
工事費が3~4倍に!? 新築マンション価格高騰のナゼ 現場が挑むコスト削減の最前線

憧れの新築マンション。しかし、全国的に価格が高騰しています。背景にあるのが人手不足や資材価格の上昇です。建設現場ではテクノロジーやアイディアで少しでもコストを抑えようと工夫が進んでいました。高騰するマンション事情を取材しました。
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(矢作地所 牧野寿紀さん)
「まず、こちらは天井の高さに注目を。計画の段階では15階建てのマンションを計画していたのですが、何か特徴をつけたいということで1フロア減らす形になりますが、2メートル70センチの天井高にこだわっています」
こちらは名古屋市千種区に建設中の分譲マンションのモデルルーム。一番の売りは立地で、千種駅から徒歩3分という駅近物件で、隣には公園があります。
(矢作地所 牧野寿紀さん)
「昨今、駅から5分以内というより3分とか1分とかまで、こだわられるお客様が増加している傾向にあります」
JRと地下鉄が使える駅近の人気エリアで、1フロアを減らして天井を高くした贅沢な空間。販売価格が最も高い部屋は1.5億円近い、いわゆる億ションです。
コスト上昇に悩む事業者
マンションの価格は約10年前から全国的に上がっていて、東海3県の新築分譲マンションの平均価格は10年前の約1.4倍になっています。価格高騰の背景には…
(矢作地所 芝山真明 社長)
「全てを含めたマンションの工事費を考えると、平成1桁から2桁くらいにかけて(2000年頃)が一番安かったのですが、そのときと比較すると単純に3倍から4倍くらいになっていますかね」
資材の価格、運送費、人件費など工事にかかるコストは年々増えていて、事業者も頭を悩ませています。
(矢作地所 芝山真明 社長)
「単純に土地をタダで頂いたとしても、事業ができないエリアがいっぱいある。工事費だけで販売価格がもう(上がってしまう)このエリアで、この価格では売れないだろう。自分も信じられない、こんな時代が来るとは。それくらい工事費のインパクトが強い」
価格高騰で広がる注目エリア
採算が合うのは人気エリアの駅近などに限られ、マンション開発の土地選びには慎重にならざるを得ない現状もあるようです。そんな中、人気が高まっているエリアも…。名古屋都心部のマンション価格が高騰していることもあり、エリアを広げて購入を検討している人も増えているのです。岐阜駅から徒歩5分のマンションでは名古屋近郊に住む人からの問い合わせも多いといいます。
(名鉄都市開発 新美智康さん)
「岐阜のマンションは(これまで)岐阜市内や近隣の市町から注目を浴びて販売していたが、昨今の価格高騰で名古屋や尾張エリアの方が、こちらに目を向けていただいている」
このマンションはJR岐阜駅、名鉄岐阜駅から共に徒歩5分、JRの新快速なら岐阜駅から名古屋駅まで約20分で、職場が名古屋でも十分に通勤圏内です。モデルルームは一般的なメインターゲットのファミリーではなく、ある世代を想定しています。
コンパクトな間取りの需要が高まる理由
(名鉄都市開発 新美智康さん)
「もともとは4LDK(の部屋)だが、2LDKに設計変更。想定はシニア世代の夫婦の部屋」
マンションの価格が上がっている一方で、1部屋当たりの平均面積は年々小さくなっています。価格を抑えるために1部屋当たりの面積を小さくするしかないという売り手側の事情もありますが、生活スタイルが多様化し、単身者や“終の棲家(ついのすみか)”としてマンションを選ぶシニアが増えていて、コンパクトな間取りの部屋の需要も高まっています。
このマンションの間取りは1LDKから4LDKと幅広く、販売価格は2000万円台から8200万円です。
(名鉄都市開発 新美智康さん)
「(傾向として)面積自体は小さくなってきているというところもあるが、逆にシニアの方が子どもが巣立って2人で暮らそうとしたときに、ゆったり暮らせるという設計」
作業のデジタル化で省力化を
マンション価格高騰の原因となっている建築コストの上昇、中でも深刻なのが人手不足です。
(淺沼組 名古屋支店 森義洋 所長)
「慢性的な人手不足で残業規制も始まった。その辺の課題をどうやってクリアしていくか」
名古屋市中区で建設中のマンション、9月の入居開始に向け、仕上げの作業が行われています。
(淺沼組 名古屋支店 森義洋 所長)
「『スパイダープラス』の仕上げ検査機能を今使っていまして。検査をして項目をiPadで入力している」
使っているのは2年前に本格導入したスパイダープラスというアプリ。壁や床についた傷や汚れをアプリで記録し、修正を指示します。
この検査結果の指示は元々、紙に手書きで記入し配布していました。工事現場によっては数百枚に及ぶ図面の管理や、壁紙やタイルなど20以上の業者への指示も1つのアプリで管理できるため、時間短縮につながっているといいます。このアプリは現在、全国2000社以上で導入され、最近では大阪・関西万博の工事現場でも使用されました。
(スパイダープラス 田中萌亞名さん)
「3人組でやっていた作業を1人で行えるので省人化できるし、そこから抜けた2人は他の作業ができる。作業の効率化というところで使用してもらっている」
廃棄されていた建築資材を活用
高騰する資材のコストを少しでも抑えようという取り組みも。名古屋市中川区にある工務店の倉庫、中には建築資材がずらりと並んでいます。
(丹羽ハウジング 福井大輔さん)
「(Q:どういったものが置かれている?)現場で余った木材やベニヤ、ボード関係がある」
実はここにある建築資材の多くは端材(はざい)つまり余りなのです。
建築現場にとって一番困るのは資材が足りないこと。それぞれの現場で少しずつ多めに仕入れざるを得ず、どうしても端材が発生します。お金をかけて買った端材は、さらにお金をかけて廃棄することになり、悩みの種でもありました。この余りを生かすのが「ZAI(ザイ)」という名古屋のスタートアップ企業です。
(ZAI 神賀英悟 COO)
「使える状態なのに、わざわざゴミ袋に捨てやすいように細かく切り刻むとか、手をかけてわざわざ捨てている。一体職人何人分のお金を捨てているんだろうって」
コスト削減に続く試行錯誤
こうした端材を持っている企業と資材が必要な企業をマッチングするサービスを先月から始めました。余った資材を融通することで、廃棄コストの削減と購入費用の節約につながるといいます。
(ZAI 神賀英悟 COO)
「ひと現場で10万円浮けば、1~2か月で数十万、下手すれば100万円のコストダウンになる」
(丹羽ハウジング 福井大輔さん)
「現場的にも助かる仕組みだと思っているので」
長引くマンション価格の高騰、コストを抑えるための試行錯誤が続いています。