「娘の成長を笑顔を見ていたかった…」 入院中に死亡した3歳の女の子 “アラーム”を止めたまま放置されたことが原因 退院間近に起きた医療事故 病院が過失認めて謝罪

岐阜県の総合医療センターで、入院中に呼吸用の医療器具が外れ、3歳の女の子が命を落とした医療事故。病院の調査の結果、非常事態を知らせるアラームを、止めたままにしていたことが事故の原因と分かりました。娘を失った母親の思いは。そして、医療現場での重大な過失は、なぜ起きたのか。背景には全国の病院が抱える共通の課題も見えてきます。
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(岐阜県総合医療センター 桑原尚志院長)
「この度の医療事故について、深くお詫び申し上げます」
きょう会見を開いた、岐阜県総合医療センター。去年7月、3歳の女の子、夢唯(むい)ちゃんが、呼吸用の医療器具「気管カニューレ」が外れて心肺停止となり、1か月後に亡くなりました。
入院中に起きた死亡事故。一体何があったのか。
モニタの中断操作は“引き継がれず” 放置され死亡
喉に穴をあけて取り付ける「気管カニューレ」は、強く固定されないため、外れる事がありますが、それに備えて患者には、血液中の酸素を測る装置が取り付けられ、異変があればナースステーションでアラームが鳴るようになっていました。
病院では、おむつ交換やリハビリの際、アラームが鳴らないようモニタを一時中断することがありますが、病院の発表によると、今回のケースでは中断操作の後、再開させるのを忘れていたのです。
病院のモニタの履歴では午前6時21分から、心肺停止で発見された午前8時59分まで約2時間半データは記録されていません。
その間に気管カニューレが外れたと見られますが、中断操作をしたことが誰にも引き継がれておらず、そのまま放置されたことが死亡につながったとしています。
あと少しで退院だった夢唯ちゃん
さらに、蘇生の処置でもアドレナリンの投与量が通常の半分から7分の1程度と、足りなかった事実も明らかにされました。病院側はきょう、全面的に過失を認めて謝罪。
(岐阜県総合医療センター 桑原尚志院長)
「アラームが非常に多い環境ということで、看護師が注意義務を十分果たしやすい環境にあったとは言えない。病院全体でこれらの問題に取り組むべきと考える」
調査で、モニタの中断操作と再開忘れが常態化していて、どう再開させるのかのルール作りも行われていなかった実態を明らかにしました。
遺伝性の難病「ヌーナン症候群」で、生まれつき心疾患はあったものの、元気に暮らしていた夢唯ちゃん。今回は一時的に体調を崩して入院し、あと少しで退院という時に起きた医療事故でした。
「夢唯の笑顔が今も忘れられない」
(夢唯ちゃんの母親 ことし8月)
「主治医から『夢唯ちゃんいっぱい頑張ったから、おうちに帰ることができますね』と言っていただいて、すごく喜んだ。その時の夢唯の笑顔と、長女が『夢唯ちゃん、退院したらいっぱい遊ぼう、おままごとしよう、お絵かきしよう』と言っていた姿が今も忘れられない」
病院側に何度も事実確認を求めてきた母親は…
(夢唯ちゃんの母親 きょう)
「調査結果で、事実・真実を知ってただただ悔しいです」
「今ごろ娘と一緒に過ごせていたと思うと、無念で仕方ない」
岐阜県総合医療センターでは、今回の医療過誤を受け、ナースステーションでのモニタの中断操作を原則禁止とし、30分ごとのチェックを義務付けるほかアラームの運用を見直す専門のチームを作るなどの対策を打ち出しています。
(夢唯ちゃんの母親 きょう)
「中断操作がされていなかったら、今ごろ家で娘と一緒に過ごせていたと思うと、無念で仕方ありません」
(岐阜県総合医療センター 桑原尚志院長)
「小児病棟だけではないと考えている。この病院だけでなく、多くの病院が危機感を持っている状態ではないかと推察する」
単純なチェックミスのために失われた3歳の命。しかしこの危険性は、他の病院にも存在しています。医療安全問題の第一人者、名古屋大学医学部附属病院 患者安全推進部の長尾能雅教授が重要な問題として指摘するのが、医療現場に広がっている「アラームへの意識の低下」です。
1分間に5~7回… 鳴り続けるアラームへの意識の低下
(名古屋大学附属病院 患者安全推進部・長尾能雅教授)
「“無駄鳴り”というのですが、本当に異常を身体が示していなくてもアラームが鳴ってしまうことがある」
鳴り続けるアラームへの意識の低下から、モニタの中断や再開忘れを招き、緊急事態を見過ごす恐れがあるのです。
(名古屋大学附属病院 患者安全推進部・長尾能雅教授)
「“アラーム疲労”などと言ったりしますが、本当に重要なアラームを認識できないリスクも指摘されて久しい」
この「アラーム疲労」問題に先駆的に取り組んだのが、さいたま市民医療センター。看護師として改善の先頭に立った冨田さんは。
(さいたま市民医療センター 冨田晴樹看護師長)
「1番にやらなければいけないのは、アラームの無駄鳴りを減らすことだった。(対策前は)1日で4000回くらい鳴っていた。1分間に5~7回。つまり24時間アラームが鳴りっぱなしということ。ただ、どう見てもアラームにナースは対応していない」
「心電図モニタの音は“環境音”」対策は?
病院がまず取り組んだのは「無駄鳴り」の防止。それまで誰にでもつけていた心臓や酸素のモニタを症状や年齢などに応じて、本当に必要な患者にだけつける、アラームが鳴る基準も患者ごとに設定するなど、ルールを定めたのです。
(さいたま市民医療センター 冨田晴樹看護師長)
「“心停止に近いアラームしか鳴らさない”というのを徹底して、アラームの数は今は(改善前の)10分の1くらいになった」
この上で、病院内の至る所にアラームを知らせるモニタも設置。本来の意味の緊急事態として認識できる様にしました。
(さいたま市民医療センター 冨田晴樹看護師長)
「心電図モニタの音は“環境音”なんです、その(鳴り続ける)環境であれば、必ずまた次が起こるので、やるべきことは病院としてその対策を立てるということが必要」
国は2015年、医療事故調査制度を施行させましたが、この10年で起きた医療事故は3533件。減ったのか増えたのか、それ以前に調査や記録をしてこなかったためわかりません。
(名古屋大学附属病院 患者安全推進部・長尾能雅教授)
「人間誰もがミスをする。医療者も必ずミスをする。でも私たちの場合、患者の命や健康被害につながってしまっては元も子もないので(ミスを)なくす。人類の課題と言ってもいい」
生と死が交差する医療の現場で安全をどう高めるのか。重い課題を問いかけています。
CBCテレビ「ニュースクロス」2025年11月20日放送より





