
【独占告白】崖っぷちからの復活劇 中日・大野雄大、15年目の覚悟「もう終わっていく投手の内容だった」

プロ15年目のベテラン左腕、中日ドラゴンズの大野雄大投手(36)が、往年の輝きを取り戻しつつある。左肘の手術を乗り越え、一時は「正直もう完投はできないと思っていた」と語るまでに至った男が、なぜ再びマウンドで躍動できているのか。その裏には、厳しい自己評価、発想の転換、そして後輩への意外な「恩返し」があった。
3年ぶりの完投勝利 「まだできる」と掴んだ自信

7月12日の広島戦。9回のマウンドに上がった大野は、最後の打者をサードゴロに打ち取ると、静かにグラブを叩いた。実に3年ぶりとなる完投勝利。それは、長いトンネルを抜けた証だった。
「もう正直、完投はできないと思ってたんですよね。今年(2025年)も春から投げてますけど、5回か6回がいっぱいいっぱい。そこまで投げられたらOKだと正直思っていました。でも、あの試合で『まだできるんだ』という自信になりましたし、チームを1つ救えたかなと思います」
今季はここまで13試合に登板し、チーム2位の6勝、防御率2.72と安定した成績を残す(8月5日試合前時点)。しかし、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかった。
「これはもう終わっていく投手の内容」大幅減俸と向き合った現実

2023年に受けた左肘の手術の影響は大きく、ここ2年間は1軍に定着することすらままならなかった。2024年はわずか2勝。オフの契約更改では、1億8000万円もの減俸を受け入れ、単年契約を結んだ。
「去年(2024年)の数字を見返したら、ひどいんですよね。これはもう終わっていく投手の内容やなって、今年見返して思いましたね」
厳しい現実を突きつけられ、退路を断たれたシーズン。大野は「勝負の年」と位置づけ、あえて調整ペースを上げた。2月1日のキャンプイン初日からブルペンに入るなど、開幕ローテーション入りへ並々ならぬ覚悟で臨んだ。
転機となった「負け試合」 山井コーチも認めた一戦

オープン戦で結果を残し、開幕ローテーションの座を掴むと、4月3日には同い年の田中将大投手が移籍した巨人との一戦で対決。「マー君(田中投手)と投げ合えるのはうれしかったけど、力みすぎましたね」と5回4失点で敗戦。その後も登録抹消を繰り返すなど、順風満帆とは言えなかった。
そんな大野にとって、今シーズンの大きな転機となったのは、意外にも“負け試合”だった。
「日本ハム戦ですね。負けてしまった試合なんですけど、多分今年一番状態が良かった。自分でも良いと思えたし、山井(大介)ピッチングコーチにも『今日めちゃくちゃ良かったな』と言ってもらえた。自信を持つきっかけになった試合です」
それは6月20日の交流戦。首位を走る日本ハム打線を相手に7回1失点と力投。打線の援護なく敗れたものの、この試合が大きな手応えをもたらした。山井コーチも「あの試合で7イニングを投げたことで、『俺はまだやれるんだ』と思ってくれたんじゃないかな。若いカウントで打たせて球数を少なくイニングを稼ぐ、というピッチングができています」と、ベテランの投球術の変化を評価する。
後輩・尾田への食事会、その真相は「励まし」ではなく「感謝」

グラウンド外でも、大野の行動が話題を呼んだ。先日、若手の尾田剛樹選手らと食事をした際の写真をSNSに投稿。尾田選手がミスで二軍降格となった直後だったため、多くのファンが「大野が後輩を励ますための会」だと受け取った。
しかし、その真相は少し違った。
「今年3月のオープン戦で、ライトを守る尾田がファインプレーをしてくれたんです。あれが抜けていたら2点入っていました。おかげで僕は、開幕ローテーションに残ることができた。『お前が俺の生活を救ってくれたんだ』と。それが(食事に誘った)きっかけです」
崖っぷちにいた自身を救ってくれた後輩への「恩返し」だったのだ。誘われた尾田選手は「僕のこと(二軍降格)も励ましてくださって、本当にいい人すぎる。僕みたいな若手にも声をかけてくださるのは本当にありがたいです」と、その人柄に感謝しきりだ。
「いまは次の登板が保証されていない中で投げている。『次は俺だ』と待っている若い投手もたくさんいる。だからこそ、必死に結果を残そうと思えるのが良い方向につながっているんだと思います」
どん底を知る36歳。一球一球に魂を込め、若手の模範となりながら、9月のシーズン最後までローテーションを守り抜くことを誓う。ベテラン左腕の覚悟が、チームを勝利へと導く。