能登半島地震で被害を受けた水道インフラ 復旧はいまだ道半ば 作業を阻む倒壊家屋と人手不足
2024年1月1日に発生した能登半島地震。石川県では能登半島を中心に最大で約11万戸が断水になりました。能登半島最北端の珠洲市は発災直後、市内のほぼ全戸に当たる約4800戸が断水。1年が経ったいまも291戸で水道が使えないままです。珠洲市の水道復旧の現状を取材しました。
名古屋市上下水道局による支援活動
珠洲市の水道復旧で指揮を執ってきたのが、名古屋市上下水道局です。これまでに延べ約500人の職員を派遣してきました。真鍋友宏さんもその1人。地震で甚大な被害を受けた町の1つ、宝立町(ほうりゅうまち)で上水道の復旧作業にあたっています。
宝立町では浄水場から各家庭の近くまで水を届ける上水道管の一部が地震で外れて間があき、漏水が起きていました。外れた部分を新しい配管でつないでいきます。作業開始から約2時間後に通水が開始され、水が流れ出しました。
水道管修理の困難さ
宝立町では、倒壊家屋が公道をふさいでしまい、道路の下にある水道管の漏水処理が困難な状況です。現在も、町の多くの場所で電柱は傾いたまま。倒壊した家屋なども撤去されずに残されています。
多くの方が力を尽くして復興に向かって歩みを進めていますが、まだ力が及んでいないことが分かります。
地震による水道被害について詳しい、金沢大学の宮島昌克名誉教授に話を聞きます。
――倒壊した家屋などの解体、撤去作業が遅れている理由を教えてください。
「大きな要因は、倒壊した家屋の数が圧倒的に多いことです。撤去するには住民の方の合意が必要です。その後、書類を提出して業者に依頼する、という順番になります。しかし工事業者の数は少なく、いくつかの条件が重なって撤去が進んでないのが現状です。
さらに水道の復旧が進まないと、住民の方が地元に帰ってくるのも遅れてしまいます。その結果、復興自体が遅れてしまうという非常に大きな影響があります」
――水道に関して復旧するためには、どのようなことが求められますか。
「まずはがれきを撤去する、そして道路を直す。その後に水道となります。そのため順次、作業を進めていくことが重要です。本復旧までは年単位の時間が必要なのではないかと思います」
トイレの横に仮設浄化槽を設置
珠洲市宝立町にある見附公園の公衆トイレ横には、仮設浄化槽がありました。浄化槽とは汚れを微生物に食べさせて、水をきれいにする装置です。この公園ではきれいになった水を川につながる水路に流しています。
震災前の見附公園は、トイレから出た汚水は、公共の下水道管を通って浄化センターまで運ばれ、きれいにしてから川に流されていました。しかし、能登半島地震でこの地域の下水道管は激しく破損。復旧までかなりの費用と時間がかかることから、仮設の浄化槽を設置することにしました。似たような仮設浄化槽は現在、宝立地区に約50基設置されています。
地上に仮置きしたのは、あくまで公共の下水道管の復旧を目指しているからです。
名古屋市上下水道局 坂之下 佳亮さん:
「基本的に浄化槽は地中に埋まっています。このように地上置きはそもそも珍しい状態です。今のところ目途は立っていませんが、なるべく早く復旧できるように我々も尽力します」
公共の下水道管が復旧していても使えないことも
珠洲市の町にある「つばき保育園」では、2024年3月に断水が解消し、全ての蛇口から水が出るようになりました。近くを通る公共の下水道管も復旧しています。
つばき保育園 加護清美園長:
「トイレはまだ排水ができないので、簡易トイレを使って対応しています。袋の中にオムツを入れて、そこで排泄をして捨てています。セットを作っておくことも仕事の1つになっていて、使用後は1回ずつ袋を縛らなければいけません」
つばき保育園では現在も、一部のトイレや手洗い場で水を流せない状態が続いています。
台所やトイレなどから出る生活雑排水は、「宅内配管」と呼ばれる敷地内の排水管を通り、公共の下水道管に流れています。しかし、つばき保育園は地震によって宅内配管の一部が破損。水を流すと漏水が起きるため排水ができません。
宅内配管を管理するのは行政ではなく個人です。工事をする場合は、独自に業者に依頼するしかないのです。園によると、修理を依頼した業者は他の工事が立て込み、宅内配管には取りかかることができていないといいます。
つばき保育園 加護さん:
「下水の排水ができれば、保育や子どもたちの動きも変わります。できるだけ早く工事が完了するといいな、と思っています」
県内業者の作業ひっ迫を受け、石川県は2024年5月、県外の業者を紹介する相談窓口を開設し、県外業者を利用する際の補助金制度も設けました。窓口は当初、2024年12月末までの予定でしたが、未だ宅内配管を修理できていない住宅や施設が一定数あると分かったため、設置期間は2025年3月末まで延長されています。
住民の意向に寄り添うことが大切
金沢大学の宮島名誉教授は「県外業者を利用する際の補助金制度を設けているとはいえ、その周知が十分ではなく、遅れているのでは」と話します。
さらに復興後のまちづくりに関連して、上下水道をどのように整備するのかが重要、と続けます。
「まちづくりの計画などは住民の合意が必要になるので、これからどうあるべきかを住民と行政が議論をしていくと思います。この町に帰ってきて復興して頑張るのか、もう少し便利なかたちに移行するのか。住民の意見を聞いて合意をつくっていくことが重要だと感じます」