
親子二人三脚で壁を登り続ける スポーツクライミング・高尾知那「お父さんのビレイは必要」

スポーツクライミング国内トップクラスの実力を持つ愛知の大学生。活躍の裏には、サポートする父の存在がありました。

一見どこにでもいる普通の親子。実は、深い信頼関係で結ばれる練習パートナーなんです。
愛知県豊田市出身、スポーツクライミングの高尾知那(たかお・ともな)選手。
去年9月に開かれた、大学生の世界選手権で優勝。日本代表としてワールドカップ出場の経験も持つ、中京大学の3年生です。
スポーツクライミングとは、ホールドと呼ばれる人工の石が設置された壁を登っていく競技。
登る速さを競う「スピード」、アクロバティックな動きが特徴の「ボルダー」、ロープを使って、登った高さを競う「リード」の三種目あります。
高尾選手の得意種目は、最も長い距離を登る「リード」。
「私は粘り強い登りができる方で持久力があるので、上部でもめげずに握り続けられる」(中京大学 高尾知那 選手)
高尾選手を支える父の存在

平日は週に3回、地元・豊田市内にあるボルダーができるクライミングジムで練習。しかし、県内には得意のリードができる練習施設がないため、週末はほぼ毎週、車で静岡や滋賀のジムへ遠征しています。
往復6時間かかることもある距離を運転するのは、父・和則(かずのり)さん53歳。高尾選手が中学生のときから7年間、送迎をし続けてくれています。
Q.車内ではどんな話をするか
「何も話さない。本当に無言です…(笑)」(高尾選手)
「そんなもんでしょ」(父・和則さん)
和則さんのサポートは、送迎だけではありません。
練習中は「ビレイ」と呼ばれる、選手の命を預かる重要な役割。地上でロープを持ち、全体重をかけて急速な落下を防ぎます。
ほかの選手やジムのスタッフが行うこともありますが、主に和則さんがビレイを担っています。
「私もやると『ビレイ マジ疲れるな』と思うので、(お父さんも)疲れると思う。お父さんと一緒に練習するとたくさん本数をこなせるから、練習の密度が違う。ありがたい」(高尾選手)
小学1年ではじめたスポーツクライミング。きっかけは趣味でやっていた和則さんの影響でした。言葉を交わさなくても、2人の息はぴったり。
6分間登り続ける練習を1日に20本。4時間以上練習する日もあります。
「疲労はそんなに無い。そんなに無いというか考えないようにしている。『あす仕事があるから早く終わりたい』とかも言わないようにしている」(父・和則さん)
親子で挑む一発勝負の戦い

日常生活では、高尾選手がサポートすることも。信頼関係バッチリな高尾親子には、重要な戦いが控えていました。
「日本代表が決まるので、リードジャパンカップで決勝に残って表彰台に上りたい」(高尾選手)
3月、三重県伊賀市で開かれた「リードジャパンカップ」日本代表を決める、一発勝負の戦いです。
パリオリンピックで活躍した森秋彩(もり・あい)選手をはじめ、世界でもトップクラスの選手が集う中、3年連続の代表入りがかかる高尾選手は予選を3位で通過します。
迎えた準決勝。決勝に進出できるのは、27人中わずか8人。ここを勝ち抜けば代表が内定します。
大会のビレイは運営スタッフが担当するため、父・和則さんは客席で見守ります。
石の間隔が遠く、身長149センチと小柄な高尾選手にとっては難しいコース。それでも持ち前の持久力を生かし、順調に登っていきましたが、結果は12位。
11位までが選出される日本代表入りを、ギリギリで逃してしまいました。
大会を終えて…

1か月後、地元・豊田で普段と変わらず練習している高尾選手の姿がありました。
「(日曜日に)大会が終わって月曜日、火曜日はずっと泣いていた。『こんなに苦しいの?』って。人生で最大」(高尾選手)
それでも、この苦しい経験から得た気づきもありました。
「登る技術は負けていないと思う。私より順位が上の選手は私より自分を貫いていた。私ももっと自分を出していきたい」(高尾選手)
父だけでなく、自分を信じ貫くことを課題に練習に励む高尾選手。これからも親子二人三脚で壁を上り続けます。
「ビレイやってと言われればやるし、オリンピックの強化指定選手に選ばれる可能性はあるから、次のロス五輪までは最低でも頑張ってほしい」(父・和則さん)
「選手でいる間はお父さんのビレイは必要。まだビレイし続けてもらいます!」(高尾選手)
(5月1日放送 メ~テレ『ドデスカ+』「じもスポ!」コーナーより)