注意が必要なリチウムイオン電池の突然発火に対応できる「消火袋」 ANAが発案し町工場の技術で実現

スマートフォンや携帯バッテリーなどに使われているリチウムイオン電池の発火には注意が必要です。
いま、万が一の事態に対応できる「火を消す袋」が注目を集めています。開発のきっかけは、大手航空会社が注目した町工場の技術力でした。

近年、航空機内で相次ぐ火災事故。その原因の1つとして、モバイルバッテリーの発火が指摘されています。過充電などで劣化したリチウムイオン電池は、内部にガスがたまり、まれに発熱・発火するケースがあるためです。
こうした事態を受け、国土交通省は7月8日、モバイルバッテリーを手元に保管するよう要請しました。
現場のアイデアから生まれた「消火袋」

そんな中、突発的な発火事故から空の安全を守るために開発されたのが、「消火袋」です。すべての全日空機に導入されているこの袋は、モバイルバッテリーなどが異常発熱した際に中に入れると、発火しても内部の特殊なフィルムが反応し、火を消し止めます。

ANA オペレーションサポートセンター 平賀一代リーダー:
「膨らんだり異常に熱くなったりしたものを安全に保管できる袋があったほうがいいね、というCAのアイデアから生まれました」
全日空がアイデアを形にするために声をかけたのが、大阪にある町工場「菊地シート」です。

1959年創業の菊地シートは、トラックの座席カバーや荷台の「幌」といったシート製品を主力としています。道路工事で使う高温のアスファルトを運ぶためのシートを開発した経験から、耐熱性や保温性のあるシート作りに実績がありました。
熱い金属部品を扱う企業向けに耐熱シートを袋状にして販売したところ、ホームページを見た全日空から問い合わせがあったといいます。

菊地シート工業 菊地茉璃子取締役:
「リチウムイオンバッテリーの発火、発煙に対してのリスク対策に、この耐熱袋が使えるんじゃないかという問い合わせがありました」
大手企業の技術を融合

さらに、全日空は火に「耐える」だけでなく、「消す」ことができるものを探していました。そこで見つけたのが、印刷大手のTOPPANが開発した、消火効果のあるフィルムです。炎の熱に消火剤が反応し、空間に充満することで火を消す仕組みです。
TOPPANの生活・産業事業本部の富井洋輔さんは、「我々の消火フィルムだけが仮に航空機内にあっても火は消えない。あくまでも菊地シートの耐火バッグがあって、その中に消火フィルムがあることで消火につながります」と、両社の技術の融合の重要性を強調しました。

菊地シートの「耐火袋」が燃え広がりを防ぎ、TOPPANの「消火シート」が火を消し止める。2つの技術を組み合わせることで、世界初となる「消火袋」が誕生したのです。
価格は1枚6万6000円ですが、すでにほかの航空会社からも注文が相次いでいるほか、日常的にタブレット端末を使う企業からも、多くの問い合わせが寄せられているといいます。
日本経済新聞社 竹内なな子記者:
「中小企業ならではの機動力や開発力が大手企業に届いて、新たなイノベーションが生まれました。リチウムイオンバッテリーの危険性が注目される中、今後の商品展開の余地はすごく大きいと感じています」

菊地シート 菊地さん:
「社会的意義も非常に大きい商品なので、販路を拡大していきたいです」