
農業と福祉の“農福連携”…産業廃棄物の処理業者が養蚕事業でつくる未来「皆さんが生き生きと働ける環境を」


岐阜県下呂市に本社を置く「マテリアル東海」が、かつて盛んだった養蚕事業を復活させました。目指すのは、農業と福祉の連携『農福連携』です。
■最盛期は2500件の農家が今は「0」に…荒れた農地を使い養蚕事業へ
日本三大名泉の一つ「下呂温泉」が有名な岐阜県下呂市。温泉街の近くに本社を置く「マテリアル東海」は、創業30年、主に産業廃棄物の処理などを行っています。 マテリアル東海では、カイコを育て、繭から生糸を作る養蚕事業も手掛けています。

マテリアル東海の丁澄恵取締役: 「昔この地域では養蚕が盛んだったんですけど、今ではもうないので、それを私たちの手で復活させたいと思い、始めました」 養蚕業は、山間部など耕地面積に乏しい場所で栄えたといわれています。岐阜県蚕糸協会によると、現在の下呂市にも戦後、多い時にはおよそ2500件もの養蚕農家があったといいます。

しかし、中国など外国産生糸との競争や農家の高齢化などで衰退し、2013年には市内の農家の数も0になりました。 丁取締役: 「こちらが私たちの桑園です。地域の方から、荒れた農地をどうにかしてくれないかという相談がありまして、その農地が元々何をやっていたかを伺ったら、桑を育てる桑園だったんです」 そこで2019年、標高700mに長年放置された土地を開拓し、およそ2ヘクタールの広大な桑畑へと再生し、養蚕事業をスタートさせました。

ここでカイコの飼料となる桑が栽培されていて、廃棄物を活用した「たい肥」が使われています。
■人手不足の解消の先に…「農福連携」で目指すもの
実際に、カイコが育てられている場所を見せてもらいました。 丁取締役: 「今は、糸を吐きたい子たちを拾っている作業になります。ライトに照らすと、体が黄色に透けているのが分かると思います。この子たちは繭になる間近です」

5月末に体長1センチ前後の大きさだったカイコは、3週間ほどでおよそ7センチまでに成長しました。

その後、糸を吐いて繭を作るために「回転蔟(まぶし)」と呼ばれる道具に移されます。 丁取締役: 「お蚕さんは上に上がる習性があるので、天地が逆転して、それを繰り返してお部屋を決めていく。重みで自動的に回転する、昔ながらの製法となっています」

一度に育てられる数はおよそ12万5千頭です。カイコは、デリケートで病気にかかりやすく、飼育が難しいとされていて、人による細かい世話が必要とされます。 マテリアル東海では、地元の社会福祉法人と連携を取っていて、障害のある人や生活に困難を抱える人などが、自分たちのペースで作業します。農業が抱える人材不足といった課題に、一人一人が貢献しています。

57歳の利用者: 「なかなかこの年齢で雇ってくれるところがなくて。楽しいですよ。だんだんかわいくなってくるので、いいと思います」 別の利用者: 「おいしいものを食べてもらって、良い繭にするのが僕らの仕事」 社会福祉法人・さくらの花の松下香織理事長: 「飛騨地域では、人材不足が地域の課題となっています。そこで障害のある皆さんの力を借りようと、マッチングさせていただいてプロジェクトを立ち上げました。今、どんどんと機械化が進む世の中ではありますが、この仕事に関しては必ず人の手でやるということが必要になります。その中で、コツコツと継続してやるという利用者の皆さんの力は、本当に必要なものだなと思っています」

農業と福祉の連携=農福連携で作りたい未来とは…。 丁取締役: 「養蚕事業を通じて農福連携を進めていく上で、生き生きと皆さんが働ける環境を作ることをやっていきたいと考えています」