「高所大好きな若者は来たれ」人手確保に苦労する鉄塔会社がクライマーに注目 ジムも作って積極採用

電気を送る鉄塔は私たちの生活を支える大切なインフラです。鉄塔の多くは、高度経済成長期に作られ、老朽化が課題になっています。鉄塔での作業は高所となるため、人材確保が難しい中、富山の会社がユニークな発想で全国から若手を採用しています。
危険な鉄塔工事と若者の参加

兵庫県南部で行われている電気を送る鉄塔の建て替え工事は、高さ60メートルの鉄塔で命綱のみが頼りです。作業の様子を見ていると、多くの若者の姿が見られました。彼らは一様に「怖いとは思わない」と話し、鉄塔からの特別な景色を楽しんでいます。
平野電業の「クライマー採用」戦略

平野電業の本社がある富山を訪ねると、会社が運営するクライミング施設が紹介されました。入社1年目の大隅颯馬さん(19)は、静岡の高校を卒業後、平野電業独自の採用活動「クライマー採用」で入社。就職のために富山県にやってきました。
平野電業の平野誉士社長は「クライミングをやる人は、最初から高いところ登るのが得意な人ばかり。仕事の習得すごく早いと思います」と話します。

日本の鉄塔の多くは、1960年代~80年代に建てられ、経年劣化が進んでいます。いま、建て替えや延命工事の必要性が増しているのです。しかし工事を担う作業員は、特殊な業務のため採用が難しく減少傾向に。そこで平野電業が考えたのが、クライミングと仕事の両立の支援でした。
クライミング施設の設立と利用

平野電業は北信越最大級のクライミングジムを建設し、電動式で壁の角度を変えられる1台700万円の設備も導入しました。社員は無料で利用でき、一般利用も可能です。施設では会社紹介ビデオを流し、採用活動にフル活用しています。今年は高校生の全国大会も開催予定で、応援に来る家族にも平野電業の社名をPRする狙いです。
採用活動の工夫と成果

大隅さんの入社を後押ししたのは、親のすすめでした。「大学に行こうと思っていたが、行きたい大学が見つからなかった。親に教えてもらってこの会社があると知りました」と大隅さん。平野電業の現場作業員は45人ほどで、2021年以降27人のクライマーを採用し、若返りが進んでいます。

平野電業 平野誉士社長:
「いまのところ、鉄塔が倒れたみたいな話は聞いたことがないんですけれども、この先30年、40年となった時にどうなるかというのは未知数。人手さえあれば、(鉄塔工事は)いくらでも仕事はあるという状況です」

日本経済新聞社 藤本真大記者:
「企業はあの手この手で担い手不足対策に取り組んでいます。例えば、北陸の企業では、送電線のたるみを自動測定する機材を開発しています。これまでは鉄塔に登り、目視でたるみを測定していました。電力を必要とするデータセンターなどの新増設が予想される中、こういった取り組みは、今後も重要になってくると考えられます」