
最大11mの津波が押し寄せる!新しい避難訓練で“命を守る”リアル体験「5分以内に約300m先までたどり着けるか」

センサーがついた特殊な靴に、専用のゴーグル。視界には海沿いの町が広がっています。画面奥からは津波が襲ってきました。
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中央大学の有川太郎教授が開発しているのは、VR=仮想現実と、屋内型ランニングマシンを組み合わせた新しい「避難訓練」です。
(有川太郎教授)
「バーチャル空間の中で1本か2本かの避難経路を示せるような状態を作る」
この装置、もともとゲーム用で、すり鉢状の台の上を、センサーのついた靴で歩くと映像が連動して、バーチャル空間に没入できると言います。
住民の約1割が津波で死亡する
ゴーグルの中に再現されていたのは三重県の最南端、紀宝町の町並み。南海トラフ巨大地震では最大で11メートルの津波が襲い、住民の約1割、900人が津波で死亡するとされています。
バーチャル空間には、津波の到達も再現されていて、訓練は津波が到達する前に避難所に指定されている、町役場まで逃げようというもの。
(有川太郎教授)
「“適切な経路”で避難をすれば確実に人命の被害は抑えられるので、訓練をいかに効率的にやるかが大事」
有川教授は、もともとは津波から町を守る、防潮堤の設計などを専門にしていましたが、東日本大震災ではその防潮堤を津波が乗り越え、多くの命が失われました。
(有川太郎教授)
「一番悩んだのは本当に今までの対策でよかったのか。防波堤・防潮堤があったから逃げなかった人がいたというのが一番きつかった」
津波を防ぐより「どう避難するのか」に研究を切り替えた有川教授。
海沿いに住宅が密集し、道も入り組んでいる紀宝町でより早くより安全な避難の在り方を行政と探ってきました。そして、去年12月、町の人たちに“VR避難訓練”を体験してもらうことに。
5分以内に約300m先の町役場までたどり着ける?
あえて町役場から離れたところに住む人を14人選び、土地勘のない場所での「最適ルート」をバーチャル空間で覚えてもらいます。
(町民)「これでここに入るんですね」
目の前の矢印に従って進むと、「最適ルート」で町役場にたどり着けるようになっています。
(町民)「役場やん。防災タワーがみえる」
実際に津波が到達するとされる5分以内に、約300メートル先の町役場にたどり着けるのか。その場に行かなくても体験できるVR避難は住民だけでなく、観光で訪れる人たちにとってもメリットがあると町も考えています。
(紀宝町 防災対策課 堀勝之課長)
「町外や県外の人に事前に避難経路を確認してもらうとか、これくらいのスピードだったら津波にのまれるとかを体験してもらいたい」
翌日、VR避難訓練を体験した人たちは実際に「最適ルート」で逃げられるのか。スタート地点は海のすぐそばで、目に入る高台は、正面の山だけ。町役場は周りの建物が邪魔をして視界に入りません。
14人中“最適ルート”で避難できたのは…?
女性は山に向かわず、左折して役場の方向に。前日にVRで訓練したとおりです。
しかし、途中で道が分からなくなってしまいます。
地元の人に道を尋ねて役場を目指しましたが、案内されたのは右に曲がる「最適ルート」ではなく、左の「分かりやすい道」。女性は結局、遠回りをして町役場にたどり着きました。
別の男性は…スタート地点から見えなかった町役場ではなく、橋を渡り、山の方に向かってしまいました。しかし、この山に続く道はなく、大回りをして緩やかな坂道をのぼり続けることに。
(男性)
「ここまで来たらもう大丈夫だと思う」
「高台しか頭になかった。高い建物の場所も知りませんし」
今回の検証では14人のうち、VRで体験したはずの「最適ルート」で避難できたのは3人だけ。一方、役場に向かわず、山へ向かってしまった人は2人で、土地勘のない人が津波から逃げる難しさが際立つ結果に。
(有川太郎教授)
「体験した人の多くがリアリティが少ないとおっしゃっていたので、リアリティの向上が一番の課題。思わぬところから来る津波もバーチャルの中ではうまく再現できると思うので想定しないようなことを訓練できる場になると考え、今後も作っていきたい」
東日本大震災から14年。津波から命を守る試行錯誤が続く中、発生確率が「80%程度」に上げられた南海トラフ巨大地震。その時は、確実に近づいています。