スタートアップの光と影 「狭いコミュニティの中に居続けることが怖かった」 起業家のバックアップ必要

国はスタートアップを経済成長の要とみてユニコーン企業を100社まで増やそうとしています。スタートアップ業界は一見、自由で華やかな業界に見られがちですが、精神的に病んでしまったり、ハラスメント被害を受けたりといったリスクもあります。中日BIZナビ編集部の勝股大輝記者に話を聞きました。

投資家からの支援を受けられなかったことで起業に一度「失敗」してしまった経験がある経営者を取材しました。スタートアップ・レミットエイド代表の小川裕大さんです。小川さんは2015年に最初のスタートアップを友人と立ち上げます。就職活動や転職などの質問やアドバイスをネット上でやりとりできるというサービスでしたが、資金調達がうまくいかず、会社を去りました。
レミットエイド代表 小川裕大さん:
「事業として伸ばしきることができなかったということに尽きるかな、と思っています。資金が少なくなっていく、残高がゼロに近づいていく中で、共同代表と意見が合わなくなってしまったところが、個人的には非常につらかったです」

「最終的にはうつ病になって抜けるって話ではあるんです。最終的にはベッドから出られない状況になって。スタートアップという狭いコミュニティーの中に居続けることが怖かったのもありました。『失敗した人』のレッテルを張られているのではないか、と。当時の自分はすごくつらかった、怖かったですね」
大手電機メーカーを辞めて、農業用のアプリを開発

スタートアップにはどうしてもリスクがつきまといます。それでも大企業を辞めて起業する人もいます。
大手電機メーカー勤めの安定した生活を捨てて、チャレンジしている人を取材しました。愛知県内で農業用のアプリを開発している畠山友史さんです。県内の田んぼで現在発生していて問題になっているのがカメムシです。イネの茎から栄養を吸い取り、実った稲穂も枯らせてしまいます。

畠山さんの開発したアプリ「TENRYO(天領)」は、AIでカメムシなど約100種類の病害虫の発生を予測して、効果的な時期に防虫対策をするのに役立ちます。7月に開発されたばかりのアプリですが、豊川市の農協職員と一緒に日々データを積み重ねています。

ひまわり農業協同組合
小林叙晴主任:
「異常気象もあるので、いままで農家が培ってきた経験がうまく役立つかどうか分からないので、アプリで予測してもらえれば、おいしいお米が作れると思います。活用していきたいです」
現在、豊橋市や豊川市のJAと協力してアプリを開発している畠山さんですが、起業したときは資金集めに苦労したといいます。

ミライ菜園 畠山友史さん:
「ベンチャーキャピタルも十数社回って、ようやく1社が話を聞いてくれて、出資してもらえたこともありました。農家の所得を向上させるために病害虫被害を減らす。その課題解決が本当に農家さんにとって役立つと信じているので、その信念が自分の中で燃えている限りは、『きちんとやってくぞ!』との気持ちでやっています」

一方、うつ病まで発症してしまった小川さんですが、うつ病を克服してからは再びスタートアップにチャレンジしています。現在は、海外からの送金や決済のシステムを手掛けるスタートアップを起業。事業も順調に伸びています。
レミットエイド代表 小川さん:
「個人的には『負けた』と自己評価をしていて、そうなると負けっぱなしのままじゃ嫌だな、と思ってもう1回トライしています。私みたいな欲深くて負けず嫌いで、何かをしてみんなに認めてもらいたい気持ちが強い部分を、社会に対してぶつけられる場所がスタートアップなんだとすると、こんなに魅力的な場所はないと思っています」

日本のスタートアップ業界を盛り上げるために大手監査法人EY新日本の藤原由佳さんは、「義務教育段階からの起業教育が必要との議論になる。とはいえ、いま起業を考えている人にも支援は必要になってくるため、ビジョンや心構え、資金調達、メンタリングなど総合的な支援の仕組みはやっぱり必要」と話していました。
(2025年8月25日放送 中日BIZナビ共同企画「東海ビジネススコープ」より)