
“尿はね”をインキ技術で見える化 老舗企業「シヤチハタ」の挑戦 “推し活”ブームにのって「アクスタ」で生き残り目指す企業も…

一時代を築いたいわゆる老舗企業。時代の流れで苦境に立たされる中、"発想の転換"で生き残りをめざす、ある老舗企業を追いました。
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シヤチハタの100年の歴史と万博効果
1970年に開かれた大阪万博。この万博で世界に名を轟かせた企業が名古屋市西区に本社を置く「シヤチハタ」です。
遡ることちょうど100年前、1925年に創業したシヤチハタは当初インクを補充せずに続けて使えるスタンプ台を発売。
高度成長期の中、1965年にはインクを内蔵した「Xスタンパー」を発売し、大阪万博の翌年には売り上げが2倍に!
1982年にアメリカ・ロサンゼルス市内の郵便局で撮影された映像には…
(記者)
「シヤチハタのインキ台のいらないスタンプは職員の間で好評で、これを採用する郵便局が徐々に増えてきています」
(シヤチハタ広報室 櫻間海咲さん)
「(開発から)5年後に大阪万博があって、実際に「Xスタンパー」というポンポン押せるスタンプを置いて皆様にスタンプラリーを楽しんでいただき、そこから認知度があがった」
「インキ」の技術使って“尿はね”を見える化?
万博をきっかけにシヤチハタの技術は海外にも認められました。しかし、90年代にパソコンが爆発的に普及し、ハンコ市場は徐々に縮小。
経済産業省の調査によると、1992年のはんこや朱肉などの出荷額は約470億円でしたが、3年前には約192億円と半分以下になっています。
(シヤチハタ 舟橋正剛社長)
「スタンプ、ハンコの需要は段々少なくなる。そこに対して我々の技術の延長線で何ができるのかというのを一生懸命考えながら、新規事業の開発をしている最中です」
そんな中、いま開発しているというのが…
(シヤチハタ広報室 櫻間海咲さん)
「便座や便器につく尿はね汚れの上に、吹きかけるだけで、汚れがあるところだけ色がつく商品です」
掃除をしても、きれいに拭き取れているか見えない「尿はね」の汚れを青色のインクで「見える」ようにした商品。インクは市販のアルコールシートなどで拭き取ることができます。
(シヤチハタ 広報室 櫻間海咲さん)
「ある社員がトイレ掃除をしていても、『臭いが残っているような気がする』という悩みを持っていて、そこでシヤチハタのインキの技術を使って、尿はねを見える化できたらいいんじゃないかというところで開発を始めました」
“優しいインク”で子どもの成長を記録
また、「赤ちゃんの手形を残したい」という声を元に生まれた「月齢おててカードキット」。肌に優しいインクを使い、にじみが少なくきれいな発色が特徴です。
(シヤチハタ 商品企画部・松井花恋さん)
「子どもの手形をInstagramにアップして、毎月投稿を重ねて成長を実感する人が既にいたので、そういった人に利用してもらいたい」
若手でも、社長が出席する企画会議に参加することもあるそうで、様々な世代からの意見を商品に反映させています。
(シヤチハタ 舟橋正剛社長)
「単純にハンコメーカーじゃなくて、こんなこともできるんだねという。シヤチハタはハンコだけど面白いよねというようなところを目指していければ」
帝国データバンクによりますと、設立から100年以上の老舗企業の倒産は、去年だけで145件。おととしの96件から急増していて、物価高や人手不足の中で企業の"生き残り戦略"が鍵となっています。
“推しとデートしている気分”になれるグッズ
こうした中、ある物に目をつけて「赤字から大逆転」をとげた老舗企業が。
いま、若い世代の間で流行している「アクリルスタンド」。通称「アクスタ」です。厚さ3ミリほどのアクリル板にキャラクターやアイドルなどの画像がプリントされています。
将棋の藤井七冠もアクスタに。公式のグッズとして販売していることも多く、“推し活”として購入する人が増えているんです。
街で聞いてみると…
「これアイドルのアクスタです!なぜ持ち歩いている?(鞄に入れると)かわいいかなと思って。推しと一緒に歩ける、持ち歩ける」
「ご飯を食べに行った時とか、おしゃれなカフェに行った時に(アクスタと)写真を撮る」
「一緒に歩けるし、(推しと)デートしている気分」
さらに、こんな人たちも…
「息子のアクリルキーホルダー。Instagramでこういうものが作れると見て。このかばん自体持ち歩くので、ずっと見ていられるし、子どもの思い出としても取っておきたかった」
「自分風のイラストがあってアクスタの会社にお願いして、そのイラストで作ってもらった。バーテンダーというか飲み屋さんをやっているので、"来てくれてありがとう"みたいな感じで(渡した)」
Q.アクスタ持っていますか?
「持っています!人型のアクスタが多いので、そのままの推しが見られるということで買っている」
“推し活”で黒字に 培った印刷技術で大逆転
今や市場規模が3.5兆円に上るといわれる「推し活」。その必需品がアクスタなんです。
そんな「アクスタ」に目をつけたのが名古屋に本社を置くBeBlock(ビブロック)。こちらでは、出版社や個人からアクリルグッズの注文を受け付けています。
(BeBlock 松村祐輔社長)
「自分の描いた作品をアクリルスタンドにしたいニーズはある。推し活でグッズを買ったり、いろいろ自分で物を作ったりとか、そういったことが一気に市場の波がやってきたという感じなので、今は"推し活ブーム"に乗っている感じ」
2016年に、オリジナルのアクリルグッズをホームページから注文できるサービスを開始。現在、売り上げはアクリル事業だけで年間10億円に上ります。
ビブロックは、1948年に名古屋の大須で松村社長の祖父が創業した「松村印刷所」が始まり。元々は役所から依頼された印刷物が売り上げの95%を占めていましたが、デジタル化の波で会社は赤字続きに…
(BeBlock 松村祐輔社長)
「“やり方は変えないと、このまま残れないだろう”ということだけはわかっていた。もうどんどんデジタル化していくから、紙はいらなくなることはないにしても、とてもとても減るだろうというふうに思って」
模索する日々が続く中、きっかけとなったのはコミックマーケットで見た"推し活文化"でした。
(BeBlock松村祐輔社長)
「いろんなグッズを買う姿を見て、購買の力みたいなものがすごいなと思って」
培ってきた印刷技術で作るアクリルグッズ。現在は、全体の売り上げの半分以上が「アクスタ」などの"推し活"商品で、念願の黒字に転換しました。
(BeBlock 松村祐輔社長)
「印刷というテクノロジーの中で我々は生きてきたというのはある。だからそこはやっぱりレガシーのような、大事にしながら色の再現性とか、そういったものはクオリティがどんどん高くなっている。求められる品質もどんどん高まっているので、そこは必死に付いていかないと」
時代の荒波を正面から受ける老舗企業。培った技術をいかしながら、発想の転換で新たな商品を生み出し続けています。