
愛するペットの命を守るために…犬・猫の「多頭飼い」をしている飼い主の避難方法は?備え方を専門家に聞く

近年の自然災害の増加で、防災対策はペットと暮らす家庭にとって重要になっており、特に複数のペットと生活している方には複雑な課題となっています。実際に災害が起きたとき、多頭飼いをしている飼い主が取るべき行動や、いざという時の備えに役立つ情報を専門家に聞きました。

「多頭飼い」とは、犬や猫などのペットを2匹以上飼育することです。
多頭飼いと聞くと、4頭も5頭も飼っているようなイメージが浮かびますが、実際は2匹以上の動物を飼っていれば多頭飼いになります。
筆者も猫8匹、犬1匹を飼っている多頭飼いをしていますが、中には犬猫の保護活動などをしていて、自宅に犬や猫が数多くいる状態の人もいます。
2匹以上の動物と一緒に暮らすことは、多くの喜びを得られる一方で、その分複数の命を預かる上での責任も多いです。
特に災害が発生した際には、愛するペットたちと、どのように安全に避難するかが重要となってきます。
移動手段の確保が重要

自然災害がいつ襲ってくるかわからない時代だからこそ、ペットたちと安全に避難するために、私たちはどのような対策を行えばいいのでしょうか。
多頭飼いの避難対策について、岐阜市にある「NPO法人全国動物避難所協会」代表の奥田順之理事長に話を聞きました。
「多頭飼育の場合、(災害時の)移動には困難が生じます。そのため安全な場所まで移動できる手段を確保しましょう」(NPO法人 全国動物避難所協会代表 奥田順之理事長)
まずは、移動手段の確保です。
多頭飼いの場合、飼っているペットを一度に避難させることは、通常の動物避難よりも困難になることが予想されます。そのため、「車中泊のできる車を予め備えておく」など、飼い主とペットが安全に避難できる移動手段の確保が重要です。
同伴避難について

しかしペットと一緒に避難所に移動できたとしても、そこが必ず安全とは限りません。それは学校や公民館など最寄りの指定避難所が、ペット同伴可能な避難所ではない可能性があるためです。
また仮に受け入れ可能であっても、飼育しているペット全員を預かってくれない可能性もあります。その場合は、ペットを分散して預ける必要があるため、最寄りの避難先を事前に複数確認しておくことが重要です。
また同伴避難については、こんな問題点も――
「ペット同伴可の避難所は、(ペットを)屋外で預かることが原則であるなど、動物にとってストレスの高い状態になります。ストレスのかかる環境で動物たちの心身の不調が発生するリスクは、多頭飼育の方が高くなるため、指定避難所に避難することを優先するのではなく、それ以外の選択肢を用意しておくことを考えましょう。不特定多数の人が集まる避難所よりも、安全な場所に住む親戚や知人の家に避難する方が、人とペットにとってストレスが低い『避難先』になるため、平時から周りと話し合い、こうした避難先を確保してください」(奥田理事長)
そして災害が起きた全員が外への避難をするのではなく、「自宅が危険な場合に避難する」という認識をしっかり持ってほしいと奥田理事長はいいます。自宅が安全であれば、在宅避難を優先しましょう。
飼い主ができる取り組みは?

今後災害が起きる前に、事前に飼い主ができる取り組みはあるのでしょうか。
災害に備える取り組みとして、まず「自宅の安全性を上げる」ことが挙げられます。
「多頭飼育の場合でもそうでなくても、ペットの命を守るために家具の転倒や物の落下、割れたガラスなどで(ペットが)ケガをしないように、日頃から室内の防災対策をしっかり行い、災害に強い部屋づくりをしてください」(奥田理事長)
場合によっては引っ越しを考えるということも、選択肢に入れてほしいそう。
「(飼っているペットを)4匹以上連れた避難が現実的でない場合は、安全な地域・安全な家屋に引っ越しをすることをおすすめします。また、築年数の古い家屋に住まわれている方は、耐震診断と補強工事を行うようにしましょう。転居も工事もお金がかかりますが、命はお金には代えられません。多頭飼育をされる方は、それだけ守るべき命が多くなるということを意識し、全員の命を守れる準備を進めていただきたいと思います」(奥田理事長)
引っ越しを検討するなら…

では災害に備えて引っ越しを検討する場合、どのような場所が安全なのでしょうか。
奥田理事長は、「災害リスクの低い場所を選ぶ」ことと「建物の安全性」が、飼い主とペットの安全を守る上で大切だといいます。
まず災害リスクの低い場所では、水害や土砂災害のリスクが低い地形を選びましょう。高台は、洪水や津波のリスクが低いですが、土砂災害の可能性を確認する必要があります。低地や窪地は避け、河川や海岸から離れた場所を選ぶことで、浸水や液状化のリスクを低減できます。また地盤の固い台地や丘陵地を選ぶと、地震時の揺れや液状化のリスクが低くなります。
建物の安全性については、1981年以降の新耐震基準で建てられた建物を選びましょう。中でも、2000年基準を満たす木造住宅を選ぶ方が、より安心とのこと。耐震等級が表示されている場合は、等級が高いほど耐震性が高くなるため、等級が高いものを選んでください。
今からペットと一緒にできる防災対策は?

また、今からペットと一緒にできる防災対策として、「人用・ペット用共に非常用持ち出し袋を準備する」、「ペットをクレートなどに入れる練習」や「ペットと一緒に避難先まで避難する練習」などがあります。
そして日頃から、ペットのノミやダニなど寄生虫の駆除や予防をしたり、感染症予防のためにワクチンを接種しておくことも重要です。
事前に準備しておくといいものには、ペットを入れるクレートやリュックなどの準備、食料の確保などがあります。
「非常用持ち出し袋には、1週間分の食料を確保してください。人用は3日分と言われていますが、ペット用は手に入らないことが想定されます。そのためペット用の備蓄は最低一ヶ月分を用意し、期限のあるものはローリングストックしながら消費しましょう。また、療法食や幼齢・高齢動物用、犬猫以外のフード等は特に確保が困難になるので、それ以上の備蓄をすることをおすすめします」(奥田理事長)
ペットの命を守るための行動を

全国動物避難所協会では、飼い主の防災への心構えを記述した“ペット防災カレンダー”を毎年発行し、啓発活動を行っています。
飼い主は、ペットの数が増えるだけ避難の困難度も増します。そのため一人でも多くの飼い主が日ごろから防災の意識を高め、事前の準備を怠らず、ペットの命を守るための行動を普段から心がけることが大切です。