町工場地帯に廃工場再利用で「焼き肉店」 コストダウン&競合少なく「逆転の発想」に活路

愛知県あま市甚目寺町の町工場が立ち並ぶ一角に、ぽつんとたたずむ焼き肉店があります。人通りが決して多いとは言えない場所に、なぜ店を構えているのか。その裏には「逆転の発想」の経営戦略がありました。
廃業した工場や倉庫を再利用した焼肉店

ロースターで焼かれるサシが入ったA5ランクのロースに、鮮度抜群の生タン塩。あま市にある焼肉店「フジサン」です。食肉卸や飲食店などを手掛けるスリーウェイズが、運営しているとあって、肉の質にこだわっています。
ただ、店内には席ごとの排煙ダクトがありません。あるのは、壁に取り付けられた換気扇4台です。

フジサンは現在、県内に3店舗と滋賀県に1店舗に合わせて4店舗。いずれも廃業した工場や倉庫を再利用しているんです。
焼肉フジサン 入交祐三店主:
「周りが工場ばかりの場所なので、とにかく家賃が安いです。場所はあんまりこだわりはなくて、借り手が少ない元工場とか倉庫であることが決め手です」
家賃は8万円、「逆転の発想」で郊外に出店

甚目寺工場店の家賃は月8万円。都心部に比べると5分の1程度です。ただ、周りにあるのは町工場ばかり。人通りは決して多いとはいえません。飲食店は通常、繁華街をはじめ、人通りの多い場所に出店することが基本です。
焼肉フジサン 入交店主:
「逆転の発想ですよね。(都心部だと)競合が多かったりとか、家賃が高かったりとか。家賃が高いと、利益を出すことが大変。競合がいないので、焼肉だけじゃなくて飲食店が少ないので、この辺に住んでいる人はここに来てくれることが多いです。
卸もやっているので、肉の質には自信があります。一度来てもらえたらリピートしてもらえる自信はありますね」

人気店にするための価格設定にもこだわっています。
焼肉フジサン 入交店主:
「例えばタンは一般的なお店だと、上タンとして使う部分を並のタン塩として使っています。ほかのお店だと2000円弱ぐらいはする。うちは1人前1180円で提供しています」
この価格を実現するための工夫がありました。ビンや缶、ペットボトルといったドリンクはグラスに移さず、そのまま提供。スタッフがドリンクを作る手間をなくして、人件費を削減しています。

席ごとの排煙ダクトがないのも理由がありました。
焼肉フジサン 入交店主:
「1テーブルにつき50万円や60万円するんですよ。初期投資をできるだけお金がかからないようにしているので、良いお肉を少しでも安く提供できます」
約20席が満席になる人気店に!

いまや近隣住民だけでなく県外から来る客も。平日でも店内の約20席が満席になる人気店です。地元の人も「歩いて行ける範囲ではなかなかない。飲んで歩いて帰れます」「工場だった建物が空いているよりは、いいことじゃないですか」「防犯上もね、何もないよりは」と評価します。

元工場などの使われなくなった建物は、近年、放火の標的にされたり、犯罪グループに利用されたりするケースも少なくありません。
焼肉フジサン 入交店主:
「この辺が明るくなればな、と。元工場は放火が多いみたいなので、少しでも役立てたいです」

不動産の持ち主にとっては、使わなくなった工場や倉庫で家賃収入を得られるとあって、出店してほしいと問い合わせが増えているといいます。
焼肉フジサン 入交店主:
「我々も、お客さまも、建物の貸主も、地元も。四者がウィンウィンなビジネスモデルなんじゃないかな、と思います」