
「寿司ネタたっぷり」巨大海鮮タワーの食品サンプル “魅せる食品サンプル”生み出す若き職人の精緻な技術

おいしそうな海鮮がたっぷりと盛られた「巨大海鮮タワー」。デカ盛りグルメと思いきや、イベントなどで使われる“魅せる食品サンプル”だ。業界のトップランナー「いわさき」(大阪市東住吉区)は、多くの人に興味を持ってもらうためにあえて実在しない驚きの作品を制作している。
今回は「いわさき 京都工場」(京都市南区)で働く若き2人の職人に密着した。
芸術作品「見せる」から「魅せる」へ

日本で初めて食品サンプルを事業化した「いわさき」は、年に1回、常識にとらわれない“魅せるサンプル”の社内コンペを開催。職人たちが趣向を凝らした斬新な作品に挑みその腕を競い合う。
若きエース職人の1人目は、2024年の社内コンペで金賞を勝ち取った内藤剛さん。パイナップルを木づちで割った様子をダイナミックに表現した。

取締役の北出真司さんは「彼は材料の知識も豊富。いろいろなことにチャレンジをします。『内藤君の作品だな』と見ただけでわかる。それだけ躍動感のある作品を作っているんです」と評価する。

そんな内藤さんに「焼きそば」のサンプル作りを見せてもらった。まずは麺づくり。ボウルに白い樹脂を搾ってためていく。洗剤が入った水が樹脂のくっつきを防いでくれるそう。

固まった麺を鉄板や宙に浮いたヘラ(接着剤と針金で固定)に盛り付け、ニンジンなどの具材を置いていく。調理のワンシーンを切り取ろうというのだ。

次はソースを全体に塗っていく。最初から麺をソースの色にした方が早いように感じるが、調理中の様子を再現するため、あえてソースが絡まっていない部分と絡まった部分を作る。さらに、より“しずる感”や“実物感”を演出するため、鉄板についたソースに熱風器を近づけてコゲを再現した。
いわさき 内藤剛さん:
「お皿で出されるより臨場感があっておいしそう。その瞬間を切り取ってみたかったんです」

もう1人の若手実力派は、京都工場の主任に上り詰めた永濱沙さん(30)。「もともと、ものづくり系の仕事をしたいと思っていました」と話す。

今回、永濱さんが作るのは「わらび餅の持ち上げ」。まずは、樹脂をわらび餅の色に着色する。色合いこそこだわりのポイントで、微妙な調整を繰り返すととろみが増し、わらび餅そのものに。

とろとろの液体を容器に移し、きな粉に見立てた粉末をふりかけ、スプーンで一気に持ち上げる。樹脂は空気に触れると固まるため、そのままの体勢をキープ。しばらくして永濱さんが手を離すと、食べる直前を切り取った作品が出来上がった。

最後に永濱さんは「中に針金を入れると見える可能性もあるので、より自然にできるのが自分で持ち上げてキープする方法。できるだけ本物の一番おいしいタイミングを見て、それをどう表現できるか考えながらご飯を食べています」と、制作秘話を明かした。
※濱の右は「ウ冠」に「眉」、眉の目は「貝」