科学的解析から生まれた“魚雷バット”製造会社「頭の良いバット」ポテンヒット増えて“打高投低”になるか

米大リーグでホームランが量産され話題となっている「トルピードバット(魚雷バット)」。バットの先端部がかなり細く“魚雷”のような見た目から名付けられた新型バットで、日本のプロ野球でも使用する選手が増えてきています。専門家によると、トルピードバットが誕生した背景には選手の打ち方の変化が影響しているといいます。なぜ今トルピードバットが生まれたのか、取材しました。
話題のトルピードバット 日本のプロ野球選手も使用

福岡県にあるソフトバンクのファームの球場で、谷川原健太捕手が使用しているのは「トルピードバット」です。芯の部分が太く、当たると飛距離が出やすいと言われていて、先端にかけて細くなる“魚雷”のような見た目からトルピードバットと呼ばれています。
ソフトバンク 谷川原健太捕手:
「詰まった打球が芯で打った時と大差がないと感じた。けっこう詰まりが多いので、合ってるんじゃないのかな。詰まってホームランというのを打ちたい」
トルピードバットをつくっている工場が、愛知県豊川市にあった

この谷川原選手のトルピードバットをつくっている工場が、豊川市にあります。1954年創業の野球用バット製造メーカー、白惣です。
工場の中に入ると、職人たちが工作機械を使って木材を削り、バットをつくっていました。白惣では谷川原選手のほか、オリックスの廣岡大志選手のバットなど、年間10万本のバットを製造しています。そして白惣が新たに着手しているのが、トルピードバットの製造です。
HAKUSOH BAT JAPAN 松本啓悟さん:
「通常、先端部分が一番太いというのがバットの常識だったが、バットの先端部はかなり細い状態で実際打つ部分が太い形状に」

2025年3月末、大リーグ・ヤンキースの試合でトルピードバットを使用した選手たちがホームランを量産。トルピードバットは瞬く間に広まりました。設計書はありませんでしたが、松本さんはヤンキースの試合映像などを参考に手探りで完成させました。
HAKUSOH BAT JAPAN 松本啓悟さん:
「“頭の良いバット”だなと思いました。今が詰まり気味が多い、もう少し手元で捉えたい、引き付けたいなという選手は、プラスの面が大きい」
野球未経験の記者がトルピードバットを体験

トルピードバットの実力を知るために野球未経験の記者が振ってみました。まずはトルピードではないバットで振ると芯を捉えられません。続いてトルピードバットを振ると芯で捉えられることができました。
白惣には、トルピードバットに関してプロアマ合わせて40件以上の問い合わせがあり、急ピッチで製造を進めています。
HAKUSOH BAT JAPAN 松本啓悟さん:
「僕の感覚では流行りもので今年で終わりというものにはならない。みんながみんなこれになることはないと思うけど、誰かしらトルピードを使っている人がという残っていくバットになる」

トルピードバットをスタジオにも用意しました。多くの選手が使っているバットと比べると、確かに先端が細くなっています。
製造している白惣によりますと、試し打ちをした選手からは「今すぐ試合で使いたい」という人もいれば、「僕はもう使いません」という人もいたということです。選手によって合う合わない、感じ方はさまざまなんですね。
なぜ今、トルピードバットが生まれたのか。誕生した背景を専門家に聞きました。
トルピードバット誕生の背景には選手の打ち方の変化

40年以上、プロ野球などの取材を続けるスポーツライターの小林信也さんです。
スポーツライター 小林信也さん:
「科学的に解析されるような動きがここ数年、急速に高まってきた。打球速度、打球角度、回転数を測定すると、バットの先の部分で打ってしまいがち、詰まりがち、いろんな現状が見えてくる。今の形よりも、その選手が一番当たりがちな部分に重心を持ってきた方がいいんじゃないのという発想が出てきて、生まれたのがトルピードバット」
トルピードバット誕生の背景には選手の打ち方の変化も影響しているといいます。
スポーツライター 小林信也さん:
「近年のメジャーリーグの打ち方を見ていると、多くの打者が”ガチン”と打って、パワーで跳ね返す。そういう打撃が主流になってきている。そういう意味ではトルピードバットはボールが当たるところに最も重量があるので、どう考えてもそれが一番飛ぶ」
日本人選手がトルピードバットを使いこなすのが難しい理由

ただ、日本人選手がトルピードバットを使いこなすのは難しいのではと分析します。
スポーツライター 小林信也さん:
「真ん中を叩くのではなく、真ん中からやや下を斜めに切るような、球に回転を与える打ち方が正統派の日本の打撃理論。日本人が教えられる打撃技術だとトルピードバットだとうまくいかないと思う。トルピードバットを使った打ち方が当然求められる」
今後、トルピードバットは日本球界にどういう影響を与えるのでしょうか。
スポーツライター 小林信也さん:
「詰まった打球がいい打球になる。ピッチャーにとっては嫌なバットになる。(昨今の球界は)投高打低と言われているのは、投手のスピードがものすごく増したということと、細かい変化球が増えてきて打者が対処しづらい。トルピードバットによって投手からすれば打ち取ったはずの打球がヒットになってしまうということがあると、打撃が少し伸びていく可能性があるかもしれない」