「移転」か「同じ場所に整備」か どうなる?名古屋市の東区役所 施設の老朽化で紆余曲折8年

各地で問題となっている公共施設の老朽化。名古屋市の「東区役所」では、新たな区役所を整備するための”移転計画”に、区民から反発の声が上がっています。
使い込まれた階段に、はがれた壁や雨漏りする天井。
今から55年前に完成した名古屋市の「東区役所」。市内16の区役所のうち、最も古い建物です。
「ちょっと老朽化しているなと思うし、階段もちょっと古いかな。ほかの区役所も行ったことがあるが、(東区役所は)ちょっと狭い」(30代の東区民)
「私は場所が好きではない、地下鉄がもうちょっと近くに通っているところに代わってほしい。やっぱりきれいな方がいい、他の所がちょっとうらやましい」(50代の東区民)
改築検討の背景

名古屋市が東区役所の改築の検討を始めたのは2017年です。
新たな庁舎では土木事務所の機能なども集約するため、今の場所では面積が足りず、周辺の土地を借りて「拡張」する計画が進んでいましたが、土地の確保のメドが立たずに断念。
その後、立ち上がったのが「庁舎の移転計画」です。
新たな庁舎の候補地は、愛知大学車道キャンパスがある場所。大学の土地と建物を再利用し、区役所として整備する計画です。
最寄りの地下鉄車道駅からは徒歩2分の立地。地下鉄利用者にとってはアクセスが便利になる面もありますが、一部の区民がこれに反発。移転先の愛知大学の校舎が、すでに築21年であることやアスベストが使用されていることなどから、現在の場所で新しく建て直すことを求めています。
6月に東区役所の「移転反対」を訴え、市に提出された区民らの署名。先頭に立っているのが前の名古屋市長、河村たかし衆院議員です。
河村氏が市長時代に立ち上がった「移転計画」ではありますが…。
「区民が納得していないのに、そんなもん出来るわけねーがや」(河村たかし前市長)
割れる区民の意見

国政に転身した前市長も加わった「移転」をめぐる計画の迷走。
そんな中、名古屋市は9月、移転先の候補である愛知大学の校舎の見学会を開きました。
区民の意見も割れています。
「(今の東区役所は)古いし狭いし。愛知大学は広いし明るい。築21年と言っていたが、案外きれい」(70代)
「築20年経っている割にはずいぶんきれいだし、面積も十分にあるのでいいのではないか」(40代)
「区役所にしてはもったいない、高さも必要ない。こんなに立派なのはいらないので、せいぜい3階くらいでいいのではないか。高い買い物ですねという感じ」(50代)
整備の問題は他の区にも

区役所整備をめぐる問題。東区だけのことではありません。
築49年になる天白区役所。河川が氾濫したときに浸水の可能性がある場所として、ハザードマップに記載されているため、災害時への不安を抱えます。
築40年を超える区役所は、東や天白を含め、市内に8カ所あります。
建築計画に詳しい専門家は、財政の面からも進められる計画にどんどん手を付けていくことが重要だと指摘します。
「一番大きいのは各自治体に財政的にそこまでの余力がないということ。同じ年に2つも3つも整備をしていく体力はないので、順々にやっていかないと仕方がない。もちろん地域の人たちの思いは非常に重要なので尊重しつつも、プロセスが長くなりすぎるがゆえに、ほかが進まないというのは避けた方がいい」(名古屋大学大学院 工学研究科 恒川和久教授)
移転するか、同じ場所に整備するか。
名古屋市の広沢一郎市長は、東区役所の整備方針について「今年度中に判断をする」としています。





