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氷上の格闘技に新リーグ…アイスホッケー『XHL』でゴール狙う“二刀流”選手氷上と宝石店2つのフィールドで躍動

11.21(金)19:30

　「氷上の格闘技」アイスホッケーに2025年、新リーグ「XHL」が誕生しました。新リーグに参戦する「名古屋オルクス」はプロチームながら選手の年俸は「ゼロ」。宝石店員として働きながら、スティックを手にゴールを目指す新人選手に密着しました。

■宝石店の“新入社員”は…アイスホッケーの“プロ選手”

　愛知県大府市の宝石店の新入社員、齋藤輝(さいとう・ひかる)さん、23歳。スーツに身を包み、丁寧に宝飾品を扱う凛々しい姿の齋藤さんには、もう一つの顔が。

「氷上の格闘技」アイスホッケー。2025年10月に新リーグの初戦を迎えた、プロチーム『名古屋オルクス』のフォワードの選手なんです。齋藤輝選手：「やる気満々です。果敢にゴール向かって、ゴール決めて、チームの勝利に貢献したいと思います」

まだ、あたりが暗い午前4時、斉藤さんは大きなバッグを肩にかけ、名古屋市港区のスケートリンクにやってきました。プロですが、選手たちは昼間それぞれ別の仕事をしています。チームで練習できるのは、営業前の早朝だけです。足や腕、顔にも防具をつけると、重さは10キロにもなります。

限られた時間で、未明からおよそ2時間の練習です。齋藤選手：「普段からこの生活してると、やっぱりちょっとずつ体は慣れていくんですけど、急にこういった生活やれって言われたら、多分できないと思う」体をぶつけ合い、時に倒れ込みながらも、目にも止まらぬ速さでリンクを駆け抜け、黒い円盤「パック」を奪い合う。アイスホッケーは、まさに「氷上の格闘技」です。

そのアイスホッケーに、今シーズンから新しいプロリーグ「XHL（エクストリーム・アイスホッケー・リーグ）」がスタートしました。「名古屋オルクス」のオルクスとは、フランス語で“シャチ”のことで「名古屋をアイスの街に」が目標です。

名古屋オルクス有波典GM：「ゼロからの人集め。賛同していただける選手だけではなく、スタッフも含めて、そういうところがすごく大変でした。（選手たちは）朝早い練習でしたり、恵まれた環境ではない中で、仕事をしながら頑張ってくれている」

■あきらめかけた夢『挑戦するなら今しかない』

　栃木県日光市出身の齋藤選手は、子供の頃、地元のプロチームの試合を観て、アイスホッケーに出会いました。日本体育大学に進み、キャプテンとしてチームを率い、2025年春に卒業しました。

リンクでの練習を終えた午前7時、朝食の時間です。齋藤選手：「八神（働いている会社）の社長がくれた肉です。体力とか体作りが大切なので、結構気にかけてくれます」

社会人1年目。故郷を離れ、名古屋での一人暮らし。部屋の片隅には、大学時代のスティックが立てかけられています。日本体育大学での4年間。仲間とともに氷上で汗を流した証です。

齋藤選手：「大学の時にオーダーメイドで作ったやつなんですけど、長さだったり角度だったりを自分で選んだりとか。（思い出は）ありますね。たまに触ったりとかして」しかし、思うように成績が伸びず、一度はプロ選手の夢を諦めたといいます。齋藤選手：「本当にギリギリまで教師をやろうと思っていたので、大学最後のインカレで思うような成績を収められなかったことから、ちょっとずつ『まだ続けたい』という気持ちがありましたね」その気持ちを後押ししたのは、大学の恩師で、オルクスを率いる佐藤育也監督でした。

名古屋オルクス佐藤育也監督：「『自分の中でアイスホッケーをやりたいという気持ちがまだ少し残ってる』と相談を受けまして、何事も挑戦したほうがいいんじゃないかと、一緒にまたホッケーやらないかと声をかけさせてもらいました」『挑戦するなら、今しかない』齋藤選手は、夢をかけて名古屋オルクスへの入団を決意しました。

■多忙な”二刀流”も『やるからには一流』

　午前10時、宝石店での勤務は掃除から始まります。そしてスーツに着替え、客を迎える準備をします。この日来店したのは、名古屋オルクスのキャプテン・梅野宏愛選手です。新人とは思えない落ち着いた接客ぶりに、職場でも信頼が厚いといいます。

勤務中の昼休み、弁当は朝焼いた肉とご飯だけです。プロのアスリートにしては質素ですが、実は、プロ選手としての年俸は”0円”です。厳しい環境ながらも、食事中に見ているのは、やはりアイスホッケーの動画、選手と社会人“二刀流”の毎日、夜明け前のリンクでの練習も週3回、地道に続けてきました。

齋藤選手：「どちらもやるからには一流目指さないといけないと思うので。（周りの）人が本当にいいので、その人たちを裏切りたくもないですし」

■ついに新リーグ開幕！待望の”初ゴール”は

　10月12日、アウェーの滋賀県大津市で迎えたXHLリーグの開幕戦。名古屋オルクスは試合開始から怒涛のゴールラッシュ。滋賀ブルーライズIHCに11対1で圧勝し、開幕戦を白星で飾りました。

そして10月18日、名古屋で迎えたホーム開幕戦。観客席300人のリンクには、立ち見を含めて545人が詰めかけ“超満員”となりました。選手の職場の仲間や、子供たちも声援を送ります。

＜試合前のミーティング＞「いろんな人が助けてくれてここまで来てると思うんだけど、でも実際に朝4時の練習、朝6時の練習やってるのはみんなだから。私生活削ってやってるんだから。今日ぐらい楽しんでいこうよ。きょうは絶対勝ちましょう！」試合は第1ピリオド、宿敵・東京ワイルズが立ち上がりから3点を先制します。追うオルクスは第2ピリオド開始6分、齋藤選手がこぼれ球をゴールに押し込みます。

待望の『プロ初ゴール』！待ちに待ったこの瞬間、チームメイトと抱き合います。

その後もオルクスは果敢に攻め続けましたが、ワイルズの壁は厚く2対7で敗れ、ホーム初戦を落としました。齋藤選手：「決めた後の声援があったので本当に気持ち良かったですし、お客様の前でゴール決められて本当に良かったと思います。特に自分の会社の皆さんがコーナーにいたんですけど、すごく自分の名前を呼んでいただいてた。もう嬉しくて（客席前まで）行っちゃいましたね」 “働きながら、夢を追い続ける”という選択。その覚悟は、結果として、少しずつ形になっています。

齋藤選手：「アイスホッケーがなかったら、自分には何も残らないので、このアイスホッケーで気が済むまでしっかりやりきりたいと思いますね。今の方に進んで本当によかったと思ってます。まずはXHLリーグで優勝したいっていうのが一番の目標」

氷上と宝石店、2つのフィールドで躍動する齋藤選手。リーグ優勝へ向けて、きょうも夜明けとともに氷上を駆け抜けます。 2025年10月28日放送