
2歳の娘を襲った「レット症候群」 今は会話や食事も難しく… 手が傷ついてもやめられない“特徴的な仕草” いつかまた「パパ、ママ」と呼んでくれる日を信じて 主に女の子に発症する難病

異変に気付いたのは、愛娘が2歳を過ぎた頃。根本的な治療法が見つかっていない「レット症候群」だった。私は、この難病と向き合う一家を取材した。
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若い夫婦と、娘と息子の4人家族。愛知県内に住む一家に出会ったのは、5年前に新築で購入したという一軒家だった。こだわりが詰まったデザイン住宅で、日当たりがよい「2階リビング」が特に気に入ったという。唯一の欠点は、自分たちが年老いて、足腰が弱った時「果たして階段を上がれるだろうか…」ということ。
しかし、その不安が、こんなにも早く訪れるとは。しかも、最愛の娘のことで。
手をもんだり、たたいたりする“特徴的な仕草”
結婚して4年目に待望の第一子を授かった。名前は香乃(かの)。
順調にすくすくと育ち、2歳になる頃には、元気な声で「パパ、ママ」と言い、食事も1人でできるようになっていた。
しかし、ほどなくして香乃ちゃんに異変が現れ始めた。手をもんだり、手をたたいたりするような仕草がみられるようになったのだ。
最初は気にもとめなかったが、それが頻繁に見られるようになり、ネットで検索してみると、すぐに「レット症候群」という聞き慣れない病名が目に飛び込んできた。
主に女の子に発症する難病“レット症候群”
そこには想像を絶する、信じ難い説明ばかりが羅列されていた。そのほとんどが女児を襲う進行性の神経発達症で、遺伝子に異常が起こる約一万人に1人の難病だったのだ。日本には20歳以下だけで約1000人の患者がいるが、根本的な治療法はまだない。徐々に歩けなくなったり、物を掴むこともできなくなったり、話せなくなったりする“退行”が大きな特徴という。
つまり、これまで成長に合わせてできていたことが、成長するにつれてできなくなってしまう、身体的かつ知的障がいなのだ。お腹にいるときも、出産後も異常が見つからず、乳幼児になってから気づくことが多いという「レット症候群」。それまでは健常な子どもと行動も変わらないようで、最終的には遺伝子検査をして診断は確定するという。
以前はできていた「食事」も徐々に難しく…
香乃ちゃんはいま、小学1年生。私と出会ったとき「何歳?」「名前は?」という簡単な問いに答えることはなかった。ひたすら私を見つめ、手をたたいていた。
その手には絆創膏が貼ってあったが、手が傷ついても、手をたたく行為は止められないのだ。痛さよりも優先される不随意運動。
両親に聞くと、2歳を過ぎた頃から徐々に「レット症候群」特有の行動が現れ始め、程なくして食事も一人ではできなくなった。
一番悲しいのは「パパ、ママ」と呼んでくれなくなったこと。ただ、それでも「パパとママを認識してくれていると信じています」と話してくれた。
日本では未承認の“治療薬”
小学1年生になった香乃ちゃんは、愛知県内の支援学校に通い、日々自立のために授業を受けているという。
将来はどうなってしまうのか。未来への不安がつきまとう中、両親は治療薬に期待している。
レット症候群ならではの症状を緩和させる治療薬が、日本でも治験段階に入っている。しかし、この薬はアメリカではすでに承認されていて、販売されているのだ。
また、遺伝子薬もアメリカでは治験が進んでいて期待されているという。アメリカで進む治療薬の浸透と開発、一方で遅れる日本。自身の娘もレット症候群を患う患者の支援団体の代表・谷岡哲次さんは「日本だけ取り残されるのがこわい」と、危機感を募らせる。
いつかまた「パパ、ママ」と呼んでくれる日を信じて
以前は歩くことができた香乃ちゃん。いまも自力でなんとか歩くことはできる。しかし、階段などの段差は苦手で、1人では上ることができなくなった。
「いまは2階リビングを後悔しています」父親はそう語るが、前を向いている。いつか、きっと治療薬ができて、娘が笑顔で「パパ、ママ」と呼んでくれて、一人でご飯を食べてくれて、階段を一人で上れると信じているという。
今回の取材は、父親から是非とも取材してほしいと依頼を受けて実現した。
「『レット症候群』という難病を知ってもらい、社会全体にも理解してほしい」との思いからだった。理解が進めば、治療薬の開発なども加速するのではないか、そんな期待もあるという。
いつの日か、陽射しがさんさんと降り注ぐ2階にあるリビングのように、この家族を明るい光が照らしてくれることを願わずにはいられなかった。
【CBCテレビ論説室長 大石邦彦】





