
実は7割以上の親「備えはできていない」と答えた災害時の赤ちゃんの備え 防災士に聞く“もしもの事態”に備えて準備するべきこととは?

もしも、赤ちゃんと避難することになったら…

7月30日ロシアのカムチャツカ半島付近で発生した、マグニチュード8.7の地震により、愛知県や三重県など全国の広い範囲で出された「津波警報」。
さらに9月12日、三重県四日市市では猛烈な雨に見舞われ「土砂災害警戒情報」が発表されたほか、一時、「避難指示」も出されました。
こうした事態に直面した時、赤ちゃんと避難することになったらー。どのような準備が必要になるのでしょうか。
親の7割以上「赤ちゃんの災害時の備えはできていない」

実は、ベビー用品大手のピジョンの調査によると、1歳6か月までの赤ちゃんを育てる親の7割以上が、「赤ちゃんの災害時の備えはできていない」と答えました。「何を準備していいか分からないから」「時間がないから」といった声が聞かれたということです。
引用:ピジョン調べ(2021年5月実施 防災に関するアンケート調査 妊娠中から1歳6か月までのお子さまがいる方1270名)
能登半島地震で被災…親の声

実際に、2024年元日に発生した能登半島地震の際、赤ちゃんを連れて避難した親からはこんな声が聞かれたといいます。
乳幼児を連れて避難した親:
「避難する際に赤ちゃんの着替えを持ち出せなかった。洋服が足りない中で洗濯もできず、着替えを2日に1回にせざるをえなかった」
「赤ちゃんを抱いて、小さい子の手を引いて避難したことは本当に大変だった」
「ストレスで母乳が出なくなった際に自治体から缶のミルクが提供されて本当に助かった」
「避難所で過ごす際にいつものおもちゃが持ち出せていれば、子どもを落ち着かせることができたと思う」
(取材:石川県内の子育て支援団体)
赤ちゃんと避難する時に意識するべきポイント
では、実際にどのような準備が必要なのでしょうか。
「赤ちゃんの防災」の啓発活動に取り組むピジョンに聞いてみました。ピジョンの社員で防災士として講演なども行う横山さんは、4つのポイントがあると話します。

ポイント①【避難所への移動】
ピジョン株式会社 防災士・横山智里さん:
「避難するときは、「おんぶ」がおすすめ。両手が空いて足元も見えるので、抱っこより安全に移動することができます」
「また、避難所までの行き方を普段のお散歩コースに取り入れていつものコースにしておくと、いざというとき慌てずに避難ができますよ」
ポイント②【授乳・食事について】
「非常時は環境の変化やストレスでお母さんが体調を崩したり、一時的に母乳が出にくくなったと感じることもあります」
「その場合も母乳を与え続けることで母乳の量は回復していきますが、ミルクや調乳・授乳用品も備えておくと安心です」
「離乳食は、赤ちゃんが好きな、または食べさせたことがあるベビーフードなどを多めに準備しましょう。特にアレルギーがある場合は必ず準備してください。」
「開けてそのまま食べられる離乳食があると便利ですし、気持ちを落ち着かせるために、赤ちゃんが好きなお菓子を用意しておくことも重要です。」
ポイント③【トイレ・衛生について】
「オムツは圧縮袋に入れてなるべく小さくして持ち運べるように。おしりふきは体をふくこともできるので多めにあるとよいでしょう」
「同時にママは生理用品や母乳パッドなどの備えもしておくと安心です。」
「避難所では、口の中も不衛生になりがちなので、歯や口の中の 汚れをふき取るものなどがあると便利。」
ポイント④【リラックス方法について】
「いつもと環境が異なるため、赤ちゃんの気持ちが落ち着くお気に入りのおもちゃや絵本などがあると安心。避難所で使用する場合に備えて、なるべく音がならない(気にならない)おもちゃを用意しましょう」
ローリングストックで“もしもの事態”に備えよう

また、4つのポイントに加えて、日頃からの準備が非常に大切だと横山さんは話します。
ピジョン株式会社 防災士・横山智里さん:
「家で普段から使う物を少し多めに買っておき、古い物から消費し、常に備蓄できている状態を維持 する「ローリングストック」が重要です」
「ローリングストックの考えで家に置いておくオムツなどの数量の見直しをすることで災害への備えになります」
日頃から各家庭で災害時に備えて準備をしておくことの重要性。その背景には自治体が抱える課題もありました。
南海トラフ地震の想定 “妊産婦は 最大8万人”避難か
今後、30年以内で発生確率が80%程度と想定される「南海トラフ巨大地震」。
2025年3月に国が公表した南海トラフ巨大地震の新たな被害想定では、地震から1週間で避難所で過ごす妊産婦は最大で8万人にのぼると推計されています。
南海トラフ巨大地震を見据えて支援対策を講じる自治体にも課題が…愛知・西尾市

愛知県内で名古屋市に次いで、2番目に被害が大きいと想定される西尾市。現在の被害想定では、避難者数は最大で約7万人、その内約6割が避難所で過ごすと見込まれています。甚大な被害を想定し、災害時の赤ちゃんや親世代への支援対策を講じていますが…。市の担当者は課題があると話します。
西尾市担当者:
「ミルクの備蓄の方法に課題を感じています。粉ミルクや液体ミルクは空調設備のある庁舎で保存する必要があるため、災害時には各避難所から庁舎まで取りに来る必要があり、迅速な配布が難しいことがあります」
「災害時に備えて、オムツやミルク・哺乳瓶などの赤ちゃん用品を一定程度備蓄していますが、すべてのご家庭の必要を満たすには限りがあります」
こうした課題を解決するため、8月、西尾市はピジョンと連携協定を締結。
出荷期限が切れても食べられる幼児向けの商品を防災講座などで配布することで、各家庭での災害時における赤ちゃんの備えを啓発したいとしています。
いつ起こるか分からない“もしもの事態”。日頃から「4つのポイント」や「ローリングストック」で備えてみてはいかがでしょうか。



