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認知症リスクを20年先まで予測 カギは血液中のタンパク質25種類 名古屋大などの共同研究

メ~テレ
03.15(土)08:00

認知症を発症するリスクを20年先まで予測する検査法を、名古屋大学などの共同研究グループが開発しました。カギを握るのは血液中にある25種類のタンパク質。すでに一般向けの検査サービスも始まっています。

共同研究の成果を発表した名古屋大の勝野雅央教授(左)と平賀経太医員(右)

 共同研究をしたのは、名古屋大学大学院医学系研究科の勝野雅央教授(脳神経内科)と名古屋大医学部附属病院の平賀経太医員(脳神経内科)、米国国立衛生研究所、NECのグループ企業「フォーネスライフ」などのグループです。

認知症患者の約6割がアルツハイマー病

国内の認知症の原因疾患。アルツハイマー病が6割超を占めるとされる(厚労省の資料などから)

 国内の65歳以上の認知症有病率は15%と推定されていて、このうち6割超がアルツハイマー病、残る4割がレビー小体型や脳血管性などとされています。

 アルツハイマー病の患者は、脳内に「アミロイドβ(ベータ)」と「タウ」という2つのタンパク質がたまっていることがわかっています。発症リスクを知るため、脳内にアミロイドβがどれぐらいたまっているのかを調べたり、脳脊髄液を検査したりする方法がありますが、体に負担がかかり、高額でもあることが課題でした。

 また、遺伝子型を検査してリスクを知る方法もありますが、認知症の発症は生活習慣や環境の影響も大きいとみられており、一生変わらない遺伝子型の検査だけでは限界があるといいます。

血液中のタンパク質からリスクを予測

20年後の認知症発症リスク。「低/低‐中リスク群」が29.0%、「中‐高リスク群」が48.7%、「高リスク群」が63.4%だった(名古屋大学大学院・勝野教授提供)

 そのなかで、血液中のタンパク質を調べることでリスクを予測する方法が注目されています。

 米国のバイオベンチャー企業「SomaLogic」(現在は合併して「Standard BioTools」)は、血液の中にあるタンパク質を約7000種類調べる技術を開発しました。人工的に作った核酸(アプタマー)を、狙ったタンパク質に結合させて調べる方法で、「SomaScan法」と名付けられています。

 当初は心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクを調べることに使われていましたが、「認知症の発症リスクもわかるのではないか」と、数年前から今回の研究が進められました。

将来の認知症リスクは上下する

20年後の認知症発症リスクを4つのグループに分け、その15年後を調べたところ、リスクが上がったり、逆に下がったりしたケースがあった(名古屋大学大学院・勝野教授提供)

 研究グループは、米国の約1万5千人から20年以上にわたって提供された検体を調べ、認知症の発症と強い関連があるタンパク質を25種類に絞り込み、「dSST」という指標をつくりました。
「dementia(認知症) SomaSignal Test」の略称です。

 25種類のタンパク質には、多いと発症リスクが高くなるものや、逆に低いと発症リスクが高まるものがあり、それぞれの数値を計算式に入力してdSSTの値を出します。

 これによって、米国の検体を「低リスク群(緑)」「低‐中リスク群(黄色)」「中‐高リスク群(オレンジ)」「高リスク群(赤)」の4つに分類しました。20年以内に認知症を発症する可能性は、「低リスク群」では3.8%、「高リスク群」は35.6%でした。

 日本の国立長寿医療研究センターがもつ検体をdSSTで調べたところ、日本人でも同様の結果が得られました。
 「低/低‐中リスク群」「中‐高リスク群」「高リスク群」の3グループに分けたところ、20年後の発症可能性は「低/低‐中リスク群」が29.0%、「中‐高リスク群」が48.7%、「高リスク群」が63.4%でした。

 一方、検体を提供した人の15年後を調べたところ、一般的には加齢によってリスクが上がるとされますが、逆にリスクが下がった人もいました。この研究でその理由までは明らかになっていませんが、勝野教授は「認知症の40%は予防できるといわれています。運動や脳トレをしたり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を改善したりすることが、リスクの低下につながることを裏付けているのではないか」とみています。

認知症に関係するタンパク質はどんなもの?

 タンパク質は人体の重要な構成要素で、血液中には約1万5千~2万種類あるといわれています。

 今回の研究で認知症と関連しているとわかった25種類のタンパク質には、どんなものがあるのでしょうか。

 「ニューロフィラメント」は、脳内の神経細胞(ニューロン)の骨組みのようなもので、神経細胞が壊れるとこれが露出し、血液に流れ込むとみられます。

 「インターロイキン」という物質は体内に炎症があると増える物質で、これが脳内に入って炎症を広げ、認知症になりやすくすると考えられます。

 「キチナーゼ」はALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者で数値が上がるといい、神経の炎症に関わっているとみられます。

 このほか、膵臓ホルモンなども認知症に関係していることがわかりましたが、脳内でどのように働いて認知症につながるのか、まだわからないものが少なくないといいます。

「最新の体の状態でリスクを予測できる」

名古屋大学医学部・医学部附属病院(名古屋市昭和区)

 研究成果は2月12日付の米国科学雑誌「Alzheimer’s & Dementia」に掲載されました。

 勝野教授は「普段の健康診断の血液検査で測定しているのもタンパク質ですが、ごく限られたものだけで、これを7000種類も調べる方法が発見されたのは画期的でした。アルツハイマー病を含むすべての認知症で、大きな負担をかけずに最新の体の状態のリスクを予測できることがわかり、予防の面でも大きな意義があると考えられます」といいます。

 平賀医員は、レビー小体型認知症の研究に取り組んでいます。「アルツハイマー病はかなり研究が進んで治療薬も開発されていますが、レビー小体型認知症はアルツハイマー病に次いで多いにも関わらず、根本的な治療薬はおろか、早期診断もまだ難しいのが現状です。この研究を生かしてレビー小体型認知症の高リスク群を早く見つけ、予防法につなげていきたい」と話しています。

一般向けのサービスも

 研究を企画した「フォーネスライフ」(https://foneslife.com/)は、SomaScan法やdSSTを使った認知症リスク予測を一般向けに提供しています。

 「フォーネスビジュアス」というサービスで、オンラインや指定の医療機関で申し込み、医療機関で問診と少量(5ml)の採血をします。1カ月半から2カ月後に医療機関を通して検査結果を受け取り、保健師の資格を持つスタッフからオンラインや電話で生活習慣改善のアドバイスを受けられます。

 費用は自由診療の扱いで、認知症のほか心筋梗塞や脳卒中、肺がん、慢性腎不全のリスクも予測するセットで5万4780円などとなっています。

(メ~テレ 山吉健太郎)

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