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1万5000人に1人…遺伝性の難病ALD 早期発見で進行抑えられるが検査は自治体間で“差” 難病と闘う2つの家族
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脳の神経が壊れていくALDという遺伝性の難病があります。
早期に発見できれば進行を食い止められるといいますが、国の対策は道半ばです。この難病と闘う2つの家族に密着しました。
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名古屋市港区に住む太田佑弥さん(30)。
佑弥さんは11歳で寝たきりになりました。
(佑弥さんの母親・美穂さん(54))
「子供扱いというか抜けきれてないんですが、なんか私の中では4年生の発症した頃で止まっちゃっているのかなって…」
佑弥さんは体内で特定の脂質が分解できず、脳の神経が壊れていく遺伝性の難病ALDです。
(佑弥さんの母親・美穂さん)
「元気、元気で、いたずらしたり…元気な赤ちゃんでした」
「字がきれいに書けなくなってきた」10歳で起きた異変
病気を発症したのは10歳を過ぎた頃。
それまではサッカーやピアノが大好きな少年でした。
(佑弥さんの母親・美穂さん)
「これは4年生の連絡帳なんですけど、この4月は割ときれいにまっすぐに字が書けているかなと思うんですが、(7月ごろは)ちょっと字が汚いというか、何回も消して書いてある」
小学4年生の夏ごろ、字がきれいに書けなくなり、階段は足元を見ないと降りられなくなりました。「目が悪いのでは」と眼科へ行くと…
(佑弥さんの母親・美穂さん)
「『(視野が)筒から見ている状態だ』と言われて、そのときに初めて私の両親から『私(美穂さん)の兄がALDだった』と知った」
「ごめんね このまま進行しないで…」兄をALDで亡くした母の思い
小学6年生で亡くなった兄も実はALDで、初めに耳や目が悪くなったと両親から聞かされ、精密検査を受けたところ佑弥さんもALDとわかりました。
当時の日記には…
(佑弥さんの母親・美穂さん)
「ごめんね、ゆうくん。ごめんね、ごめんね。どうかこのまま進行しないで」
佑弥さんは小学4年生の2月、有効な治療とされる骨髄移植を受けましたが、病気がすでに進行していたため、その後寝たきりに。
今は話すこともできず、母親の美穂さんやヘルパーの介助で生活しています。
ALDの3つのタイプと早期診断・治療の重要性
ALDは男性に多く、およそ1万5000人に1人の遺伝病。
脳の神経が壊される最も症状が重い「大脳型」。
血圧や代謝をコントロールする副腎が機能しなくなる「副腎不全」。
成人に多く、歩行困難になる「脊髄症」の3つに分かれていますが、中でも進行が早く、早期の骨髄移植などを必要とするのが佑弥さんがなった大脳型です。
(佑弥さんの母親・美穂さん)
「(兄が)どういう病気だったと聞いておけば、進行する前に骨髄移植ができて、ずっと元気でいられたかもしれないと…。本当に申し訳なくて、佑弥に」
ALD診療の第一人者、岐阜大学病院小児科の下澤伸行医師は…
(岐阜大学病院小児科 下澤伸行医師)
「一番(進行が)早い『小児大脳型』というのが、MRIの画像変化が出てから発症する前までに6ヶ月以上あるといわれているので、発症前に診断して適切な時期に移植することによって発症自体を阻止することが一番いいと考えている」
できるだけ早期の診断と、症状が進む前の骨髄移植などが必要なALD。
難病ALDと診断の12歳少年 将来の夢は…
岐阜県内に住む、陸人くん(仮名・12)。
陸人くんもALDの「大脳型」です。
(陸人くんの母親)
「歯茎の色が黒かったので、おかしいなと思ってたんですけど、小児科に聞いても『今は特になにも症状もないし、いろんな皮膚の色の子がいる』と『経過を観察していきましょう』ということでした」
2歳のころ、歯茎が黒く変色し、6歳で「ALD」と診断。
その後MRI検査で脳に病変が確認されましたが、妹の骨髄が適合し、すぐに移植できたため、病気の進行は抑えられています。
幼い頃から病院へ行くことが多かった陸人くん。将来の夢は…
(陸人くん)
「放射線技師になりたい。いろんな検査をしてきて、かっこいいなって」
「不自由なことが出てくるかも」将来について伝えられた陸人くんは
しかし、ALDが完治したわけではありません。毎日、食後の薬は欠かせません。
(記者)
「いつまで飲み続けるの?」
(陸人くん)
「たぶん将来ずっと」
「副腎」の機能も下がっているため、ステロイドホルモンの投薬を続けています。さらにこの日、お母さんから病気の今後について話が…
(陸人くんの母親)
「目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったりとか、そういうことはないんやて。だけどまだこの先に、脊髄症状といってちょっと不自由なことが出てくるかもしれない」
(陸人くん)
「確定?」
(陸人くんの母親)
「出ない人もいる。でも出る人の方がちょっと多い。完全に終わったわけではない」
(陸人くん)
「え…いやだ」
(陸人くんの母親)
「いやだよね。そうだよね…」
将来について隠さずに伝える母親。
その言葉を受け止める陸人くん。
(陸人くん)
「もっと早く検査を受けて治療したら普通に生活できるから、たくさんの人に検査を受けてほしい」
早期発見が重要「新生児マススクリーニング」の課題
いかに早期に見つけるかが重要なALDの治療。
ここ数年、赤ちゃんの先天性疾患を調べる「新生児マススクリーニング」にALDを加える自治体が増えています。
現在、愛知県と岐阜県を含む全国18県。
リスクが見つかった赤ちゃんは定期的な検査を受け、早期の骨髄移植に向け備えることができます。
しかし検査は有料な上、他の自治体では受けられず、全国一律公費負担になるかが課題といえます。
(岐阜大学病院 小児科 下澤伸行 医師)
「こども家庭庁の研究班で、新生児マススクリーニングの対象疾患拡大についての議論が行われている。そこでこの病気についての必要性を報告している」
こども家庭庁は現在、新生児マススクリーニングの対象にALDを加えるかどうかを検討中。下澤医師も加わる研究班に、新たな疾患を追加する条件について研究を委託しています。
我が子と自身も難病ALD 母子の願いは…
11歳で寝たきりになった太田佑弥さん(30)の母親・美穂さん(54)
(美穂さん)
「反応がなくなってしまった時も『栄光の架橋』を聞いて笑顔が戻ったということがあって、一番大好きな曲だね』
好きな音楽や声かけに反応を示す佑弥さん。
(美穂さん)
「みんなに(ALDを)知ってもらいたいのと、もしそういう子が生まれたとしても、早くに見つかれば大丈夫ということも広まるといいかなと思う」
こう話す、母親の美穂さんも実は2年前、ALDを発症していました。
(美穂さん)
「女性はそんなに急速に進行しないんじゃないかといわれてるが、『大脳にいってしまったら骨髄移植をしないといけない』といわれている」
医師からは近いうちに歩けなくなると言われています。
それでも佑弥さんと2人でできるだけ長く過ごしたいとリハビリを続けています。
(美穂さん)
「知られていない病気なので広めていく役割があると思いますが、できるだけ長く一緒にいたいというのがあるので、可能であれば一緒に入れるような施設を探したいと思っています」
「一緒に頑張ろうね。一緒にいようね、2人でね」