
飛行機の脱出スライドで重傷者 危ない“あおむけ姿勢” 万一のため知ってほしい「やってはいけないこと」

飛行機から緊急避難する時に使われる「脱出スライド」で、けがをする乗客が相次いでいます。原因の多くは「滑る姿勢」で、骨折の大けがになることも。
夏休みは家族で旅行する機会が多い時期です。万が一の時、安全に脱出できますか?

愛知県の中部空港で2年前、緊急着陸した飛行機から脱出スライドで避難した乗客の1人が重傷を負いました。
国の運輸安全委員会が今年3月に公表した航空事故調査報告書などから、その経緯をたどります。
「爆破予告」機内に緊張が走った

2023年1月7日午前6時36分、LCCのジェットスターが運航するエアバス機が成田空港を離陸し、福岡空港に向かいました。乗客は136人、乗員は6人でした。
離陸直後、ジェットスターに爆破予告の情報が入り、エアバス機は急きょ中部空港に着陸することになりました。
午前7時41分、中部空港の滑走路に着陸。機長は乗客をすぐ避難させるため、脱出スライドを使うことを決めました。
「爆破予告があり、緊急脱出を行います」と機内にアナウンスが流れました。
乗客の1人はメ~テレの取材に対し、「早朝の便なので寝ている人が大半だったけれど、アナウンスでパッと起きた。えっ、怖いなと思った」と話していました。
滑走路に着陸すると、前後左右にある計4つの出口が開けられ、スライドが下ろされました。
乗客は約4分半で全員脱出しましたが、左後方のスライドから降りた67歳の男性が、腰の骨が折れるけがをしてしまいました。
また、24歳から40歳の男女計4人が、手のひらや肘にすり傷を負うなどの軽いけがをしました。
脱出後に機内を調べたところ、爆発物はありませんでした。
骨折した乗客は「あおむけの姿勢」

飛行機が離着陸する滑走路は硬く舗装されています。
腰の骨が折れた男性は「スライドを滑るスピードが上がり、腰から落ちた」と話したそうです。
脱出の様子は、中部空港のスカイデッキにいた見学者らによって撮影されていました。
その映像には、この男性があおむけの姿勢でスライドを滑り、そのまま滑走路に飛び出した様子が映っていたそうです。
機内には4カ所の非常口に客室乗務員が1人ずついて、「座ってすべって。手はひざに」などと乗客に呼びかけていました。
しかし、大けがをした男性は客室乗務員がいたことに気付かず、「座ってすべって」という声も聞こえていなかったそうです。
ジェットスターは全乗客におわびし、振替や払い戻しなどの対応をしました。
脱出スライドの使い方は「安全のしおり」やホームページなどで案内していましたが、重傷者が出たことを受け、「上体を起こす」ことをイラストでより強調したということです。
8人の重傷者が出た事故も

脱出スライドでのけがは、過去にも相次いでいます。
1974年から2017年までの約1500件の航空事故調査報告書のうち、乗客が脱出スライドを使って避難したことが14件あり、このうち13件でけが人が出ていました。
特に、1991年9月に成田空港で起きたノースウエスト機のエンジン火災では、脱出時の重傷者が8人も出ました。
機内の圧力が高かったために非常ドアを開けるのに手間取り、さらに窓から炎が見えたこともあり、一部の乗客が脱出スライドに殺到。滑走路に背中や腰を強く打ったり、乗客同士が衝突したりしたといいます。
脱出時に大けがをするケースは、背中や腰から滑走路に落ちた場合だけではありません。
無事に降りたけれど、後から降りてきた人に押し倒されて足首を骨折したり、他の乗客のスーツケースが当たって指を骨折したりしたケースもありました。
脱出スライドでけがをしないために

脱出スライドでけがをしないため、航空会社はこう呼びかけています。
■ お尻をつけて滑る
スライドは、滑り台のようにお尻をつけて滑るように設計されています。
両足を肩幅ぐらいに開くと、体が安定しやすくなります。
■ 上体を起こして両手を前に、前傾姿勢
体をしっかり起こします。
全日空は、両腕をまっすぐ前に伸ばし、手をグーにするよう呼びかけています。こうすることで重心が前になり、スピードが出ることを防ぎます。
あおむけの姿勢になると重心が後ろになり、余計にスピードが出てしまいます。
■ 着地点を見る
安全に着地するため、滑りながら着地点をしっかりと見ます。
■ すぐに飛行機から離れる
火災や爆発の危険があるため。
■ 手荷物を持ち出さない
荷物を持っていると脱出が遅れたり、滑る時に他の人に当たってけがをさせたり、スライドを破損させたりする危険があるためです。
■ ハイヒールは脱ぐ
脱出スライドはガスで膨らませていて、尖ったヒールがスライドを傷つけたり、スライドに引っかかったりする危険があります。
■ 地上で援助を
誰もが正しい体勢で脱出できるとは限りません。そこで大事なのが、援助する人です。
脱出スライドの横に立ち、降りてきた人の腕を取って体を起こすのを手伝ってください。
スライドの正面に立つと、滑ってきた人と衝突して転倒する恐れがあるので注意してください。
(メ~テレ 山吉健太郎)