとされています。雨雲(積乱雲)が出来てもそれが「どこで停滞するか」は、だいたいは予測できるのですが、誤差がありえます。
雨雲が「気象庁が絞り込んだ地域」からずれる可能性もあるのです。つまり線状降水帯の情報が発表されたら、その対象地域だけでなく周りの地域でも警戒する必要があります。線状降水帯には及ばないものの、局地的に豪雨になる可能性があるからです。
<早めの避難を>
気象庁は、線状降水帯が発生する可能性がある場合、半日ぐらい前に情報を出して警戒を呼びかけます。豪雨による被害が想定されている地域の人は、この段階で早めの避難をお勧めします。
そして、線状降水帯が発生したら「発生情報」を出します。この場合、豪雨で住民の避難場所への避難が難しい可能性大です。「水平避難(避難場所への避難)」ではなく、「垂直避難(階上避難)」「家の中での安全な場所への避難(屋内避難)」「ご近所さんの2階などへの避難」が適切です。危険な場所に居る方は、その時考えられるベストの安全な場所に避難してください。
「適中率」という基準でみると「線状降水帯の情報」は確度が低い防災気象情報です。しかし、情報の対象地域は危険な雨雲(積乱雲群)が発生する気象状況にあります。気象庁から情報が発表されたら、「警戒」と「こまめな情報チェック」が必要です。
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。