
自衛隊T-4練習機墜落 「入鹿池は偶然か意図的か」 元統合幕僚長が語る自衛隊パイロットの“決断” 離陸後2分間に一体何が? 愛知・犬山市 【大石邦彦が聞く】

5月14日、航空自衛隊のT-4練習機が愛知県犬山市の入鹿池に墜落しました。航空自衛隊小牧基地を午後3時6分に離陸しましたが、情報カメラの映像からは機体の不具合は確認できませんでした。しかし、わずか2分後の午後3時8分にレーダーから機影が消え、乗員2名が搭乗する機体は入鹿池に墜落しました。2分間に何があったのでしょうか。入鹿池への墜落は偶然だったのでしょうか。それとも必然だったのでしょうか。
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まず、T-4練習機は、中等練習機としてパイロットの養成に使用されるほか、多用途機としても運用される汎用性の高い機体です。今回は、修理のため小牧基地へ向かうF-15戦闘機に随行する任務に就いていました。任務を終え、T-4練習機で小牧基地を離陸し、所属基地である宮崎県の新田原基地へ向かう途中でした。
一般的に航空機事故の要因として考えられるのは、主に以下の3点です。
1.機体トラブル
2.操縦ミスなどの人的要因
3.天候
元自衛隊トップ、大学教授、愛知県内の空域に詳しいベテランパイロットらに多角的に取材しました。
目撃証言から検証する墜落の状況
事故当日は晴天で視界も良好であり、風もほとんどなかったため、天候が事故に影響した可能性は低いと考えられます。そうなると、機体または人的なトラブルの可能性が高まります。離陸直前の検査では機体に異常はなかったとのことですが、離陸直後に不測の事態が発生しました。低空飛行中であったことを考慮すると、バードストライクの可能性も否定はできません。ちなみに、パイロットの2名は、航空自衛隊の幹部クラスである1等空尉(飛行時間約1170時間)と2等空尉(飛行時間約480時間)でした。
かつての自衛隊トップで元統合幕僚長の河野克俊氏を取材し、目撃証言から検証してみました。まず、1つ目の目撃証言は、「機体を方向転換させて池に落としたように見えた」というものです。これについて河野氏は「事故を起こさないことが大前提だが」と前置きした上で、「過去にも有事の際は市街地を避けて墜落させたこともあった」と語りました。確かに、住宅地などに墜落すれば、一般市民を巻き込む大惨事となるため、市街地を避けて墜落させる指導もあったということです。
実際、1999年には、埼玉県内の基地を離陸した自衛隊機が狭山市の住宅地を避け、民家から離れた入間川河川敷に墜落する事故が発生しています。この事故では、乗員2名は住宅地への墜落を回避するため、最後まで機体を制御しようと試み、脱出が遅れたため殉職されました。
偶然か意図的か…入鹿池への墜落
今回、2名の若い乗員の目には何が見えたのでしょうか。進行方向には住宅街に加え、観光地であり歴史的建造物も多く存在する博物館明治村がありました。乗員はこれらの状況を認識できていたのでしょうか。
次に2つ目の目撃証言である「機体がくるくると回転しながら機首から突っ込んだ」という状況について、河野氏は「機体を制御できないほどの緊急事態であり、入鹿池を選択する余裕はなかった可能性もある」と指摘しました。愛知県内の空域に詳しいベテランの現役パイロットは、「地上から見ると入鹿池は大きく見えるが、上空からは小さく見える。今回の墜落は偶然ではなく、意図的に入鹿池へ機体を向かわせたのではないか」との見解を示しました。
困難を極める事故原因の究明
自衛隊研究のスペシャリストでもある中京大学の佐道明広教授は、今回の事故原因について究明は非常に困難であるとの見通しを示しています。多くのT-4練習機に搭載されているフライトレコーダーやボイスレコーダーが、当該機には搭載されていなかったこと、そして機体が大きく破損しているとみられるからです。事故原因が解明されないとどうなるのでしょうか。これまでのケースでは、事故機と同機種の機体が使用停止となることがあります。このため、約200機あるT-4練習機が運用停止となる可能性も考えられます。
しかし、T-4練習機の運用停止は、自衛隊全体の運用に大きな影響を与えかねないと、佐道教授は強い懸念を示しています。パイロットの養成が遅れ、多様な任務に対応できる汎用性の高い機体が使用できなくなることは、自衛隊全体の運用に制約が生じることになるからです。
つまり、事故原因の究明が遅れ、運用停止が長期化すればするほど、日本の安全保障にとっての影響は拡大することを意味しています。そこで、自衛隊にとって一つの妥協点として考えられるのは、「T-4練習機という機種全体に問題があったのではなく、あくまで墜落した当該機に固有の原因があったのではないか」という結論を導き出すことだと、佐道教授は述べています。
近年、相次ぐ自衛隊の航空機事故。原因が明らかにならなければ、隊員の不安は解消されません。同時に基地周辺の住民だけでなく、国民の不安も消えることはありません。震災や台風などの自然災害において国民の信頼を得ている自衛隊だからこそ、事故に関する情報を積極的に開示し、国民と共有することが重要です。国民の不安は疑念を生み、最終的には不信感へと繋がりかねません。
CBCテレビ 解説委員 大石邦彦