
介護施設×入居者×大学生の“三方良し”…「老後を楽しくハッピーに」起業した20歳女子大学生が介護業界で挑む夢

「スタートアップ後進国」とも言われるニッポンで、介護業界の課題に取り組もうと、20歳の女子大学生が2025年5月、株式会社を立ち上げました。「老後を楽しくハッピーに」新たなサービスを追求する挑戦を追いました。
■「介護施設をハッピーに!」女子大学生が会社を設立
2025年6月、名古屋で大学生が考えたビジネスプランを競うコンテストが開かれました。このコンテストで2つの賞を受賞し、大きな注目を集めたのが、岐阜大学3年生の北川愛子さん(20)です。
北川愛子さん: 「シニアの方が当たり前の選択肢ができる。そんな社会を実現するために、我々は本気でこの事業に取り組んでいきます」
北川さんは介護業界の課題に取り組もうと大学を休学し、5月に「GIVELOVE(ギブラブ)株式会社」を設立、シニアが楽しめるイベント「岐阜シルバー文化祭」を企画しました。 マニキュアサロンや射的などのコーナーを用意して楽しんでもらいながら、大学生など若い世代とも交流しようというイベントです。 開催を前に、北川さんは自らチラシを配り、地域の人々に参加を呼びかけます。
北川愛子さん: 「私が見つけた課題が、介護施設に入居されている高齢者の方の孤独感や生きがいがないという感覚を何とかしたい」 厚生労働省の推計では、介護施設で働く介護士の数は2026年度に25万人が不足、団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年度には57万人が不足します。
人手不足による業務過多のため、すでにレクリエーションができない、個人に十分に向き合えない施設もあり、課題となっています。 北川さんが立ち上げた会社「GIVELOVE」は、大学生に時給1500円ほどの謝礼を支払い、介護施設で利用者の生活補助やレクリエーションを代行する事業を行います。
介護施設側は身体や食事など専門介護に専念でき、入居者は大学生の手を借りてやりたいことができる、大学生も職場体験ができて、介護にやりがいを感じることができると、まさに「三方良し」、みんなが幸せになれるサービスを提供したいと夢は広がります。
■きっかけは「大学の部活」夢の実現へ”切磋琢磨”
元々主婦になるのが夢だったという北川さんは、大学で「起業部」に入り、すでに起業した先輩たちから、大きな刺激を受けました。
先輩の杉本稜太さん: 「富有柿って岐阜が結構有名なんですけど、そういう日本の農産物を世界一にしていこうみたいな活動をやっています」 北川愛子さん: 「先輩みたいな未来を描けるような部員になりたいし、人になりたいなって思ったから」 起業部の部員はおよそ30人、定期的に介護施設で提供するビジネスプランをプレゼンし、他の部員や顧問からアドバイスを受けます。 北川さんも「GIVELOVE」の事業計画を説明し、ブラッシュアップを図ります。
北川愛子さん: 「大学生がスマホ活用の手伝いであったり、趣味のお相手、あとはお化粧サービスを提供させていただいております」 顧問の上原雅行教授: 「介護職員の方が前向きになると、介護される方も嬉しいという波及効果もあるのかなっていう」 北川愛子さん: 「このサービスを通して、どんな未来を描くのか自分の中で描き切れてなくて、みなさんの介護施設に入居されている方の生き甲斐を、もっと増やしていきたい」 「起業部」から実際に起業したのは北川さんで7人目です。互いに切磋琢磨することで、目指すべきことがより明確になります。
■「社会を変えたい」被災地で活躍する父が刺激に
北川さんは、両親と妹と弟の5人家族です。家族のバースデーパーティーで、盛りあげ役を務めるのは、父親の啓介さんです。
啓介さんは名古屋工業大学の教授で、空気を入れたシートの内側から断熱材を吹き付けて短時間で建てられる「インスタントハウス」と呼ばれる仮設住宅の開発者です。 2024年に能登半島で発生した地震と豪雨の被災地にも駆けつけ、屋外用と屋内用合わせて、およそ1400棟を建設しました。
