
【戦後80年】90歳の女性が証言する「岐阜空襲」 街はまたたく間に火の海に…1人で逃げ惑った夜

80年前の7月に約900人が亡くなった「岐阜空襲」。当時、女性が目の当たりにした辛く、凄惨な現場とは――。

「本当に地獄のような生活をしました」
岐阜市で生まれ育った岩田貞子さん(90)は、10歳の時、地元・岐阜市で空襲に遭いました。
暗闇に激しい光が広がる1枚のパネル写真。光の中心にあるのは岐阜駅です。
80年前の7月9日午後11時ごろ。多くの人が寝静まったころ、アメリカ軍のB29による空襲がありました。
空襲は数時間に及び、約130機のB29が1万発以上の焼夷弾などを投下。
空襲の目標点は金華橋通りと岐阜東西通りが交わる場所が設定されていたといいます。
そこは柳ヶ瀬商店街などがある中心地。またたく間に街は火の海となりました。
「四日市のほうで爆撃があったとかって。お父さんがこれは大変だから、お母さんが臨月でおなかが大きいから、お前たちはおばの家に行けと」(岩田貞子さん)
頭上から降り注ぐ“爆弾の雨”

岐阜駅からほど近い木之元地区に住んでいた貞子さん。
父とまもなく臨月を迎える母、そして弟(8)、妹(6)、弟(2)の6人家族でした。
岐阜空襲の直前、アメリカ軍は三重県四日市市を攻撃。
ラジオを聞いていた父親が、貞子さんたちに近くの親戚の家へ避難するよう指示しました。
「乳母車に子ども(弟や妹)を乗せて、真っ暗な道を歩けと言われても、速度がでないから。子どもの歩き方だし」(岩田さん)
母親と一緒にきょうだいを乗せた乳母車を引いて歩き、親戚の家に到着する目前でした。
「急に空が明るくなって、何事かとビックリして。ものすごく明るいのね、照明弾などが落ちてきた」(岩田さん)
長良川が「火の川」に

頭上に降り注いできた、爆弾の雨。
驚き家から慌てて出てきた人たちの波にのまれた貞子さんは、母親ら家族とはぐれてしまいました。
流れに抗えず1人、長良川の堤防を進んでいると――。
「すごい音で、何て言うのか分からないけど『ザザッ』といったのか、『ザー』といったのか、焼夷弾がばらまかれて、大きな長良川が“火の川”に。それは子ども心にキレイに見えたね。防空頭巾が燃えている人もいるし、それから首だけ、爆弾が落ちたのか胴体がない人も。逃げるのに必死で誰も助けない。火がついていても、倒れた人の防空頭巾が燃えていても、みんな知らん顔」(岩田さん)
総務省によると、岐阜空襲で市街地の約7割が焼失。2万戸以上の家屋が焼け、死者は約900人、負傷者は1000人以上、空襲による罹災者は最大10万人だったといいます。
「いっぺんに火の手や煙が出ているのね。例えようのない、におい。悪臭っていうのが、人が焦げる、燃える臭い」(岩田さん)
1人爆弾の雨から逃げていた10歳の貞子さんは、夜が明けるころ、奇跡的に親戚の家にたどり着き、家族全員と再会することができました。
「田んぼのあぜ道を歩いていたら、お父さんが『貞子』って呼んで探していた。それでお父さんに抱きついて、何も言わない。ただ抱きついて泣いただけ。お父さんも『よく頑張ったな、早く行こう』と」(岩田さん)
80歳を超える弟たちも「記憶ない」

岐阜市の平和資料室には、空襲後に街で見つかったものなどが記録として展示されています。
岐阜市はこれまでも体験談を話してもらう機会を作ってきましたが、戦後80年を迎え、当時を知る人は少なくなっています。
貞子さんによると、現在80歳を超える弟たちですら当時幼かったため、空襲の記憶がないと言います。
Q.きょうだいに岐阜空襲の話をすると?
「全然分からない。大人になって『あの時どうだった?』と終戦記念日などに話をすると、『ふーん』って私の話を聞くだけで知らない」(岩田さん)
体験談は岐阜市のYouTubeチャンネルで公開

そこで、岐阜市は空襲の体験談を動画にまとめ、市の公式YouTubeチャンネルで5月から公開しています。
貞子さんは、その語り部の1人として参加しました。
「80年前に私たちが住む岐阜市で起きた岐阜空襲の悲劇を忘れず、平和について考えるきっかけにしてほしいと思っています」(岐阜市 男女共生・生涯学習推進課 林直志さん)
あの日から80年。当時を鮮明に覚えている人は確実に少なくなっています。
直接伝えることはできなくても、動画を通して経験や思いは未来をつくる若者たちへ託されます。
岐阜市が制作した動画を見た小学生が、資料室を訪れていました。
「小学校の夏休みの家庭学習で、自由研究のためにここに来ました。戦争のときの残酷さとか大変さが、だいぶ伝わってきました」(小学5年生)
「若い人たちに伝えたいのは、平和でのどかな日本の暮らしを守って。一言でいったら『戦争は絶対にだめ』。尊い命が奪われるし、命だけじゃなくて自然も破壊されるし、戦争だけはこりごりね」(岩田さん)