
「木を子供くらいに思わないと…」完熟梨の農園に樹齢80年超“じいちゃんの木” 梨作り名人の教えは3代目に


岐阜県美濃加茂市の「ヤマキ農園」では、木になったまま完熟させた梨を収穫して直売しています。皮まで柔らかく甘みが広がる味わいは評判で、直売所には完熟梨を求める人々でにぎわっています。
■最高の甘さで収穫…“樹上完熟”にこだわる
東海環状道の美濃加茂インターから車で約5分の「ヤマキ農園」は、桃や柿、梨を栽培しています。主力は「南水」や「秋月」などの梨で、11月頃まで生産が続きます。

朝5時半、3代目の長尾久さん(67)が収穫を始めます。 長尾さん: 「熟すと味がぐっと乗ってくる。“樹上完熟”で収穫するのが一番おいしい」 スーパーに並ぶ梨は輸送に耐えられるように完熟前に収穫したものが多いといいます。しかし梨は収穫後に甘みを増す“追熟”をしないため、甘さに限界があります。

しかし長尾さんは、完熟まで待ち最もおいしいタイミングで収穫しています。完熟すると皮が鮮やかな黄色になります。 梨は虫や病気、鳥などから実を守るため、1個1個紙の袋をかけ大切に育てられます。

長尾さん: 「もうこれは明日かなとか分かります。(袋から)透けて色が変わって見えるので」 長尾さんは長年の経験で、袋の上からでも完熟している梨を見分けることができます。 長尾さん: 「梨はみずみずしいのが魅力。味見しないといけない。木によって味が違うこともあるし、木が弱ってきた場合は元気な木とも違う」

完熟梨は柔らかくデリケートで、特に「幸水」は3日ほどで傷んでしまうといいます。収穫後は直売所に運び、大きさごとに選別。爪が当たるだけでも黒い筋が入るため、袋を外す作業にも細心の注意を払います。

収穫からわずか3時間後には「幸水」(4~5個1000円)が店に並びます。

傷むのが早い完熟梨を提供できるのは、直売所を持つ農園ならではです。
■収穫した梨は1時間半で完売
午前10時の開店前に、すでに行列ができていました。 客: 「生で食べるのとお供え用。シャーベットにも」 別の客: 「子供たちも孫たちも好き」

特別に皮ごと味わってもらうと…。 客: 「甘い。皮の周りが好き」 別の客: 「皮が全然苦にならない。特に今年は甘い」

親戚や友人に贈る人も多く、直接発送も可能です。梨だけで2万7000円分購入する客も。この日収穫した梨は1時間半で完売しました。

直売所の隣には「農園カフェyamaki」があります。この時季の定番は、梨が入った「yamakiの有機カレー」(1000円)に、梨の「クロワッサンサンドランチ」(850円)。

さらに、梨のジェラートに生の完熟梨、濃厚な梨ジャムを使った「梨パフェ」(1050円)が人気です。

客: 「梨パフェってあまりない。ここは旬のパフェが食べられて一年中楽しめます」 別の客: 「桃とイチゴとカキパフェもありますよ、秋になると」
■農園のシンボル“じいちゃんの木”
昭和初期から果樹栽培が盛んな美濃加茂市は、岐阜県内一の梨の生産量を誇ります。久さんの祖父・与曽松(よそまつ)さんが、この地を開墾して梨の木を植えました。

長尾さん: 「これは“じいちゃんの木”。昭和16年に初めて果樹園を始める時に最初に植えた二十世紀梨の木です」 幹の直径が1メートルを超える“じいちゃんの木”は今も現役で、今年も約800個の実を付けました。一般的に、梨の木は20年から30年が寿命と言われる中“じいちゃんの木”は樹齢80年以上で、家族で大切に守り続けてきました。

久さんの父・2代目の貞雄さんは、地元で“梨作り名人”とも呼ばれ、その教えは3代目の久さんに受け継がれました。

長尾さん: 「父親がこの梨の木に話しかけている。おいしい梨を作るためには、木を子供くらいに思わないとできないと言っていた」 子供を扱うように丁寧に。お客さんに「おいしい」を届けたい。ヤマキ農園のゆずれない思いです。 長尾さん: 「僕は67歳ですが、まだまだ若造。先輩方に色々教えていただきながら…。隣は100歳でも頑張っている方がいらっしゃる。負けていられないです」 樹齢80年を超える「じいちゃんの木」と共に、その甘みと想いは次の世代へ受け継がれていきます。 2025年9月3日放送