
熱中症は早めに初期症状に気づくこと 症状が出たら「全身」を冷やす【暮らしの防災】

2025年6月から、企業などに職場での熱中症対策が義務化されました。熱中症は個人の問題ではなく社会的な問題になっています。職場だけでなく、家庭・学校・お出かけ先など、あらゆる場所で熱中症対策が必要です。まれではありますが、熱中症は、重い後遺症を残すこともあります。今回はその対策と対処法を紹介します。
初期症状に気づけ!

初期症状は、頭痛・吐き気、意識昏迷・全身痙攣、脱水です。ふらふらしている、言動がおかしいといった軽い意識障害が出たら要注意です。一番危険な「熱射病」が疑われます。
初期症状が疑われたら、意識状態を確認します。簡単な確認方法は「ペットボトルの蓋を自分で開けて飲めるかどうか」という調べ方です。自分で飲めない場合は救急車を呼びます。救急車が来るまでは、涼しい場所に移し水道のホースを使って全身に水をかけ続ける「水道水散布法」を行います。(後述)
高齢者はゆっくり症状が出るので要注意

初期症状は高齢者も同じです。但し症状がゆっくり進むので、周りの人は注意が必要です。自分では「熱中症になった」と分からないかもしれません。話しかけた時の反応はどうか、食欲があるのか、周囲の人が気をかけてください。
「エアコンを使うことに抵抗がある人」も少なくありません。「エアコン無しでも大丈夫」「私は大丈夫」と我慢しがちです。ご家族や周囲の人はエアコンの利用を勧めてください。
予防策

「暑さを避ける」「こまめに水分補給」です。簡単に見えますが「何かに集中して対策を忘れる」「自分は大丈夫だろうと思う」など、ちょっとしたことが原因で熱中症をまねきます。
熱中症になった時、疑われる時の水分補給は「スポーツドリンクか経口補水液」を

熱中症になった時、疑われる時の水分補給にはスポーツドリンクや経口補水液が適しています。
スポーツドリンクの塩分濃度は0.1%、経口補水液は0.3%です。一般的な予防や水分補給はスポーツドリンク、症状が現れた場合は、経口補水液が適しています。水では塩分補給が出来ません。(症状が出る前は水やお茶でもOK)
熱中症は4種類 命にかかわるのは熱射病

熱中症は、暑さで起こる病気の総称です。熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます。一番、危険なのが「熱射病」です。
【熱失神】
暑い中立っていると、血管が開いて重力で血液が足のほうへ溜まって血圧が下がり、立ちくらみや失神が起きます。これが「熱失神」です。涼しい場所で足を高くして横になると血液が体をまわり、回復へ向かいます。
【熱けいれん】
運動で汗をたくさんかくと足がつったりします。これが「熱けいれん」です。汗をかいて体内の塩分が減り「低ナトリウム血症」になって、筋肉が収縮しっぱなしになるのです。塩分を含んだスポーツドリンクや経口補水液で水分補給・塩分補給をしてください。
【熱疲労】
汗をたくさんかくと脱水症状になって血液の量が減ります。さらに皮膚の血管拡張で脳に血液が届かなくなり、めまい・頭痛・吐き気などの症状が出ます。運動を止める、水分・塩分の補給、体を冷やすことで回復へ向かいます。
【熱射病 ※一番危険 命にかかわる!】
命の危険があります。体温が40℃以上になると脳機能障害が起き、体温調整ができなくなる可能性があります。心臓や肝臓、腎臓などの臓器不全も起きます。40℃を超えた状態が30分以上続くと命にかかわります。症状が出たら30分以内に40℃以下にしなければなりません。すぐに体に水をかけるなど冷却措置が必要になります。救急車を呼んで下さい。
症状が出たら全身を冷やす

最も救命率が高いのがバスタブなどで全身を氷水に浸ける「氷冷水浴法」です。しかし、大がかりです。一般で対応できるのが「水道水散布法」です。頭に水がかからないようにして寝かせ、水が口や鼻に入らないようにして、肩から足先まで水道の水をかけ続けます。
靴は脱がせ、衣服はTシャツ・短パンのままでOK。話しかけ続けて応答を確認しながら行います。本人が「寒い」と言うまで冷やすことが大切です。それができない場合は、「氷水につけたタオル」を全身に載せ続けます。とにかく全身を冷やします。
これまで「アイスパック」「冷たいペットボトル」「氷」を、太い血管が通っている部位(首・わきの下・足の付け根)に当てることを推奨されてきましたが、最近の研究結果からこの方法は体温低下率が低く、単独での処置は推奨されていません。
(監修:中京大学スポーツ科学部 松本孝朗教授)
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被災地取材やNPO研究員の立場などから学んだ防災の知識や知恵を、コラム形式でつづります。
■五十嵐 信裕
東京都出身。1990年メ~テレ入社、東日本大震災では被災地でANN現地デスクを経験。報道局防災担当部長や防災特番『池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ』プロデューサーなどを経て、現ニュースデスク。防災関係のNPOの特別研究員や愛知県防災減災カレッジのメディア講座講師も務め、防災・減災報道のあり方について取材と発信を続ける。日本災害情報学会・会員 防災士。