「升」が「冷凍ご飯の容器」に変身 社員の提案がコロナで窮地の老舗メーカーを救う 大ヒット商品開発秘話
岐阜県大垣市に升の生産で全国でトップシェアを誇る老舗メーカーがあります。コロナ禍で需要が減り、売り上げが落ち込んだ時期がありましたが、あきらめかけていた社長を救ったのは、従業員のアイデアでした。
「何をすればいいのか分からない。あきらめに近いですよね」。そう話すのは、酒器として使われる「升」を手がけるメーカー、大橋量器の社長の大橋博行さん。岐阜県大垣市にある国内シェアトップの老舗メーカーですが、コロナ禍によってイベントがなくなってしまい、多い月では75パーセントも売り上げが落ちたといいます。
大橋量器 大橋博行社長:
「当社も業績がものすごく悪くなりました。お祝いの席とか、みんなが出会う記念の場とか、升が使われる場が失われてしまったので、売り上げは激減してしまいましたね」
大橋社長は会社の立て直しをあきらめかけていましたが、従業員はそうではありませんでした。
営業部 チーフ 清水和紀子さん:
「社長にもう1度前を向いて頑張ってもらおうと思って、自分たちで商品を考えて社長に提案しました」
今までの升にないような商品を作りたい。清水さんたちはビールジョッキ、機械式ではない加湿器、ひのきでできたマスクなどさまざまな商品を開発。中でも大ヒットとなったのが、冷凍したご飯を入れる「COBITSU(こびつ)」です。
営業部 チーフ 清水和紀子さん:
「炊いたご飯を升の中に入れて、升ごと冷凍して升ごと電子レンジで解凍すると、冷凍ご飯が炊き立てみたいにふっくらおいしく仕上がる商品になっています」
主材料の国産ひのきの高い調湿性でご飯の水分を最適に調整します。「COBITSU」を電子レンジで温めると水分が蒸気となって余分な熱が蓋の隙間から適度に逃げ出すことで、蒸すように温めることができます。このようにして、冷凍ご飯でも炊き立てのように仕上がるといいます。
しかし、完成までは失敗の連続でした。
大橋社長:
「お茶碗に近い形にしたかったんです。継ぎ目が垂直、直角であれば木を組めるんですけど、これは斜めになっています。我々にとっては、普通の感覚ではないんですよ」
何百という失敗を重ねて最大の難関、斜めの継ぎ目の処理に成功し、納得のいくものが完成。おうち時間が増えたコロナ禍だからこそ、おいしくご飯を食べたいと人気に火が付き「COBITSU」は累計で3万個以上を売り上げる大ヒット商品に。売り上げも大幅に回復して、会社の立て直しもできました。
大橋社長:
「彼らが(従業員が)この会社を救ってくれた。情けない自分でも『やりましょうよ』と言ってくれた社員たちが、とってもありがたくてうれしいです。今もそうですけど、あのときは特に(社員を)宝のように思いました」
あきらめかけていたときに従業員に励まされ、会社の立て直しができた大橋さん。日本の伝統品でもある升の未来を考えています。
「升が今は人々の生活に必ずしも必要ではありません。生活の中で使ってもらえる升を開発したいと思っています」