北川愛子さん: 「父が5年間開発した、インスタントハウスが突如、能登に広がっていて、世界に広がっていくところを見て、こういう風に夢が世界とか、日本に対してインパクトを与えられるんだというところを知って、私も困っている人を助けられる存在になりたい、社会の構造を変える存在になりたいと感じました」 父親の啓介さん: 「『人のために何ができるか大事なんだよ』って、口では言ってたんですけど、能登に行った時にそれを愛子に伝えたいなという気持ちは、すごくあったんですよ」
「社会を変えたい」という愛子さんが、「介護」で起業したのには、理由がありました。 北川愛子さん: 「曾祖母が亡くなる前、生前に、私は『勉学が忙しい』とか、『部活が忙しい』とか…なかなか会うことができなくて。曾祖母もどんどんと『これやりたい』とか『あれやりたい』とか言わなくなっていったんです。最終的にはお葬式で、曾祖母の顔を見た時に、『ああ何もしてあげられたかったな』っていう」 「最期まで、やりたいことを諦めない社会にしたい」と、北川さんは介護施設を10カ所回り、100人以上のシニアから聞き取り調査をしました。
施設で暮らしていても、孤独を感じている高齢者が多いことに気づき、大学生が会話し、生活補助をするサービスを展開することを思い立ったのです。 経営が厳しい介護施設もある中で、採算はとれるのでしょうか? 父親の啓介さん: 「高齢の方、そういった経験したい人と思う人も多いと思うんですよね。人が喜んでくださったり、希望が持てるようなものは、間違いなくニーズにはなっていくので、その施設はそういうサービスが始まったというと人気が出てくるはずなので、そこに入ってきた人がそれのいわゆる対価になるんですけど、必要なものは出していく形になっていくと思うんですよね。だから、人に求められるものをやろうとしていることだけを考えてやっていけば、もう大丈夫だろうなとは思っていますね」
■ワクワクする未来へ…思い立ったらまっしぐら!
北川さんはシルバー文化祭の開催を目指し、学生に協力を呼びかけました。岐阜大学だけでなく、名古屋大学、名古屋工業大学の学生など、およそ250人が、スタッフに登録してくれました。 北川愛子さん: 「シルバー文化祭で音楽出展してくれる団体さんを探しに行きます。(あてはありますか?)ないです」 思い立ったらまっしぐら!北川さんの行動力で、仲間の輪が少しずつ広がっていきました。
迎えた「岐阜シルバー文化祭」当日。北川さんの思いに賛同した岐阜大学管弦楽団の演奏で、華々しく幕を開けました。
協賛企業から資金の協力も得て、ヨーヨー釣りや射的など、様々なブースが用意できました。参加するシニアだけでなく、学生たちも笑顔です。 中でも人気を集めたのが、マニキュアサロンです。
参加者ら: 「楽しいね。若返るね」
若者文化の「推し活」を体験するコーナーでは、アイドルや孫の名前など推しの名前を入れて、アクセサリーを作ります。 この日はシニア52人が参加しました。大学生は23人が参加し、初めての”給料”も渡すことができました。
参加した大学生ら: 「高齢者の方と関わる機会ができて、貴重な経験ですごい楽しいです」 「笑顔がすばらしいなと思って。それによって自分たちも笑顔になれる、そういう機会はあんまないので、すごくいいです」 文化祭の翌日、今度は会社設立後、介護施設での”初仕事”に挑戦です。依頼した和光会グループは介護施設など88施設を運営しています。 和光会グループの担当者: 「若い方がこういった高齢者施設に進んで来るということは、あまりないので、来てもらえるだけでもありがたいと。高齢者の方は若い方が大好きで、そこにいるだけで雰囲気が明るくなります」 楽しいレクリエーションをしてほしいとの依頼を受け、この日はスタッフに登録している看護学部の学生とともに、TikTokで人気の「トリコダンス」を楽しみました。
慣れないダンスに最初は難しいと話していた利用者も、1つ1つ振りを覚え、すっかり夢中のようです。
施設の利用者: 「楽しかった。どうもありがとうね」 北川さん: 「もっと頑張るので、よろしくお願いします」 北川さんはその後も、高齢者施設での事業を続けています。施設側の要望を取り入れ、若者の文化を体験するだけでなく、生け花や染物など古来の日本文化を楽しめる企画も行っています。
北川愛子さん: 「シニアの方がもっと生きやすく、もっと今にワクワクする、未来にワクワクする。そういう介護業界を作っていきたいです」 介護施設をもっとハッピーに!北川さんの挑戦はまだ始まったばかりです。 2025年6月26日放送





