
高度な医療サービスを受けるため日本へ 外国人の需要が高まる「医療ツーリズム」 超音波を脳に照射する最新治療を受ける中国人男性に密着 【チャント!大石が聞く】

大阪・関西万博が開幕してから間もなく1か月となります。大勢の外国人観光客も訪れている万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。その命を支える日本の医療が外国人から今注目されています。診断や治療を目的に日本を訪れる医療ツーリズムの実態を取材しました。
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円安などの影響もあってインバウンドが好調な日本ですが、実は観光目的だけではない観光客も訪れています。中国・北京から中部国際空港に到着した王里順(オウ・リーシュン)さん79歳が日本を訪れた目的は…。
(王里順さん)
「15年前から手の震えがひどくて、日本で治療を受けたい」
今回の旅で観光以上に期待しているのが日本の最先端医療。
(王里順さん)
「先生からは治療を受けたら80%治ると聞いたので。希望を持って、やってきました」
今回、王さんが訪れるのは、岐阜県美濃加茂市にある中部国際医療センター。去年10月には中国・上海にある病院と連携し、患者受け入れの準備を進めるなど、医療ツーリズムに力を入れています。
(中部国際医療センター 山田實紘 理事長)
「非常に素晴らしい日本の医療を、医療がうまくいっていない地域の人たちに利用していただければ、日本と海外の友好が医療によって良くなる」
2日前に来日した中国人の王さんは今この病院に入院していて、きょう治療を受けることになっています。
(王里順さん)
「この治療で症状が改善できたら、うれしいと思います」
「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」の最新治療とは
王さんが長年苦しみ続けているのが、体を動かそうとすると意志に反して震えてしまう「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」という病気。発症の原因は不明で、特に中高年に発症しやすいと言われています。その治療方法とは…。
(機能神経外科 中坪大輔 医師)
「脳の視床(ししょう)という所に千本くらいの超音波を集めることで、温度を上げて熱凝固する治療法になります」
活動過剰で震えの原因となる脳の場所を超音波で焼いて活動を抑えるのです。日本でも20ほどの医療機関でしか受けられない最新治療で、中国では、ほとんど行われていません。
治療前に王さんの今の状態を確認すると、ペンを持って検査用のシートに印刷された図形をなぞったり、名前を書こうとしても手が震えてうまく書けません。さらに向かい合った医師の指先を自分の指先を合わせようとしても震えがとまらず、うまく触ることができません。王さんの症状は重度でした。症状は果たして改善されるのか。
(機能神経外科 中坪大輔 医師)
「1回目の照射をします。この段階だと患者さんは何も感じないと思います。すごく弱いエネルギーなので」
1回の照射時間は20秒ほど。患者の状態を見ながら照射回数や温度を調整していきます。
日本の医療を受けたい中国の富裕層
(機能神経外科 中坪大輔 医師)
「非常に超音波が通りやすい方ですね。すごく弱くても45℃まで上がっているので。注意しておかないといけない」
照射位置が数ミリずれるだけで脳の大切な部分が焼けて、手のしびれや言語障害が出る恐れも。経験と高い技術が求められます。
王さんの治療が進む中、娘の諾(ダク)さんが病院にある質問を…。
(王さんの娘 諾さん)
「認知症の治療領域で強みを教えていただけますか」
実は諾さんは中国で医療ツーリズムをサポートする会社を経営しています。父親の治療を日本の医療機関とのパイプ作りにも役立てたい考えです。
(王さんの娘 諾さん)
「中国の地方の医療サービスを考えると、もしかしたら日本の1970年代くらいかもしれない。中国の富裕層には日本の医療を受けたい人がたくさんいるので、このビジネスにはニーズがあります」
治療後、症状は明らかに改善する結果に
一方、王さんは2時間で12回の照射を受けました。照射する前とは違って、向かい合った医師の指先と自分の指先を合わせることができるようになり、震えて上手く書けなかった名前も書くことができるように。多少の震えは残っていますが、治療前と治療後を比べると、その差は歴然です。
(王里順さん)
「(Q:治療は大丈夫でしたか?)問題なかったです。耐えられる程度でした。治療後に書いた漢字は今から10年前くらいに書いていた字のようです。ここまで症状が改善できて、生活の質も上がって、すごく満足しています。100%の改善はできないけれども、今の状態にすごく満足しています」
円安もあって、ますます伸びているインバウンド。観光のついでではなく、初めから先進医療を求めて海を渡ってくる人も、今後さらに増えそうです。