
重要視するのはデータと“手の感覚”…フレッシュチーズ作りに情熱を注ぐ若き職人 10年後の山間地域で描く夢


愛知県豊田市のチーズ工房「ファーベル」では、29歳の若き職人・安田翔吾さんが、地元酪農家の搾りたて牛乳を使って多彩なフレッシュチーズを手作りしています。イタリアやスイスで技を磨き、世界的コンテストでも受賞歴を持つ安田さん。ミルクの風味を最大限に生かす情熱のチーズづくりに込められたこだわりと、地元で愛される味の裏側に迫ります。
■放牧と運動が生む香り豊かなミルク
2024年12月、愛知県豊田市郊外にオープンしたチーズ工房「ファーベル」。

ここでは、愛知県みよし市出身のチーズ職人・安田翔吾さん(29)が、地元酪農家の搾りたて生乳を使ったフレッシュチーズを手作りしています。

手掛けるのは、ミルクの甘みとモチモチ食感が特徴の「モッツァレラ」、ヨーグルトのような酸味の「ストラッキーノ」、滑らかな口当たりの「ブラン」など5種類です。

朝5時過ぎ、安田さんが向かうのは約30頭の乳牛を飼育する「塚崎牧場」。 牧場主: 「外に出すと牛がリラックスするのと運動。牛が丈夫にならないと、いいミルクが出ない」 放牧による運動はストレスを減らし、コクや香り豊かなミルクを生みます。安田さんはこの味に惚れ込みました。

安田さん: 「すごい。生の草を食べると黄色くなるんです、牛乳って。熟成するとナッツの香りが出たり、なかなかないミルクです」
■世界も認めた技が生む極上フレッシュチーズ
工房に戻ると、まず搾りたての牛乳を63度で低温殺菌。風味を守るための温度です。次に加えるのが発酵に必要な乳酸菌。

安田さん: 「酸味を出したり固めたり、チーズの味を作る上で一番必要なものです」 チーズ作りは、生乳に乳酸菌を加えて発酵させ、酵素で固め、水分を抜いて成形する工程。 安田さん: 「乳酸菌に合わせた温度にしてあげないとベストな力が発揮できない」

乳酸菌の種類や投入のタイミング、温度のわずかな違いが味や食感を左右します。牛の品種や環境でも生乳の質は変わるため、その都度データを記録し、最適な方法を探ります。 安田さん: 「集めたレシピ集は、目指す食感やどのように仕上げたいかのヒントが詰まっている」

固めに使うのは「レンネット」と呼ばれる酵素。ミルクの状態で固まり方が変わるため、毎回タイマーで確認します。チーズ作りをはじめて4時間、ミルクの表面が固まってきました。データも重要ですが、できあがりを確かめるのは“手の感覚”です。 安田さん: 「これ(固まり具合)は数秒単位で変化していくので、ここはササっとやります」 固まった生地をカットし、水分を抜く作業を1時間ほど。最後に80度の湯で練ると伸びが出ます。

丸くちぎって形を整えれば、フレッシュなミルクのおいしさを閉じ込めたモッツァレラの完成です。
■きっかけは中学生の頃に見た放牧酪農のドキュメンタリー
こうして作ったチーズは、金・土・日の週3日限定で販売しています。 客: 「フルーツと合わせるとおいしいと言われたので試します」 「モッツァレラ」(682円)というと、トマトのイメージですが、安田さんのおすすめは、今が旬の桃。ミルクの風味と桃の優しい甘さがよく合うといいます。

別の客: 「同じ牛乳なのに味が違う。試食すると、その先のお料理が見えてきてすごく楽しい」 柔らかくクリーミーな味わいの「ストラッキーノ」(1128円)は、生ハムとの相性が抜群。

ひょうたん型の「カチョカヴァロ」(1323円)は焼くと外はカリっと香ばしく、ミルクの濃厚な味わいが楽しめます。

客: 「すごいトロっとしていて、溶けていく様子を楽しませていただきました」

安田さんがチーズに魅せられたきっかけは、中学時代に見た放牧酪農のドキュメンタリーでした。 安田さん: 「広大な景色のもと、自分のフィールドで牛を飼っているのを見ていいなと思って」 その思いを胸に、北海道大学へ進学。 酪農を学ぶ中で、チーズの楽しさに魅了されて行きます。

さらに、チーズの本場イタリアやスイスで修行。20代で、数々のコンテスト受賞を果たし、地元・愛知での工房開業という夢を実現しました。

この日は大分からチーズ作り20年以上のベテランの男性も来店しました。 チーズ職人: 「牛乳のおいしさをそのまま生かしている。彼はまだまだおいしいものを作れる技術があるから今以上のものが出ると思います」 安田さん: 「10年後には、豊田の山間地域で牛を離して小規模な放牧酪農を。そのミルクでチーズ作りをやってみたい」 自分のチーズで、地元を喜ばせたい。地元の恵みを生かしたチーズ作りに挑む安田さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。 2025年7月31日放送